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此処に兆一・運動章 作者:七木ゆづる千鉄

第4回   金野河・偽者になった兆一と億次郎、そして京の見た「場所」
 茂野河応援団一同は、七地球環状線の乗客が此処に来て異様な位多くなっていることが気になっていた。そう言えばこの鉄道、今まで来た方向の逆方向の乗客はどうなっているのか良く解らない。そんな疑問を誰もが思ったその時、無量紫光団の団長が一同の前に現れ、こんな言葉を残した。
「そう、乗客は金野河から木野河までは大勢居る。しかし木野河から茂野河・丸打、そして戊野河から金野河までは誰もいない。そして金野河から水河、そして戊野河までも誰もいない。これから君達が金野河の事件を解決して、水河まで行けば初めての乗客になる。どう解決するか見守らせて貰おう」
 全く、見守らせて貰おうなんて、俺達を見下しやがってと怒り心頭なのは卓・劫太郎の二人だったが、兆一の、奴等は自分達では出来ないことを俺達に任せているんだ、との言葉に少し怒りの矛を収めた時、車内アナウンスが聞こえてきた。
「間もなく金野河です。とある応接団の皆さん、探し人には直ぐ逢えますが、それから先が本当の『課題』です。十分心して下さい」
 それにしても、このアナウンスの声の主は誰なのか?疑問に思っていたところにこの内容。
「お前、一体誰なんだよ!無量紫光団の一味か?その面、俺達に見せろよ!」ついに春男が怒り心頭の表情でスピーカーに噛み付いた。そこで現れたのは、りくだった。
「私は、皆さんのこれまで来た道、それからこれから行く道の案内を伍四郎さんから引き受けたんです。無量紫光団の人達とは、もちろん話はしています。あの人達は、皆さんがどうやって七つの地球を繋げるのかを見守っているんです。自分達にはできないことを・・・」
この台詞の後に、京・広美・順子のガンダ石が何かぬるぬるした感じを帯びた。心の中の更に深い心で気付いているのは、当人以外では天河・億次郎、そして兆一の三人だけのようだ。しかし、順子のことは善三郎に何か影響はないか?と考えた三人は、それを逆手にとって善三郎を乗せていけばいいと決着した。

 列車が到着して、応援団一同が金野河駅に降りた時、そこに待っていたのは少女と少年だった。そこに一同のガンダ石に出る反応。これは、この娘はひょっとして・・・?
「そう、ボクが加奈子だよ。それでこっちがコウイチ」
 加奈子は、もうひとりの少年を一同に紹介した。そして、ここ金野河には土野河にいたような山師がその何倍もいること、それをすべて連れ去るために来たのがこのコウイチだと打ち明けた。そして、応援団は「山」組と「河」組に分かれ、「山」組はリーダーを兆一として鉱山のくすね野郎の摘発へ、「河」組はリーダーを天河としてその鉱物をめぐってのロシアン・ルーレット賭博のガサ入れへと向かう事になったのだが、この時広美と京が可哀相だと順子がつぶやいた。自分は善三郎と一緒なのに、と。しかし広美も京も「大丈夫」と一言。離れていても心は一つ、何の心配もないし、あのぬるぬるは逆に近くなければいけない、と。
 先ず「山」組は豊かな金野河の鉱山へと向かった。此処にはコウイチもついて来ている。そこはずっと機械の音が鳴り止まない活気のある場所だった。この中でくすねをどうやって探すか、先ず考太朗が全員を捕まえてたっぷり尋問してやる!と叫んだが、そこは明がそんなことをしたら鉱山の仕事が止まってしまうぞと明確に制した。そこで兆一が一言、自分がくすね野郎の真似をして中に取り入る、言わばおとり捜査をすると提案。他に反対の意見は全く無く、採用となった。
 一方「河」組のロシアン・ルーレット摘発は、善三郎・中が指銃を使う、こちらもやはりおとり捜査となっていた。此処には加奈子が付いて来て、直ぐ山師をガンダ石に封印できるように準備をしている。

 「山」組の一行は、先ずそれほど鉱物が出ていない所へと着いた。そこに兆一の手には、何とダイヤモンド!自分のガンダ石を細工して作ったのだ。そしてさながらバナナ売りのような流暢な言い回しで他の者達にそれを売ろうとの声をあげた。乗ってきたのはそこにたまたまいた暗い顔をした男達。家族を食わしていく銭さえあれば良いと言う欲の無い人から、この金野河全部を買い占めようと企む山師まで、その心の内は「山」組一同のガンダ石から手に取るように見えた。そこで早速その山師達をコウイチが持って来ていた加奈子が作ったもう一つのガンダ石の中に封印した。それを見た欲の無い人達が、誰が消えたのかと怯え出したので、兆一はその人達にみやげの鉱物を渡して家へと帰した。一行は山師達が向かおうとしていた「裏の場所」へと進んで行く。先の見えない暗い坑道の先にそこはある。
 一方、「河」組はその「裏の場所」に直行していた。其処ではロシアン・ルーレット賭博が横行している。これを見て約束通り動いた中と善三郎の二人、
「おい、お前ら何をしているんだ!これから俺達は最強の銃を出すぞ!」
そして二人が見せた指銃、それを見た者達は一斉に驚き、
「まさか、土野河の銃使いか?」と震え上がった。
これを見た天河は少し考えて、遠くの兆一に「このままでいいか?」と問いかけた。兆一の答えは「偽者で行きましょう」
そこで天河は億次郎に一言、「切れ」と。そして億次郎の「左場読み切り」、二人はその場で倒れ、順子がその介抱に回った。
「全く、二人とも調子に乗りすぎちゃって・・・。兆ちゃん、ありがとうね」と言いながら。そしてその後、天河が億次郎を指差してこう言い放った。
「皆のもの控えい!此処にいるこの男こそ、指剣使いの達人、大河億次郎なりぃ!」
 これを聞いた賭博をしている者達は、「土野河で名を馳せたあの指剣使いだって。ひえええぃ」と土下座をして許しを乞いに来たが、天河の答えは「全員捕縛」
全員を加奈子のガンダ石に封印して兆一たちの到着を待つ事にした。此処にはまだ何かの気配が感じられたからだ。そう、無量紫光団の団長である。
「億次郎君、君が指剣使いになる言うことは、つまり兆一君が指銃使いになると言うことだね」
 この問いに、兆一・億次郎の双方から「その通り」と返答があった。それにしても何故わざわざ「偽物」になってしまうんだ?と言いかけた善三郎が、あ!と気付いた。そう、この金野河には本物の銃・剣使いを倒そうと企んでいる輩までいるのだ。だから、敢えて「偽物」として名乗って、そいつ等を安心させておこうと兆一は判断したのだ。それは億次郎も同じだった。
「どうもテンさん、お待たせしました」と到着した兆一を始めとした「山」組の一行。「裏の場所」から通じる光の先、金野河最大の街へとその足を進めた。

 その街には大勢の強者(だと自ら名乗る者)達が群を成していた。身長が2メートル・体重は200キロはあろうかという大男、10メートルはあろうかという大きく重い筒を抱えた怪力の持ち主など、一見すると兆一・億次郎などは適わないような猛者ばかりだ。そんな中で街の長と見られる女から、大声でこんな言葉が発せられた。
「それではこれからそなた達の技を見せて貰う。我こそはと言う者、出ませぇ」
 この声に応えた者達が一斉に前に出て、その中に兆一・億次郎の姿もあった。そして二人はそれぞれ「指銃使いの偽物」・「指剣使いの偽物」を名乗った。
 これを聞いた男達は全員大声で二人を嘲笑した。また女達は可哀想にと大声で号泣したが、そんな中で京は、
「兄さん、兆一。無理はしないでね」と二人をそう言って送り出した。
 その時、京の姿が突然黄金の光の中に溶けるように消えていった。一体何が起きたんだ?と驚いたみんなの中で、億次郎と兆一が何かを察知したようだ。言葉には出来なかったが・・・。

 京が消えてまた現れた場所は、何か暖かいような冷たいような・・・何とも言えない所だった。しかも体は動くことも出来ず、ただヨロズの存在だけは感じられることが出来るだけである。「一体此処は何処?」と叫ぼうとしたその時、優しい口調で語りかけてきたのは万和!そうヨロズになる前の小山万和だった。
「私は、ずっと此処にいた。此処は君達が水河を出た後に来るところだ。今君を圭と呼んでいいのか、京と呼んでいいのか・・・私には解らない」この言葉に京は、
「それは・・・あなたが普通の万和さんだったら圭ですけど、今のあなたは仮の姿・本当はヨロズ、私は京です!」と思わず叫んでいた。それを聞いた万和も、
「そうか、それを聞いて私も覚悟が出来た」と、ヨロズの姿に戻った。
それにしても何故自分は何処にいるのか?考えている京にヨロズの足下から懐かしい声が聞こえてきた。この声はお父さん!そう億太郎である。億太郎は京に此処での記憶を忘れずに、しかし他の応援団の団員には決して言ってはならないと語りかけた。そして、今の金野河の偽物作戦、団員達のガンダ石に入れたぬるぬるした感じを忘れないようにと言った。ぬるぬるが消えたその瞬間が最初で最後のチャンスで、その時団員達の下にそれを知らせに姿を見せることが自分の今すべき事だと。それにしても此処は青紫から赤紫の光の雲が浮かんでいて、その中を何か列車のようなものが通っている。それが青紫の雲を突き抜け、二つの雲の間で停止した。そしてそこから小さな船が飛び出して赤紫の雲の中に突入、しばらくして小さな弾が青紫の雲から飛び出し船に並んだ。その瞬間に京のガンだ石のぬるぬる感が消えた。今だ!と京は応援団一同の中に戻った。それにしても今見たものは一体何だったのか?京には良くわからなかったが、それは次章の乱動章で明らかとなる。

 京が戻って来たとき、金野河での一同の戦いも佳境を迎えていた。丁度その時銃使い・剣使いをふるいに掛けるべく何処からか邪悪な光が放たれていた。はじめから「偽者」を名乗っている億次郎・兆一は長から防護服を与えられていたため無事だったが、他の者達はその光の中に次々と融けていった。そして何者かの「本物はこの中にいる」との声とともに光は消え、其処に残ったのは億次郎・兆一の二人だけ、これに驚いた「声」、
「尾,お前達は偽者の筈ではなかったのか?」
「確かに偽者だよ、本当は(億次郎)俺が銃使いの、(兆一)俺が剣使いの、本物!」
 この後に二人が放った銃一発・剣一太刀で「声」の主は断末魔を上げて消えていった。その残りカスは加奈子のガンダ石の中に入れて、その後長の、
「わざわざ偽者呼ばわりまでされてまで私たちを守って下さって、本当に有難う御座いました」この言葉の後満場一致の拍手喝采を浴びた一同だった。

 山師一掃も終わり、次なる地球・水河へと向かおうとする一同とコウイチに加奈子も付いて行くと言った。次の水奈美は少し難しい性格らしく、自分が付いて行かないと皆に会わなくて、それから山師たちを封じ込めたこのガンダ石を水河の水で洗わないといけないという。やがて来た列車に乗った一行、これから行く水河での出来事など想像だに出来ないでいた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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