■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

何と言う・・・シャイアン 作者:七木ゆづる千鉄

第5回   要請その2・過去が原因でいじめるサトシ・未来が原因でいじめを受けるマコト
クラス全員の「いじめさせ」が終わった野間口小学校3年1組、これでやっといじめから開放される、と誰もが思ったその日に転校生が二人やって来た。名前はサトシにマコト。実はこの二人、いじめ対策委員がシャイアンたちに解決を要請した子達で、その問題はススムとミチル異常に難解なものなのだ。それは二人が転校生紹介を終えた所から始まった。突然、
「この野郎!」と叫んだサトシ、マコトに向かってパンチ・キックの雨あられを食らわせ、食らったマコトも抵抗すらせず、ただひたすら「ごめんなさい」を繰り返すばかりだった。この状況にクラス一同から起こるブーイング、だがそれでもマコトへのいじめを止めようとしないサトシに、ついにシャイアンが詰め寄った。
「サトシ君、マコト君ばっかりじゃなくて俺もいじめない?」この言葉にクラス中が驚いた(オネ夫・ともえちゃん・ススム・ミチルは除く)が、サトシは、
「俺がやるのはこいつだけだ」とそれを拒否した。しかしシャイアンも粘り強く「いじめてくれ」と懇願して、
「それなら一発、これだ!」と頭突きを一発シャイアンに食らわせた。そしてその時、シャイアンの脳裏にある映像が浮かび上がった。
「そうか、そうだったのか」とつぶやきながら倒れるシャイアン。攻撃されてシャイアンが倒れるなんて初めてのことだ。だからオネ夫とともえちゃんがシャイアンを介抱しようとしたその時介抱しようとした三人目がマコトだった。
「君まで、バラバラにされることは無いよう」という妙な言葉をつぶやきながら。シャイアンが一体何を見たのか、そして何故マコトがあんな言葉をつぶやいたのか、全てはこの日の放課後にはっきりする。

 放課後、三人は話し合いを設けた。
「今日先生から聞いたんだけど、あの二人は同じ孤児院で拾われたんだって」とオネ夫。何でも物心がついた頃からサトシはマコトをいじめていたという。
「それにしても、マコトさんどうしてサトシさんのいじめをあれだけ堪えているのかしら?『バラバラにしないで』って一体何なの?」ともえちゃんの言葉に、ぴくっと来たシャイアンはこう言った。
「これから母ちゃんに会いに行こう。それで二人の訳を見よう」訳とは一体どんなわけなのか?三人は「柔田柔術教室」を訪れた。そこにいた柔が何か映写機のようなものを用意していて、
「これからサトシ君とマコト君の関係の訳、柔三が彼の頭突きの際に見た映像を見せるわ」と言った。その映像とは・・・。

 まずサトシが見た映像、それは未だ自分が赤子だった「過去」のものだった。
泣き叫ぶ自分を背負う両親、そこに襲って来る何者か。どうやら物の怪の類のようだが、そいつが遂に両親に噛み付き、命を落とす。そのときの奴の顔・・・これはマコトだ!サトシは自分の両親を殺した奴がマコトだと確信しているのだ。

「こんなの見間違いって言えばいいじゃないか?」とオネ夫が言った。それに対してシャイアンは、
「普通だったらそうだろうけど、問題はマコト君もそう思ってるってことなんだよ」
と言って、マコトが見た映像を写し始めた。サトシに殴られるとき、いつもそれを受けているマコトの心まで見えて、だからあの時自分が失神したのだと言いながら。

 マコトが見た映像、それは今から何十年後の「未来」の映像だった。死体になった自分をバラバラに分解して、何処がどうなっているのか調べている一団。その団長の顔はサトシだ!マコトは、かつて物の怪だった自分がサトシ達に調べられる、そのことを予知していて、少しでもそれが伸びるようにサトシのいじめを敢えて受けていたのだ。しかし自分がサトシの両親を食い殺したと言う記憶は全く無い。何か悪いことをしたとは思っているが・・・。

 シャイアン達はうーんと考え込んでしまった。サトシが見た映像も、マコトが見た映像も、どっちも嘘ではないかも知れない。だからと言って一体何をどうすれば二人の関係が良くなるのか?その答えは簡単には出てこない。そんな時突然の来客、誰かと思えばススムとミチルだった。そこでシャイアンが今までのことを二人に話した。二人はしばらく考えて、これならどう?と言う案を出した。それは一体何かと言うと・・・。

 翌日、野間口小学校3−1で演劇が始まった。演ずるのはススム(S役)、ミチル(M役)、オネ夫(Mの父役)、ともえちゃん(Mの母役)。語りはシャイアンである。そこでの劇の内容は、昨日五人が見たサトシとマコトの映像そのもの、そしてシャイアンの、
「『過去』より『未来』より『現在』のことを考えろ!」という声の後で二人が握手をするというラストシーン。客席のほうを見ると、サトシが何かためらって、マコトガやはりためらって握手を出来ないでいる。そこでシャイアンは両手を一回叩いた。すると何か磁石にでも吸い付かれるように二人の距離が近くなり、そこで握手。
「ご、御免。ぼ、僕、ま、まさか君のお父さんとお母さんを・・・」と涙混じりに言いかけたマコトを、「もういいよ!」と制したサトシ、
「将来バラバラにするのは、俺じゃない。だから俺の両親を食ったのも、お前じゃない」と泣きながらつぶやいた。此処に野間口小学校第二のいじめ問題は解決した。俺達は、「現在」を生きているのだから、「過去」や「未来」に何があろうと気にすることは無いと言うことだとシャイアンは力説するのだった。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections