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何と言う・・・シャイアン 作者:七木ゆづる千鉄

第2回   いじめさせっ子・シャイアンの一日
 今日も此処、井頭小学校では「いじめ」が起こっている。しかし普通のいじめではない。いじめを受けているのはシャイアン。そう、いじめられているのではなく、シャイアンがいじめさせているのだ。シャイアンとあだ名を付けたのは同じクラスのオネ夫、ドラえもんのジャイアンと名前もなりも正反対だと、自分の名前に似ているスネ夫から持って来たらしい。しずかちゃんに当たるのはともえちゃん、苗字は木曽である。しかしのび太に当たる子はいない。もしいたら、ちぢ太と言う名前になるだろうか?ドラえもんは、バカえもんになるかもしれない。
「田中君、俺をいじめて頂戴!」とシャイアン。
「又ぁ、シャイアンも人が悪いよ」とシャイアンを殴る田中君。シャイアンはと言うと、教室の隅っこに亀のように座り込んでいて、体の大きさから言うと少し異様である。
やがて田中君は、シャイアンを殴るのに疲れたのか、
「だ、誰か代わってくれ。俺一人じゃやりきれない」と、いじめている側とは思えない弱気な言葉を言い、シャイアンをいじめるのをやめた。
「やっとうちのクラスも普通の状態になったわね。大体いじめられるほうが『してくれ』なんておかしいわよ」と、ともえちゃん。するとオネ夫がこう言ってきた。
「シャイアン、此処でそろそろ一曲歌ってくれない?」
 これに対してシャイアンは顔を真っ赤にして「嫌」と言いたげである。ひょっとしたらシャイアンを困らす一番のやり方はいじめよりこっちかもしれない。しかしクラス中から巻き起こる「一曲!」の声に負けたシャイアン、ついに歌い出した。曲はコブクロの「此処にしか咲かない花」。歌い出すと同時にクラス中から出てくる感動の声。歌い終わった時には拍手喝采が響いた。しかしシャイアン本人は「歌い損ねた」と不満の顔。この当たりもジャイアンとは正反対である。

 学校が終わっての下校時、シャイアン・オネ夫・ともえちゃんの三人で歩いている。其処へ突然、「強盗だ!」との声。手に出刃包丁を握り締めた男が三人に向かって走って来た。そこでシャイアンは逆に男に向かって走り、その後男を投げながら腕を極めた。うめき声を上げる男。やがて警察がやって来てそれを見るなり「たいしたもんだ!」と絶賛の声。全くこの柔術の技、普段シャイアンをいじめている奴等が見たらびびってしまうかも知れない。シャイアンは警察の人とオネ夫・ともえちゃんの二人に「このことは内緒に」と言った。自分の強さを隠すなんて、本当に、根っからいじめさせっ子のシャイアンである。強さを発揮するのはこんな時と、もう一つ「ある時」なのだが、それがどんな時かはこの話を続けていれば解るだろう。
 帰宅したシャイアンを待っていた柔、
「あんた、今日もいじめを受けたんだって?」と、少々とげとげしい言い方である。
「うん、今日も見事いじめさせた」シャイアンはあっさりと言った。
「全く、どうしようもないわね!」と柔はシャイアンに一発パンチを食らわせ、KOされて寝たシャイアンをぐっと抱きしめた。「良く頑張ったね」と涙を流しながら。全く、この母親にしてこの子あり、とでも言ったところか。

 その日の学校は、朝から異様なムードに包まれていた。転校生が三人来たのだが、三人とも眼つきが完全に「いって」いる。
「この学校には、何でもいじめさせっ子という奴がいるそうだな?」
と、三人の中の一人が不敵な面構えで言ってきた。それに対してクラス中がどよめいた。シャイアンはまだ来ていない。いくらあいつでもこんな奴らを相手には出来ないだろう・・・。黙り込んでいる皆を「どうなんだ」と威嚇する奴ら、そんな中、
「♪ランラランララン、今日は誰がいじめてくれるのかなあ」と、シャイアンがやって来た。何と言うタイミングか!
「今日は、俺達がいじめてやろう。」という奴等の不気味な言葉を、「いいよ」と軽く受け流すシャイアン。これからのいじめでクラスの皆はシャイアンの「何という!」所を更に目撃することになる。
「さあ、誰から行こうか?」
「面倒くさいから三人同時がいいや」
「貴様、俺達を舐めてるのか?」
「御免御免、一人ずつかかって来て」
 こんな台詞のやり取りの後、ついにシャイアンのいじめさせが始まった。先ずは一人目、教室の隅っこで亀になっているシャイアンに猛烈なパンチのコンビネーションで襲いかかった。
 しかし時間にして一分、二分進んでもシャイアンには何の変化も見えない。逆に殴っている奴の方に明らかに「疲労」の色が取って見えるようになって来た。やがて奴は倒れ、オネ夫が救急車を呼んだ。
そのサイレンの音が鳴って消える頃、「今度は俺だ!」と二人目が今度はキックの嵐をお見舞いした。しかし又幾ら時間が過ぎてもシャイアンには何の変化も無い。結局又奴が倒れ、オネ夫の「救急車」、その後三人目がこう言って来た。
「それだけ強いのに亀になっているのは卑怯だ!俺とこれから投げ合い極め合いをしろ!」
 シャイアンの返事は「いいよ」、かくしていじめさせ・第3ラウンドが始まるのだが、これからシャイアンの柔術を使うもう一つの場合が来ることをまだ誰も知らなかった。
 奴が幾ら大きな投げを打ってシャイアンを飛ばしても、シャイアンの受身は完璧で傷一つつかない。やがて奴は腕を極めようとして来た。そこでシャイアンはオネ夫とともえちゃん以外には解らないように逆に腕を極め返して、傍目からは腕を極め損ねて逆に決まってしまったように見えるようにした。かくして救急車が三台目も出るはめになってしまった。いじめた相手を逆に病院送りにするとは、正に「何と言う!シャイアン」である。しかしこのことが巷に知れ渡って、更に厄介な奴らを呼ぶことになるとは、まだシャイアン自身も解らなかった。解っていたのは、シャイアンから今日の話を聞いた母親の柔だけかもしれない。
「こんな・・・、こんな所まで来てしまうなんて・・・、やっぱり柔田一族の業からは逃げられないのね」その目に浮かぶのはどんな「脅威」か?

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Novel Editor by BS CGI Rental
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