■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

何と言う・・・シャイアン 作者:七木ゆづる千鉄

第4回   いじめ対策委員の要請その1・贅沢ゆえにいじめられるミチル
 此処に、ある人達が今までのシャイアンの様子を見ていた。そして、どんないじめっ子にも怯まずいじめさせて行くその姿に、
「素晴らしい!彼なら私達の願いを聞いてくれるだろう。早く彼にアポを取ってくれ」と、全会一致でシャイアンにある任務を担って欲しいと要請をした。その任務とは・・・。
それから暫くして、柔田柔術教室にその組織から来客があった。
「どうか、お宅の息子の柔三さんに私達『日本いじめ対策委員会』の派遣大使をお願いしたいのです。宜しくお願いします」
この言葉に、柔はシャイアンに「どう?」と一言聞いて、シャイアンの「良いよ」の答を聞いて「引き受けても良いわよ」と答えた。
「但し、条件が一つあるわ。その大使は柔三だけじゃなくて、友達のオネ夫君とともえちゃんも加えること。良いわね」
「そ、それは宜しゅう御座います。何なりと付け加えて下さい」
 此処に、「いじめ対策大使・柔田柔三」が誕生したのだった。いじめ対策大使として、これからシャイアン達は日本中のあちこちを回ることになる。

 大使としての初仕事は、野間口小学校という所で、いじめっ子・いじめられっ子の難解な関係を修復するというものだった。どこが難解かというと、それはシャイアンの「行けば解るよ」との一言。三人は野間口小学校に、いじめ対策大使ということは伏せて転校生として行った。
 転校生の挨拶のときシャイアンが言った「趣味はいじめさせること」の言葉に早速、
「だったら俺がいじめてやろうか?」と、噛んで来たのがいじめっ子のススム、いじめられっ子のミチルのほうは目を丸くして、そんな人がいるの?と呆然としていた。それを見ていたクラスの皆は、何と「ススムに賛成」が100%!普通は賛成と反対と迷う人が三通り出来る筈なのだが、不思議に思うオネ夫とともえちゃん。
シャイアンは、「これが難解な理由だよ、二人は迷う人の役をやってくれない?」と呟いた。
 そして直後のススムのシャイアンへの一撃、シャイアンは股亀になって全く動じない。そんなことが暫く続いて、いじめ疲れたススムが「今度はミチルをいじめる!もう柔三は飽きた」と一言、これにクラス中が大絶賛の嵐となり、オネ夫とともえちゃんは又「何故?」と首を傾げた。シャイアンはそんな二人に、「参ったと言わない相手を避けるのは弱虫のすることだ」と言うように呟いた。そして二人がそう言うと、ススムは
「じゃあお前達をいじめてやる。俺が弱虫かどうか、確かめてみろ」と言って来た。
 これに対して口をきいたのは、何とミチル!
「良いよ、いつも通り僕をいじめてよ。どうせ皆も思ってるんだろう?贅沢な家の親を面白くないって」何と、いじめているススムの親が貧乏で、いじめられているミチルの親が贅沢という、普通なら立場が逆転してもおかしくないケースが今回の場合だったのである。此処でシャイアンがどんな態度をとるか、それはオネ夫やともえちゃんも想像できないものだった。何と、ミチルに向かって、「俺をいじめないか?」と誘って来たのである。
 これを聞いて一番驚いたのは言われたミチル本人だった。「本当にいいの?」と聞いたその時ススムがミチルに一撃を食らわせた。「良い訳がないだろう!」と言いながら。やられてうずくまるミチルを抱きかかえたシャイアンはススムに対してこう言った。
「もしこれ以上ミチルをいじめると言うのなら、俺が君に一撃を食らわせるよ」
 そしてシャイアンはオネ夫に「例のもの」を用意するように言って、オネ夫は「例のもの」・握り拳大の人形を用意して、其処にシャイアンが一撃!人形は粉々に砕け散った。そして更にこう言った。
「こうなりたくなかったら、俺をいじめることだね、親が贅沢だからいじめを受けるミチルと、親が一族の裏切り者だからいじめを受ける俺。親が惨めだからいじめを仕掛けるススムは一体どっちを選ぶ?」
 ススムはシャイアンの一撃に完全にびびって何も出来ないでいる。此処でオネ夫とともえちゃんは、
「♪ススムは弱虫か?スッスッム君はよっわむっしか?」と囃し始めた。クラスの他の皆は、此処で初めて三つに分かれた。ススムを「弱虫」と言うグループと、シャイアンを「横暴」と言うグループと、どっちと言えば良いのか解らないグループに。ちなみにミチルは、「弱虫」と言うグループにいるかと思いきや、何とシャイアンを「横暴」と言っている、それも一番前で。
 このことに気付いたオネ夫が、
「ミチルがススムをかばってるぞ」と言うと、クラス中が静かになり、その視線はミチルに注がれた。そしてミチルは、シャイアンを殴り始めた。
「・・・僕が殴られてる時の気持ちも知らないで、『殴らせてやる』なんて言いやがって、このええかっこしい!」と呟きながら。この日のミチルの行動は、この後のクラスの皆の気持ちを変えて行くことになる。

 その日の放課後、下校中のシャイアン・オネ夫・ともえちゃんの三人の会話。
「シャイアン、まさかミチル君に『いじめろ』なんて言うなんて、思いもしなかったよ。
「そうそう、それからススムさんの代わりにミチルさんが殴ってくるなんて、思ってもみなかったわ」
「多分、ミチル君はいじめられてる時、ある意味俺と同じ気持ちだったんじゃないかな」
「そう、それを見てたクラス中の皆も問題だよね。『いい気味だ』なんて拍手喝采してるなんて」
「ススムさん、ミチルさん、どっちも今どんな気持ちでいるのか心配だわ」
「よし!」と手を叩いたシャイアンは二人にミチルの家へ行くように頼んだ。自分はススムの家へ行くから、と。

ミチルの家は、小学校を望める高台の、高級住宅街にあった。オネ夫・ともえちゃんの二人はその豪勢さに少し戸惑いながらも、ミチルの家に入った。
「いらっしゃいませ。ミチルに友達が来るなんて、初めてだわねぇ」ミチルの母親は微笑みながら二人を迎えた。
「それじゃあ、お二人ともゆっくりしてね」と、母親が去ってから、ミチルはじっと黙って二人を睨むように見つめたままだった。
「きょ、今日シャイアン、ああ、あの図体のでかい奴だけど、あ、あいつが来て、ど、どうだった?」オネ夫の口調はたどたどしく、ともえちゃんが「もう!」とズボンを引っ張ったが、それに対するミチルの答えは、
「あいつ、一体何者なの?あんなに強いのに、わざと『いじめろ』なんて言って、僕が殴っても何にも言わないなんて、一体何なの?」シャイアンの存在が何なのか全く解らないという感じだった。
 ともえちゃんはそんなミチルにシャイアンのこれまでを全て話した。柔から聞いた柔田一族のことから、全てをである。
 これを聞いたミチルは、突然立って今シャイアンが何処に居るか聞いて、オネ夫がススムの所にいると言うと、すぐに
「謝りに行く」と、猛スピードで家を出た。慌てて追いかける二人、向かうはススムの家である。

 一方、ススムの家に来たシャイアンはその貧乏振りに目を見張っていた。そんな、家を眺めていたシャイアンに気付いたススムは「あっ!」と声をあげた。見ると全身が震えている。どうやら仕返しに来たのかと勘違いしているようだ。
「違うよ、仕返しじゃない。ただどうしてミチル君とあんな関係になったのか聞きに来ただけだから安心して」
「な、何でそんなことを聞くんだよ」
「実はね・・・」とシャイアンは自分達がいじめ対策委員から派遣されてきたこと、今回がその仕事始めであることを明かした。
「今後のために、君の気持ちが聞きたいんだ。頼むよ」
「解った。なら言うよ・・・」といじめを始めた理由を話し始めたススム。その内容とは・・・。そんな時、ミチルとオネ夫・ともえちゃんが二人の前に現れた。この時のススムの反応は・・・。

 ミチルの家の優雅さは、小学校入学のときも既に周知のことだった。貧乏な家に生まれたススムは、「先に仕掛けないと自分がいじめられる」とミチルをいじめ始めた。クラス中の皆もそんなススムを止める所か逆に囃し立て今日まで来た。まさかミチルが「いじめられてもしょうがない」と敢えていじめを受けていたとも知らずに。

 ミチルは二人に合うなり、土下座をした。
「柔三君。君の事を何にも知らないで。『横暴だ』なんて言って御免。そしてススム君・・・」今までいじめを受けていたのは、と言いかけたミチルを、「解ってる!」とススムが止めた。
「今まで敢えていじめられ、いやいじめさせてくれていたんだろう?それに気付かないで調子に乗っていじめ続けたこっちこそ御免、悪かった」此処に野間口小学校のいじめ問題は、一先ず決着した。しかしもう一つ未解決の問題がある。それは、ススムからミチルへの「いじめ」を囃し立てていた傍観者・他のクラスの生徒達である。それに対してシャイアンが取った行動とは・・・。

 次の日、クラスには大きな衝撃が起こっていた。ススムからミチルへのいじめを囃し立てていた、その他の生徒達への処分が発表されたのである。
「野間口小3−1の生徒達へ、ススムからミチルへのいじめを囃し立てていたことは、実際いじめていたススムより罪なこと。よって此処に全員いじめさせっ子になる事、但し試練を乗り越えた者はその限りにあらず。いじめ対策委員より」
 その試練とは何か?シャイアンをいじめ切ることである。これを聴いたクラス中から歓喜の声があがった。しかしオネ夫とともえちゃんはそれがどれだけ途方も無いことかを知っている。それはススムとミチルも同じだった。
 やがて始まったシャイアンのいじめさせ、最初大喜びでいじめ始めた最初の子も、次第に力を失いその場にパタリ、と倒れた。
次の子からはだんだんと恐怖が現れ始め、住人過ぎた頃には、誰もシャイアンをいじめようとしなくなった。中には「後でいじめたほうが楽」と計算している子も居るようだが、先生の、
「もう居なければ全員いじめさせっ子だぞ」との一言に皆絶句。結局シャイアン・オネ夫・ともえちゃん・ススム・ミチル以外の全員がいじめさせっ子になってしまうことになった。そして、いじめっ子候補のススムが棄権したため、いじめっ子は柔の操り人形がなることになった。これで皆解るだろう。いじめは傍観者も含めて自分達の問題であることに。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections