■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

此処に兆一・静動章 作者:七木ゆづる千鉄

最終回   静動の極み・・・大河兆一
 今までこの小説では、ひたすら「動」について書いてきた。指導・激動・運動・乱動・命動と続いてきた「動」、その反対に位置するのが「静」である。「静」と「動」、しかしこの二つは相反しているように見えて実は同じところに存在しているのである。「動」の極限、光だがその速さで運動している物の時間は止まっていると言う「静」であるところ。このように「静」と「動」は一対のものとして存在している。これこそ「静動」の極みである。

 地球連邦が誕生してから数十年が経った。二代目大統領として満場一致で選ばれたのは小山兆一。今日も丸打の大統領邸宅で静かにしている。三代目大統領候補として囁かれているのが七木始太郎・穣次郎兄弟。知性の兄・始太郎か、行動力の弟・穣次郎かと巷はで二人を比べあっている。
 今兆一は、大統領邸宅で今までの記憶を懐かしんでいた。天河と広美、そして善三郎と順子の結婚式。どちらも男女別姓としたのは同じだが、違うのはその関係、天河夫婦が「夫唱婦随」なら、善三郎・順子夫婦は「夫婦漫才」そんな二組のこれから先に思いを馳せて居る兆一に、
「おい兆一、いつまでお前は無理をしているんだ?」と言ってきたのはヨロズ。今も銀河系中の地球を回ってその様子を見ているのだが、兆一はそんなヨロズにこう切り返した。
「親父こそ、いつまで無理をしているんだ?」
 元々兆一は彼方此方を飛んで回るのが向いている、そしてヨロズはずっと同じ場所に居るのが向いている。だからこそお互いに「無理」をしているのだが・・・そしてお互いにこう一言。
「お互いに、『次』、行かないとな」
 一方、京は笙子・始太郎・穣次郎と別の部屋にいた。
「始太郎は頭がいいけど、度胸がいまいち。穣次郎は度胸はあるけど、頭がいまいち。だから僕もどっちを選べばいいのか悩んじゃうんだよねぇ」
 京はそんな笙子にこう言った。
「今日、兆一はヨロずさんに『最後の無理』を頼むはずよ。そうすれば三人がどう動くか決まると思うわ」
 そこに現れた兆一、もう四人がこれからの事を承知していると見て、
「今、俺は親父に『最後の無理』を頼んできた。京、今夜は俺と一夜を共にしてくれ」
「お兄ちゃん!まさか・・・」
「そのまさかだ。笙子、後の事は任せたぞ」

 笙子は始太郎・穣次郎に、兆一の「最後の無理」の内容を教えた。小山一族で男子が生まれなかった場合、ヨロズに頼み男子を身ごもらせる。そしてその時、
「その人は亡くなっちゃうのよ」と笙子。生まれた男子は亡くなる男の記憶を全て受け継いで来るという。そこではっとしたのは始太郎。自分はこれからやることがあるから一人にしてくれ、ただその様子を穣次郎には見せると言う。そこへ現れたのは垓和。やっとこの時がきたか、と、兆一と京の入った部屋の入り口で何かを呟きながら座り込んだ。

そして一夜が過ぎ、京は冷たくなった兆一を抱えながら部屋から出てきた。そして始太郎はこれ以上内気合を込めた天通拍手で皆の前から消えた。その一方垓和の外見が変化した。そこに現れたのはなんと万和!
「いや芳和だ。兆一から緑と色んなものを貰ったからね。それにしても思ってたんだ。ヨロズになった時思い出した事がたくさんあったけど、忘れた事がなかったかどうかが・・・そうだ思い出した!小山始太郎は『彼』だったんだ」
 始太郎は自らの決意を胸に時をさかのぼっていた。そして辿り着いたその時、ヨロズから「小山の姓を授ける」と聞いたその後、オリジナルガンダを抱えて戸惑っていたその人に向かってこう言った。
「大河一さんですね?僕の名前は小山始太郎です」
 これを全て見ていた穣次郎は、全地球に向かってこう宣言した。
「これですべての初めが解明された。今ヨロズに変わって我が父・垓和がナナキとなって全銀河に君臨した。地球連邦三代目大統領は私・七木穣次郎が立候補する。 そして前大統領の妹、小山笙子は私の妻として七木笙子となる」
 その言い方は既にただの体力派ではないことを物語っていた。笙子はそんな穣次郎をまぶしそうに見上げている。

 その一方で芳和と京を乗せた茂野河号が元山から飛び立とうとしていた。その外にはガンダ化した億次郎が居る。
「思えば今まで一番無理をしていたのは億次郎君、君だったな」
「芳和さん、あなた達はこれから無量紫光団の一員となって銀河系外宇宙へ行くんでしょう?俺はこれから零子と五人の娘達を引き連れて後を追います。兆一が目覚めたら、そう言って下さい」
 兆一・・・小山兆一はもう死んだ。しかし「兆一」はまだ死んでいない。芳和を父親として、京を母親として間もなくこの世に生まれて来る。

 間もなく「大河兆一」が生まれようとしている。

■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections