■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

此処に兆一・運動章 作者:七木ゆづる千鉄

第2回   火野河・笑う門には福来る
 木野河を後にした電車は、又幾千もの星が見える銀河の中を走っている。次の地球はどんな地球なんだろうか?そんな疑問の中でマネージャー三人が話をしている。
「ねえ、順子。私はテンさん、京ちゃんは兆ちゃんが相手だけれど、あなたは一体誰を相手にしたいの?前から思ってたんだけど、全然解らない」
「広美、それは私にも解らない。第一解ってたらガンダ石を通じてみんなに解るじゃない」
「二人とも良いですか?」
「何、京ちゃん」
「それは今度着く地球ではっきりすると思うんです。ガンダ石でも見えない心の奥が」この、マネージャー三人組が次の火野河地球での大きな鍵を握っている事を、今は誰も知らない。
 やがて車内アナウンスが聞こえてきた。
「間もなく、火野河、火野河に到着します。お降りの際は火傷をしないようにお気を付け下さい」
 そして列車のドアが開いた瞬間、猛烈な熱波が一同を襲った。とっさに天河・兆一・億次郎がそれぞれ「天」・「地」・「人」の構えをして、京が「垓」の構えをした。その結果火傷をしたものは誰もいなかった・・・いや一人いた。それは何と順子!一体どうしてだと騒ぐ一同の前に、現れたのは無量紫光団団長。
「あなた方の女性の中で、この人にだけ思い人がいない。だからこれから誰がそうなるのか、じっくりと見させて戴きますよ」その姿が去った後、一同の目の前に現れたのは小さな村、村人の多くが火傷をしていた。
 此処で、よし!と気合いを入れたのは善三郎だった。自分のガンダ石に気合いを込め、火傷をしている村人の胸に当てた。すると、その村人の胸が緑色に光り、火傷がすっかり治っていた。これはいいと他の面々も治療をしようとすると、善三郎が思いがけない事を言った。
「いい!此処は俺だけでやるから、みんなは億次郎の娘を探しに行ってくれ。順子の事も俺に任せて」今までの善三郎にない、張りつめた感じのする口調に、天河が頷いた。
「解った、その役目はお前に任せた。先ずはお前一人でやって見ろ」かくして残りの11名は、億次郎の娘を捜しに、ミニ茂野河号で四方八方に飛び散った。

 火野河地球は、火山が至る所にあり、その為に人々は暮らしに困っている。さっきの村の村人のように、此処には火傷で苦しんでいる人達が大勢いる。11人がそんな様子を見ながら進んでいると、善三郎から、火傷をしている人を全員自分の所へ連れて来てくれとの声が届いた。皆それに驚いたが、明の「大丈夫」という明快な一言に全員納得。連れて行く役は、億次郎が引き受ける事となった。
 そして早速善三郎のもとへ火傷をした人々を引き連れて向かう億次郎、そこには強い緑色の光の中で一心不乱に治療をしている善三郎の姿があった。その中での善三郎の不思議な行動、一人の治療が終わると、順子の胸にガンダ石をかざし気を込めるのだが、「まだ駄目だ!」の一言と共にまた別の村人の治療へと向かって行く・・・。ひょっとして善三郎は順子の事を?そう思った億次郎に気付いた善三郎が、
「この事、順子にだけは内緒だぞ」この言葉は他の十人にも伝わった。あれだけ何かというと突っ込みを入れて来た順子の事を思っていたなんて、以外だなと皆思ったのだが、善三郎がそう思ったのは此処に来て順子が火傷で倒れるからで、それまでは自分もその気持ちに気付かなかったんだとの一言に、広美・京の二人は「あの時の事はこれだったんだ」と顔を見合わせた。そこに突然割り込んできた声、それはヨロズだった。
「この火野河での億次郎の娘、彼女はもう生まれている。しかし生まれたばかりでまだ泣く事しか知らない。彼女に笑う事を教えれば、探すのがより楽になる。ヒントは、諺だ」この言葉に、諺って一体何だ?と兆一以外の皆が思ったが、兆一は「合点承知の助」の表情。しかし、他の団員にはそれが何なのか伝わっていない。敢えて億太郎がそうしたのだ。だから億次郎には、この日の夢の中で知らされる事となる。一方京や広美、マネージャーコンビは、「ひょっとして?」と答えに疑問形ながら近づいていた。その答えとは・・・。

 その日の億次郎の夢の中で出た答え、それはこんな映像で現れた。自分が抱きしめているのは小さい女の子の笑顔(ひょっとして億次郎の娘か?)、そして目の前には笑っている善三郎、するとそこに元気になった順子が来た。そこで聞こえてきた億太郎の言葉、
「笑う門には福来たりだ。解ったな億次郎。お前の娘が見つかる時、順子さんの火傷が治る時、この火野河の人達が救われる時、それはみんな同じ時だ。明日からは順子さんと村の人達の治療は、太郎次郎三郎トリオでやれ、娘探しは兆一君や天河君達に任せるんだ」そして夢が覚め、起きた億次郎の前に兆一と善三郎の姿があった。その表情は、「解った、もう何も言うな」の一言。そして善三郎にはもう一人劫太郎が着き、兆一は他の団員達と共に火野河地球のあちこちに散らばった。そしてここで村人達の治療の為の看護婦として、京と広美の二人が更に残る事になった。治療を受ける人数が多くなり過ぎ、ここはさながら病院である。そしてその中で、誰もいないはずの場所から聞こえてくる女の子の泣き声。ひょっとしてこれが・・・億次郎の娘?その声はどうやらマネージャー二人にしか聞こえないようで、劫太郎・億次郎・善三郎には全く反応が見られない。二人はこの事を伝えるべきかどうか、判断に迷いヨロズと億太郎に聞いてみた。その答えはこうだった。
「億次郎はもう知っている。後の二人には夢の中で教えるから、何もしなくていい」この火野河地球で火傷の治療が済んだ人の数は、もう全体の半数ぐらいになっただろうか。順子の火傷の治り方も半分ぐらい、女の子の泣き声も次第に大きくなり、治療を受けている人達の中でもその「声」を不思議がっている者もあちこちに見受けられるようになっている。そんな中で無量紫光団が次の手を打ってきたのである。それは・・・。

 火傷の治療も進み、みんなの中に少し「安心」の色が出ていた。
「これで順子の火傷も、この地球の人達も、そして億次郎の娘も無事に行くだろう」そんな甘い期待を裏切ったのが、その日の太郎・次郎・三郎トリオが見た夢だった。しかしそこには、応援団一同のこれからの道がしっかりと刻まれていたのである。

 その、太郎・次郎・三郎トリオが見た夢では、大きな壁のようなものに、火野河の人々が苦しめられていた。最初に立ち向かったのは劫太郎だった。天通拍手の後、「天差し」をしてその気迫で壁に挑もうとしたが、あえなく打たれ、その場で気絶。続いて向かったのが億次郎。分身ガンダを放ち、こう言った。
「善三郎、良く見ていろよ。これがガンダの本来の力だ」
 その後で分身ガンダは壁を突き抜け、穴から水が流れ出し、火野河中の火が収まった。これで全て丸く収まったか、そう思った三人に無量紫光団の団長の声が聞こえてきた。
「これで第二次段階終了。この火野河地球の娘の名前とこれからの君達の行く場所は今決まった。此処の娘の名前は華美(はなみ)。この次に行く場所は土野河・娘の名前は陶子(とうこ)。その次に行く場所は金野河・娘の名前は加奈子。更に次は水河・娘の名前は水奈美(みなみ)。その次は・・・おっとこれは我々の範囲を超える。それでは我々は此処まで。夢から覚めた後で君達がどうするか、ゆっくり拝見させて貰うよ」
 そして三人が同じ夢から覚めた時、遂に火野河地球の、そして茂野河応援団の正念場がやってきたのである。

 火野河地球の火山の活動は更に激しくなっていた。このままでは全員が焼死してしまいかねない。そこに紫色をした箱のようなものが一同の周りをすっぽり覆った。これはひょっとして無量紫光団が作ったものか?そんな中、億次郎がこう言った。
「これを何とかしないと、俺達は次へ行けない。劫太郎、善三郎。夢で見た通りにやってみろ」
 その言葉に従って、先ず劫太郎が分身ガンダを箱の横に向けてぶつけてみた。すると、
「劫?長い時間がかかるのなんて解っている。あなた達は悪なの?善なの?」と少女の声が聞こえてきた。この声は・・・華美だ。
「善三郎、次はお前の番だ」この億次郎の言葉に従って善三郎が分身ガンダを箱の天井に向けてぶつけ、その瞬間に応援団一同で天差しをしながら「天!」と叫んだ。すると、
「え?あなた達は善なの?」と華美の声が響き、火野河地球上全てに紫の雨が降り出した。火山はその動きを次第に弱めていく。そこで億次郎が地打ちをしながら「地!」と叫んだ。そして華美の、
「お・・・お父さん」との声の後、火山から何かが出かけてきた。最後に全員で人呼をしながら「人!」と叫んだところ、それまでの赤かった火野河地球の空が一変し、辺り一面に青い空が広がり始め、火山からはさながら花火が出てきていた。そして善三郎の目の前には火傷が治った順子の姿が、億次郎の背中にはすやすやと眠っている華美の姿があった。善三郎はもう面々の笑みである。
「♪良かった、良かった、良かった、良かった」と歌いながら順子の周りを走り回っている。目が覚めてそれを見た順子は、
「人が火傷していたのに『良かった』ってのは何なのよ!ふざけるのもたいがいにしなさいよ!」と大突っ込みを入れた。それを見て「真実」を言おうとした京を止めたのは兆一である。
「善三郎が言ってたじゃないか。この事は内緒にしてくれって。そのうちガンダ石からジュンにも伝わるって、心配は要らないよ」
 この二人は、これからもこうやって絆を深めていくのかな、と思った京である。

 その日の夜は、茂野河応援団・華美・火野河地球の人々による祭りが行われた。火山からは次から次へと祝いの花火、華美はうれし泣きをしながら億次郎の胸に抱かれている。そんな中で兆一は見た。さっき善三郎が破った紫の箱の欠片が火野河駅へと舞い降りたのを。その映像はガンダ石を通じて他の団員にも伝わった。そして華美にも。
「明日はお父さん達の旅立ちの時、みんな一緒に見送りましょう。これからは私がみんなの頭領として、この火野河地球を盛り立てて行きます。みんな良いですね」この言葉に逆らうものは誰もいなかった。かくして翌日、茂野河応援団は次なる地球、土野河地球・娘は陶子、そこを目指して元山電鉄・七地球環状線に乗り込んだのだった。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections