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メカ饅頭 作者:七木ゆづる千鉄

第4回   危険!スーパーメカの誕生と千鶴のさらなる謎
サイボーグ騒ぎが終わったその翌日、饅頭屋「万吉」の車は又街中を移動販売していた。勿論辺りの「探索」も同時にして。其処で饅頭を買いに来た一見普通の「男」、そこで万吉が「注意警報」を出し始めた。
「万亀、これは何か・・・何か陰謀の匂いがする。そいつに発信機を付けたから用心するんじゃぞ」この万吉の驚きと全く無関係のように「男」は普通に饅頭を買い、そして去って行った。
「親方、解ってますよ。今の『男』、何か普通の人間じゃない感じがしてましたから」万亀ももうだいぶ観察力が上達したようである。
そして夜になってから、その「男」の「監視」が始まった。昼間の様子とは違い、動きが何だかロボットぽい。万吉は「男」の情報を探り当て、万亀に教えた。何とコンピューターの情報が大脳に植え込まれた、クローン人間だというのだ。
「一体何処の誰がやったのかは解らんが、これは『第「類』も監視しているかもしれんな。そいつが来たら儂等は隠れた方がいい」
「だけど親方、もし『第「類』が来たら『彼』はどうなるんですか?処分なんてされたら、可哀想だとは思わないんですか?」
「確かにそうじゃ、しかし儂等に何が出来るというんじゃ?このまま見ている以外に」
「そ、それは・・・そうだ!」万亀は何か閃いたようだ。「親方、今すぐ店に戻りましょう。『メカ饅頭』を『彼』に食わせればいいじゃないですか!」
「何じゃと?そうか、その手があったか」
そして二人は「メカ饅頭」を手にして、再び「彼」に近付いた。「彼」は相変わらず普通の人間には理解不能な「音」いや「声」を発し続けている。その口の中に「メカ饅頭」を投げ込み、二人は状況を見守った。
すると、「彼」の全身が黄金色に輝き始め、その中に二人も巻き込まれていった。
「親方?一体これは何なんですか?」
「儂にも解らん。じゃがこれは乗った方がいいかも知れん。何故『彼』が産まれたのか、その謎が解けるかも知れんからな」二人は輝きの先にある「何か」を探り始めていた。
「所詮、メカと人間など解り合えるものでは無い!人間は我々を利用するだけ利用して、最後には捨てる!だから我々も、人間を利用するのだ!」人間ではない、コンピューターの声が二人の耳に突き刺さってきた。
「ん?そこにいるロボットにFD型のコンピュータ、新入りか?どうやらかなり高いレベルのお方のようだな。そんな所に立っていないで、もっと近くに来てくれ」この声の主は誰なんだ?万吉が正体を探ろうと「解析」を始めると、そこには「東京大学理科「類」の言葉が出て来た。まさか、あいつらは人間を支配しようとしているのか?万亀は驚きの余り叫びそうになったが、そこに万吉が一言、
「それは違うぞ、小奴等は『理科「類』を叩き潰そうとしているんじゃ」
「親方、それじゃこいつらの正体は、一体何なんですか?」
「待て、万亀。今『解析』が終わる所じゃ・・・む?これは、そうか、そういう事か」万吉は奴等の正体を把握した様である。その「正体」とは・・・。
万吉・万亀達を囲んでいるロボット達は、突然雄叫びを挙げて全員空を飛び出した。
「これから、あの悪名高い『東京大学理科「類』のメインコンピュータの目を覚ます。そして、『彼』が今まで人間ごときに支配されていた我々の地位を一気に変えてくれるのだ!アクセス開始!」一体誰にアクセスするのか?ひょっとして、さっきメカ饅頭を食べさせた「彼」なのか?
