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メカ饅頭 作者:七木ゆづる千鉄

第2回   オバケ病院の闘い
「はい、イチゴ大福2個お待ち遠様でした。二百円です、毎度ありい!」
今日も「饅頭屋・万吉」から威勢のいい声が流れる。昨日あんな事があったなんて事は、誰も気付きはしないだろう。
「万亀さん、万吉さんの姿が見えないけど、どうしたの?」
客の中の一人がそう聞いてきても、
「はい、昨日初めて聞いたんですけど、親方なんか何処かへ遠出をするって言って出かけちゃったんですよ」
と、昨日万吉から暗示してもらった言葉を返すだけである。
「万吉さんから何か連絡はないの?」
別の客がそう聞いてきた。万亀は、手に「万吉」と液晶モニターのような物を持って、
「このフロッッピーディスクみたいな物なんですけど、親方から連絡が入ると、ポケベルみたいに鳴るんですよ。それをこのモニターに入れると、顔を出してくれるんです」
と答える。
「万亀さんの方から万吉さんに連絡は取れないの?」
またまた別の客が聞いてきても、
「いやあ、俺もそうしたいのは山々なんですけど、親方が、『それは駄目だ』って言う事で、無理なんですよ」
と答える万亀である。
この日は「饅頭屋・万吉」に、今までで一番多くの客が来た。昨日万吉が、店に久しぶりに顔を出したということがその原因だったようだ。
「こんなに客が来るって事は、今までのやり方だと客がさばけなくなるかもしれないな。この際だから車を持とうかな」
と、万亀が独り言をつぶやいた時、「万吉」から音が鳴り響いた。
「ん?親方、一体何だろう」
液晶モニターに顔を出した万吉はこう言った。
「万亀、車を代えようと思ってるようじゃが、そいつはただの車じゃ無い方がいいと思うぞ」
「え?そりゃ一体・・・」
「ただ持つだけじゃなく、後それなりの『装備』をしておいた方がいいという事じゃ」
「あ!そういう事か」
そしてその夜、店の奥で車を製造する万亀の姿があった。
翌日、いつもと変わらないこの町でいつもとは違う声が響いていた。
「えーご町内の皆様、こちらは『饅頭屋・万吉』でございます。ただ今饅頭の出張販売を致しております。当店は品数・量とも多くの饅頭を販売しております。皆様お誘い合わせの上お出で下さい。こちらは『饅頭屋・万吉』でございます」
「饅頭屋・万吉」の出張販売、道行く人は皆そう思うだろう。確かにそれもある。しかし実は万亀は町の中を行きながら「監視」をしているのである。何か怪しい「機械」が何処かに潜んでいないかどうかを。潜んでいればこの車の中に取り付けてある「記憶チップ」に記憶される。そしてその情報は「万吉」が分析をし、夜の万亀の「行動」の参考資料となるのである。
今日の饅頭は飛ぶように売れた。いつもの十倍ぐらいに。昨日の夜「万吉」も饅頭を作ったのである。万亀・万吉の共同開発である、生身の人間そっくりの「人造腕」で。車はこの街の角から角へと至る所を走った。何故ならこの車はただの「監視」用のものでは無いからだ。それが一体何か、それは今夜明らかになる。
夜になり、街に静寂が訪れた。そして今此処で「機械」達の闇の行動が始まる。
万亀は車に乗り、昼間「監視」に引っ掛かった所を目指している。まだ「変身」はしていない。しかし「万吉」はすでに臨戦態勢、「メカ饅頭」を持っている。
「万亀、そろそろ着くぞ。心の準備をしておけよ」
「解ってるよ親方、此処だよな」
万亀は車を止め、そのまま車から降りて寝たふりをし始めた。「相手」を待ち自ら「餌」になる為に。
その後どれくらいの時間が過ぎただろうか、万亀の耳に殺気立った「機械」の音が聞こえてきた。
「どうやらこの『機械』は生命体を食らってエネルギーにしているようじゃ」
万吉の「声」は何時の間にか生身の万亀にも聞こえるようになっていた。
「どうやら『人造腕』を作った時の副作用みたいですね」
「呑気なことを言ってるな万亀、『機械』はもうお前の目の前じゃぞ」
万吉がそう言った直後に、「機械」が生身の万亀に襲いかかって来た。
「おし!親方、下さい」
万吉からメカ饅頭を渡された万亀、すぐそれを食べて「変身」をした。
「#&*?・・・○☆※@!」
「機械」の方は突然何が起こったのか解らず、エラー音を発したまま動かなくなった。
「よし、と。親方、こいつだけど・・・」
「ああ、どうやらこの『機械』は、もっと大きな奴の分身の様じゃな」
「そんじゃ、一ちょ『本体』を探しますか」
万亀は動かなくなった「機械」に触り、
「§☆▽※・・・◇@□※◎」
と、何か命令のような音を発した。すると「機械」は動きだし、猛スピードで飛び始めた。万亀は後を追いかけるべく車に乗り、コクピットを触った。
すると、車は黄金色の光を発し、それまでの平凡な姿を一変させ、特撮ヒーロー物に出てくる「ハイテクカー」のようなものとなった。
「それじゃ親方、目標の『位置』、確認よろしくお願いします」
万亀はそう言いながら「車」を猛スピードで発進させた。
逃げる「機械」、追う万亀。共に超音速のスピードである。その中で、万吉はひたすら「本体」の位置を探す。そんな時がしばらく続いた。
やがて、
「万亀、解ったぞ!『本体』の位置は、「オバケ病院」の生ごみ処理場じゃ」
と万吉の声。「オバケ病院」とは、かなり前に閉鎖された、今は廃墟となった元病院のことである。これから此処で、万亀&万吉対「機械」の戦いが始まる。
オバケ病院の生ごみ処理場の「機械」は、病院が閉鎖された時にOFFにされた筈のスイッチがONになり、なかなか処理物がこないことで暴走してしまったと、万吉の分析の結果明らかになった。
「万亀、OFFにしておいた筈のスイッチがONになったという事は、何かがある筈じゃ。気を引き締めてかかれ」
「解ってますよ、親方」
オバケ病院のその機械は、外見からは何の異常も解らないが、中に入ると強烈な異臭が漂い異常な音が鳴り響いている、何とも異常な状態だった。その中に入った万亀&万吉
「親方、それじゃあ行きますよ」
「よし、やれ」
と、全身から青色の光を放ち、その光で病院中の敷地を満たした。
そして、次第に異臭も異常な音が消えていき、外見からの様子と大差ないような感じになった。しかし、万亀&万吉は捕らえた。
「万亀、『ウィルス』は、あれじゃ」
「了解、親方」
二人は遠くににげていく「影」を追いかけた。そいつはさっきの「機械」の何十倍も早いスピードで逃げて行く。しかし二人も負けじと追いかける。やがて追い付き、捕まえた所でその「影」から黒いガスが漏れてきた。どうやらこれは機械の調子を狂わせる物のようだ。
「よし、万亀、『ウィルス』除去」
万吉の言葉に万亀はうなずき、両手から黄金色の光を放った。
すると、黒いガスが光の中にシューという音を発しながら消えて行った。
「よし、万亀。帰るぞ」
万吉の声は、どこかすがすがしさを感じさせるものだった。

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Novel Editor