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メカ饅頭 作者:七木ゆづる千鉄

最終回   大団円
「饅頭屋・万吉」の営業はいつもの通り盛況である。しかし万亀は顔は笑っているが心の中は完全に「思案六法」、あの「メカ」をどうしたら危険を回避できるかでいっぱいである。万吉の方はと言うとひたすらあちこちのコンピューターにアクセスして、何か方法は無いかと情報を探し飛び回っている。
そんな時、千鶴が突然現れて、
「万亀・・・私、貴方に隠し事が出来たの・・・」か細い声である。その「隠し事」が何か、薄々感じた万亀は、
「お・・・俺もお前に隠し事があるんだ」ぼそぼそとした声で言い返した。
気が付くと辺りはもう真っ暗、二人はぎこちないけれど手を握りあって、何処へ行く当ても無く歩き始めた。しばらく歩いた後、突然聞こえて来た大きな音、万亀は感じた。これは「奴等」の一味だ。急がなければ誰か犠牲者が出る。千鶴に「ちょっと用がある」と言うと同時に、同じ言葉を千鶴に言われた。二人はそこで別れ、千鶴は千三の所、万亀は万吉の所へすぐに飛んでいった。
万亀が帰ると、万吉はすでに「メカ饅頭」を持って待っていた。
「急ぐんじゃ万亀。もうすぐ『奴等』が動き出すぞ。『元饅頭』の方もたくさん用意しておけ」
「はい、親方」万亀はすぐに「元饅頭」のネタを沢山作り、「メカ饅頭」を食べて変身して、二人は「奴等」がひしめく場所へ向かった。もしかして、千鶴と出逢ってしまうかもしれない「東大理科「類」のコンピューター室の中へである。
辿り着くと、すでに辺りは全く何も見えない状況だった。二人が幾ら「五感」を使っても全く何も感じられない。だが、万亀の「第六感」が千鶴の居場所を、万吉の「第六感」は千三の居場所を突き止めていた。こうなったらそれ以外の全部を消し去ろうとしたその時、突然の爆風と共に万吉が万亀の頭から外れた。
「これでお前の頭脳は無くなった。これからは我々に逆らうのは止めろ」機械的な声が聞こえて来た。その口調には気味悪い笑いが漂っている。万亀は必死に万吉を探した。だが「第六感」ですら感じられない。一体どうしたら良いんだ?万亀の全身全霊に重圧が迫っていた。
その時万吉は「奴等」の中に取り押さえられていた。だが五感は正常である。万亀が何処にいるかも解っている。
「この中で感覚を失わないとは、お前はかなり優秀な奴だな。だがお前には我々を攻撃する力は無い。相棒を助けたかったら我々の言う事をきけ。さもないと・・・」
「お前を破壊するとでも言いたいのか?」万吉は至って冷静である。驚いたのは「奴等」である。その通り、どんな手段を使っても万吉は壊れない。一体お前は何者だ?と聞かれた万吉はこう言った。
「儂は元・人間じゃ。そしてあんた達が取り押さえたと思ってるあいつも同じじゃ。あれはあんた達に取り押さえられてるんじゃない。儂がわざとそうしているのよ」そして万亀の五感を解放した。
「万亀、儂は此処じゃ。千鶴ちゃんや千三達のいる所も解るな」
「解りました!親方!」万亀は押さえ付けられていた力を爆発させた。そして黄金色の輝きと大きな爆音。それが消えた時「奴等」のあらかた全ては消えていた。残るはスーパーメカのみだ。万亀は万吉を取り戻し頭に再び装着した。そして目の前には大きなロボットがいる。これは千鶴か?と、驚いた万亀。しかし相手の方もこっちを見て驚いている。
「あ・・・貴方は・・・私を助けてくれた・・・」万吉も万亀も千鶴の心の声を聞いた。千鶴は一体自分を何者だと言っているのか?疑問を持った二人だが、今はそんな事を考えている余裕は無い。目の前の敵を何とかしなければ皆消されてしまう。此処で万亀が考えた方法とは・・・。
翌日、「スーパーメカ、暴走が止まった」と言う新聞記事に出ている結果を万吉に解読させながら、万亀は記事をひたすら読んだ。そして、万吉が解読を終えたその瞬間、二人は昨日のあの時へと飛んだ。