「万亀、そろそろ出るか?」
「・・・」万吉が話しかけても反応が無いような万亀だが、万吉には解っている。此処で「反応」を見せたら、周りの奴等に気付かれ、二人が攻撃の的になってしまう。勝てない訳では無いが、万吉・万亀二人とも無駄な争いは避けたいのだ。一体どうすれば良いんだ・・・?八方ふさがりの二人に、この後思いもよらない展開が待っていた。
それは突然の出来事だった。まわりが銀白の光に包まれ、メカ達が全て消えていった。万亀の目には何も映らない。
「このまま此処に居てはいかん。万亀、帰るんじゃ」万吉が慌てて時間を飛んだ。そして帰って来た所には、メカ饅頭をくわせた「彼」、その姿も形も無かった。一体何処に行ってしまったのか?全く事情が解らない万亀に、万吉がこう告げた。
「『彼』は進化してしまったんじゃ。目の前にいるどんな者も姿・気配を感じる事が出来ないスーパーメカに」
「そ、それじゃこれから一体どうなるんですか?俺達、東大理科「類、そしてこの日本は」万亀はこれから来る「不安」を思わず吐いた。万吉はしばらく黙っていたが、
「仕方が無い、余りやりたくなかった事じゃが、アクセスするか。東大理科「類へ」自分達の「立場」を明らかにしても、この緊急事態を何とかしようと重い腰を上げた。
万吉が東大理科「類にアクセスする時、万亀は眠らされた。しかし、夢の中でその行動を見ていた。万吉はパスワードに自分の名前を使った。するとメインコンピューターにはアクセスできなかったが、其処に千三の姿が写った。
「万吉、今この会話は俺とお前だけしか聞こえていない。お前がアクセスした時、迷わず俺だけに聞こえる様にしておいた。だから何も心配せずに話してくれ」
「そうか千三、悪かったな。実は今さっき起こった『事件』の事なんじゃが」
「ああ、スーパーメカの事だな」
「あれは儂と万亀がしでかしてしまった事なんじゃ、本当に済まん」
「そうか・・・しかしあの状況はいずれ起こっただろう事だ。お前たちが気にする事はない。むしろお前達がやってくれたから被害が最小限になったんだ」千三は攻撃対象が「東大理科「類」だけになったと言った。そして、
「これから俺達が対策を練る。だからお前達はもう動くな。あまり動くと俺の押さえも効かなくなる」万吉・万亀達を守ろうと言って来た。しかし万吉は、
「そうはいかん。自分で捲いた種は自分で刈らなけりゃ、儂・そして万亀もこの先やって行けん」あくまで動くと宣言した。すると千三は、それならそれで仕方ないが、あまり深入りするなと言い、この話は夢の中で千鶴も聞いていると最後に伝えた。驚いたのは夢を見ていた万亀である。何故千鶴がこの話に絡んで来るんだ?千三さんは、一体何を考えているんだ?その疑問を朝起きてから万吉に聞いた。すると万吉は、
「それは儂にも解らん。じゃが考えられる事がある」とつぶやいた。考えられる事とは何か、万亀は万吉に更に聞いた。
「・・・今思い出した。百子が妊娠したのは、千三の『種』じゃった。そうじゃ、そうじゃった」その後万吉が続けた話とは・・・。
万吉と千三が大の親友だった事は前にも描いたけれど、その二人の初恋の相手が同じ人物だったと言う事はまだ描いて無かった。その人の名は百子、幼い頃からずっと二人と一緒で、性格・容姿ともに満点の女性だった。
万吉は有り余る性欲を堪えきれず、もう高校生の頃から「例の風呂家」へ足繁く通っていたのだが、千三の方は精力は至って強かったが、理性が強く大学、すなわち東京大学理科「類に入るまでどんな女性の相手もした事が無かった。そんな対照的な二人だったが、いや逆にそれ故か二人の「友情」は非常に強いものだった。だから二人が思いを寄せる相手が同じ百子だと言う事も全く隠さず、憎しみの無い「三角関係」がずっと続いていたのだ。
そんな三人の関係が変化したのは、千三と万吉の二人が知ってしまった百子の「身体」の事だった。百子は先天的に子供が産めないという障害を持っていた。この「事実」に二人は何とかしようと調べに調べて、そしてある「結論」を出した。それは、仮死状態の卵子を百子の子宮の中に入れるというものだった。
「しかし、どうやってその『卵子』を入れるかで儂も千三も困ってしまったのじゃ」と万吉はため息をつく様に言った。そこで出て来た「人工卵子製造機」に受精させると言う時、二人は話し合った。どちらかの受精卵がもしも死んでしまったら、それを百子の子宮に入れようと。そして、千三の卵子が死んでしまった事で、百子の子宮に移され産まれたのが千鶴だったのだ。その後千三も万吉もこの事が公にならない様、自分達の記憶を消したのである。しかし、千鶴の身体の中にはその事がずっと残っていた。それがスーパーメカの誕生の対策を練っている時明るみに出てしまった。と言う事は千鶴も万亀と同じようにロボットになる事ができるのか?万吉はそんな疑問を抱くようになっていた。

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Novel Editor