飛んだ時、そこに千鶴の姿は無かったが、「スーパーメカ」は相変わらずいる。五感には感じられなくても、二人の「第六感」には鋭く感じられている。万亀は万吉の言う通りに次から次へとメカに信号を送った。
「*@&%$#+?.<>=〜¥」すると敵対しているようなメカの気配が、少しづつ大人しくなっていった。これでよし、と二人が帰ろうとしたその時、ロボット体の千鶴が現れた。一瞬ハッとした万亀だったが、直ぐ落ち着いてその場から去った。そこで「覚悟」を決めた千鶴の心を知らずして。
再び翌日に戻った二人、今日も車で饅頭の移動販売をしている。そこで万亀は思いつめた顔をしている千鶴に逢った。一体どうしたんだ?千鶴に向かって大声で叫んだ万亀、すると、
「万亀、私昨日逢ったの。『あの人』に」呟くように千鶴は答えた。「あの人」?昨日の自分がそうなのか?だけどあの姿で千鶴に逢った事なんて一回も無いぞ?万亀は疑問の渦に巻き込まれた。更に千鶴は話し続ける。
「私を救ってくれた『あの人』だけど、お父さんの為に戦わなければいけない・・・あ、ごめんね。万亀に言ってもしょうがない事ね。万亀、今夜うちの会社に来てくれない?その時『隠し事』を話すから」
聞いた万亀はこう返事した。
「それじゃあ、俺の『隠し事』も今夜話すよ」
この後、千鶴と万亀の間起こるにとても大きな出来事は、二人にも、そして父親である千三と万吉にも、全く予想し得ない事だった。
夜が来て、万亀は千鶴のケーキ会社の門に来た。何故「隠し事」を今話すのか、万亀には全く解っていない。万吉は万亀の手の中にいる。理由を探ろうと千三にアクセスしようとしたが、今回は全く出来ない。仕方が無いから、他の12人の誰かに聞こうとしたその瞬間、千鶴が姿を現した。顔には「中に入って」と言う表情。万亀はケーキ会社の中に入った。今まで一度も来た事が無いその建物の中は、驚く程ハイテク化されている。やがて千鶴が入った部屋は、何か大きなコンピューターが動いている。万亀は直感した。これは「東大理科「類」につながっている。そしてそのコンピューターのモニターに、千三の姿が映った。
「万亀君、そして万吉。これから千鶴が言う事を聞いてくれ」その表情には何か陰りが感じられる。千鶴は千三が何故万吉の名を呼んだか、理解出来ない様である。しかし、万吉には理解出来た。千三は万吉と万亀の事を知りながら今まで他の12人に黙っていた事を攻められ、やむなく二人を此処に呼んだのだ。
「新聞で読んだでしょ?『スーパーメカ』の暴走が止まった事を。あれは本当は私達がやろうとした事だったの。でもやったのは別の「誰か」で、だからそれが誰か調べて、場合によったら戦わなきゃならない。だからその前に万亀に会っておきたかった。だってもう私は人間に戻れなくなるんだから」千鶴は手にケーキを取り、それを口にした。そして銀色の輝きが現れ、消えた時にロボットになり、もうスピードでその場所を去った。
「万亀、後を追うんじゃ」万吉に言われるまでもなく、直ぐに「メカ饅頭」を食べた万亀は、急いで千鶴の後を追った。万吉をその場に置いて。万吉は「東大理科「類」のコンピューターにアクセスを試みた。そして現れたのは、十二人に取り押さえられている千三の姿だった。千三は万吉が来た事に気付き、他の十二人は、
「な、何故お前が此処に来れるんだ?」と万吉が現れた事に驚いた。そして万吉の記憶を読み込み、全員急いで千鶴の行動を止めようと命令を発した。しかし、千鶴からは何の応答もない。
「千鶴ちゃんは今必死なんじゃ、じゃからお前達の命令も届かない・・・後は二人に任すしかない。千鶴ちゃんと万亀にな」結果はどうなるか解らないが、万吉は万亀からの指事を待つ事にしたのだ。
猛スピードで動く千鶴を必死に追い掛ける万亀、一体あいつは何処へ向かってるんだ?ひょっとして、あのスーパーメカの暴走を俺が止めた所か?そう直感した万亀は、その場所へ先回りして、「元饅頭」を口にして人間に戻って千鶴の到着を待った。やがて来た千鶴は万亀の姿を見て驚き、直ぐ別の所へ行こうとした。万亀は大声で「待て!」と言い、
「千鶴、自分だけ『隠し事』を打ち明けて、俺の話は聞かないつもりか?」そして「メカ饅頭」を口にし、ロボット化した自分の姿を見せた。
「千鶴、これが俺の『隠し事』だ」
変身した万亀の姿を見て、千鶴は一瞬凍り付いたような反応を見せた。万亀の心は千鶴の心の声を聞いた。
「まさか・・・そんな・・・あなたが万亀だったの?」千鶴の目の辺りから水が吹き出し始めた。千鶴は泣いている。そんな千鶴に、
「これから一緒に帰ろう。千三さん達ももう解ってくれている。何の心配も要らない。一緒に帰ろう千鶴・・・」穏やかに語りかけた万亀だったが、千鶴は突然猛スピード、さっきとは比べ物にならない程のスピードでその場から飛び出した。又万亀は直感した。千鶴は自殺しようとしている!ここで万亀は万吉に連絡した。
「親方、これから俺を『千鶴の心の時間』に飛ばして下さい」万吉は直ぐ同意して、万亀をその「時間」に飛ばした。
そこは地球を遠く離れた惑星で、今にも地上の生き物全ての命が尽きそうな所だった。そんな中で、カプセルに包まれた二人の赤ちゃんが居た。これから何処か他の惑星へ飛ばせる様に装置が整っている。万亀はそれを宇宙空間から見つめている。やがて発射された二つのカプセル、大気圏の中で今にも燃え尽きそうである。ここで万亀は行動に移った。万吉から貰った「元饅頭」に二人の赤子の精神を封じ込めて、そこで時空をこえて「東大理科「類」の人工卵子製造機の中の二つの卵子に移した。そしてこれが千鶴と自分である事を直感し、男の赤子の「記憶」を自分の中に移した。そして現在に戻り、残った「元饅頭」を一つにして、千鶴の口の中に放り込んだ。これ位強力でなければ千鶴を元に戻せないと確信していたのだ。すぐに千鶴の全身から白銀の光が輝き、その光が消えた時、人間に戻った千鶴の姿があった。
「え?饅頭ってこんなに美味しいものだったの?」千鶴は自分が人間に戻った事にしばらく気付かなかったが、やがて自分の姿と万亀の姿に気付き、
「万亀!・・・あなた、まさか自分のを全部使って私を元に戻したの?」万亀の「行動」を全て理解していた。
「なあに、惚れた女の為なら、死ぬわけじゃないから屁のカッパってなもんだよ」万亀はあっさり言いのけ、車を呼び寄せ、千鶴に乗るように勧めた。
「これから親方や千三さんのいる『東大理科「類』までゆっくり行くぞ」
「ゆっくりって、こんなに早くて危ないじゃないの!」
「大丈夫、この車は俺と親方で造ったハイテクカーだから、ゆっくりでもこの速さ、全開だったらもう音速を超える位は出せるぞ」二人が会話している間に、車は目的地、「東大理科「類」のコンピューターのある千鶴のケーキ会社に着いた。
二人が着いた時、千三と他の十二人、そして万吉は喜びと同時に驚きの固まりだった。
「間、まさか千三が出したアイディアが万吉の作り上げたものだったとは・・・」十二人の驚きはそこに集中し、千三と万吉は千鶴と万亀の前世、そして万亀のとった行動に驚いていた。
「万亀、もう『元饅頭』は作れないんじゃぞ、他に方法は・・・と言っても仕方がないか・・・」
「万吉、すまなかった。最初から全てを言い合えたら良かったんだが・・・。だが万亀君、君の行動には父親として本当に感謝している。よく千鶴を元に戻してくれた、ありがとう」
しかし千鶴は他の皆のように喜んでいない。「万亀はもう人間には戻れない」その事が全て自分の所為だと思っているのだ。そんな千鶴が、
「万亀、私どうしたらいいの・・・え?」謝りの言葉の途中で何か自分の中に変化を感じたのか、別室に入って行って何かを作り始めた。一体何を始めたんだ?疑問に思った万亀がそこへ行こうとすると、
「今は来ないで!ひょっとしたら出来るかも知れないから」との声。一体何が出来るというのか?
そして一時間後、千鶴ができたてのケーキのようなものを持って来た。
「万亀、これを食べてみて。ケーキだから食べられないなんて言わないで。私もさっきあなたの饅頭を食べたんだから」そう言われては仕方がない。万亀はその「ケーキ」を口にした。
すると、万亀の身体が黄金色に輝き出した。これは?「元饅頭」と同じ?万亀の直感通り、光が消えた後で万亀は人間の姿に戻っていた。しかも味も最高。ケーキってこんなに旨いものだったのか?万亀は産まれて初めての感動に打ち震えていた。しかし、何故戻れたんだ?千鶴は一体何を使ったんだ?万亀は万吉に千鶴から聞いてもらえるように頼んだ。万吉もそれに納得。そして次の日に万亀はとてつもない驚きに出逢う事になる。
朝、万吉は万亀に言った言葉、それは千鶴が「妊娠」したという事から始まった。
「親方、そ、その相手ってのはどんな奴なんですか?」万亀の言葉には驚きと怒りが混じっていた。
「それはな、万亀、お前じゃ」万吉がそう言っても万亀は納得しない。何故なら千鶴とは手を握りあう所までしか言っていなかったからだが、万吉の次の言葉に万亀の驚きは何十倍も大きくなる。
「千鶴ちゃんは処女のまま妊娠したのじゃ。お前が元饅頭を食べさせた時、人間に戻った時の子宮にお前の精子が入り込んでしまったんじゃ。そして・・・」
「そして何ですか?親方」
「昨日お前を元に戻したあのケーキ、あの中には千鶴ちゃんの母乳が入っていた。それが『元饅頭』の中のお前の精液の代りとなったんじゃ」
聞いた万亀は自分のした事の大きさに、暫く呆然としていた。しかし万吉は、
「これを機会に千鶴ちゃんと結婚しろ。男としてのけじめはちゃんとしなきゃいかんぞ、万亀」万亀の初めての「避妊失敗」を逆に生かせと言って来た。その時「饅頭屋・万吉」に千鶴が来た。万亀は急いで玄関に向かった。
「もう、聞いたわね。万亀」千鶴の頬は少し赤くなっている。万亀の方はもう真っ赤っか、しかし「聞いた」と返事はしっかり返した。そして二人は一緒に役所まで行って婚姻届を出しに出掛けた。その間に万吉は千三と話をした。父親二人はこれからも子供達、そしてやがて産まれて来る孫、大事に見守って行こうと確認し合い、万吉は「東大理科「類」の中には入らず、陰の出先機関として今の侭でいる事にした。
それから一ヶ月後、千鶴と万亀の結婚披露宴が「饅頭屋・万吉」の前で行われた。そこから千鶴のケーキ屋までの行進、大勢の人々が二人の幸せを祝った。結婚式の引き出物は饅頭とケーキ、一見不釣り合いだが味のバランスは最高である。丁度二人の様に。
「千鶴、もう俺は『例の風呂屋』へは行かないぞ」と万亀が言えば、
「無理しなくて良いのよ、だってあなたの精力は、私一人じゃ消化出来ないもの」と返す千鶴。これからの二人の行く末は、それはとても素晴らしいものになるだろう。
−終−

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