名んだべやあ! 七木ゆづる千鉄
俺の名前は代々木劫。あだ名が「鼻毛の劫」だって?大きなお世話だ!
俺には両親がいない。生まれもっての天涯孤独の身だ。何でも生まれたばかりの俺は、山梨県の方から東京・赤羽の病院に運ばれたという事だ。それから二十歳になる今まで近くの孤児院で育った。子供の頃から以上に鼻毛が伸びやすいといったところを除いては、全く変わった所のない子供だった俺だが、何時からか誰に教わったわけでもないのにまるでプロの床屋並に鋏・剃刀などの道具が扱えるようになっていた。だから将来は理容師になることを夢見ていた。 そして理容師の国家試験に合格して、いざ仕事を始めようとしたが、どこの床屋も俺を雇ってはくれなかった。 「鼻毛が伸びているような奴に、仕事は任せられない」 というのが理由である。確かにそうだ、俺そう思う。だけどこの鼻毛を「抜く」とか「切る」なんて事は俺には出来ない。別に誇りに思っている訳じゃない。やろうと思ってもやれないんだ。鼻毛を切ったり抜いたりするためにいろんな床屋へ行ったが、どこでも切ろう・抜こうとした人が失神してしまうのである。仕方無く自分でやろうとしても、なぜか鼻毛を鏡に写す度にやる気が無くなってしまう、そんな事の繰り返しだった。
そこで、やけのヤンパチ気味で始めたのが、「長距離歩き」である。北は北海道から南は沖縄まで、必要最小限のルート以外は全て歩き通した。旅費はどうしたかって?アルバイトに決まってるだろう。もともと体が頑丈に出来ていたから、土方でも何でも、いわゆる「3K]と言われるものなら何でもやった。でも、歩いてる最中は忘れられるが、歩き終わった時に何時でも思ってしまうのは、「床屋がやりたい」という事だった。こんな鼻毛の身でも雇ってくれる床屋はないか、床屋はないか、そんな気持ちは日毎強くなる一方、今まで神や仏どころか、他人に頼る事が無かった俺だったが、ついにある人に泣きついた。 その人の名前は代々木透さん、俺の養父である。何だか世界規模の組織の幹部らしく、俺もそのコネで日本、いや世界中の何処でもいいから、床屋ができる所はないかと頼んでみた。 すると、透さんは俺に何だろう、黄金色に輝いているコインを手渡して、 「これをもってJR中央本線に乗りなさい。降りる駅は東山梨駅によく似た所だとだけ言っておこう」 と、何だか意味不明な事を言った。一体そこはどんな場所なのかと聞いてみたら、 「君の故郷だよ。君もついに自分の『血』に目覚める時が来たんだね」 と、何だか意味深な事を言ってきた。 そして今、俺はJR中央線の各駅停車に乗っている。今電車は塩山を過ぎた。確か次の駅が東山梨だな、そろそろ降りる準備をしようかと席から立ち上がったその時、「異変」は起こった。 なんと、コインから黄金色の光が俺の鼻毛に入り込んで、前進の血流が激しく流れるのを感じ始めたのだ。 「こ、このままじゃ危ない、何とかしなくちゃ、何とかしなくちゃ、そ、そうだ。鼻息を出せ、鼻息を出せえーーー!」
その後どれだけの時間が経っただろうか、電車が止まった事に気がついた俺は、引き返さなくちゃ東山梨に降りられないと、急いで電車を降りて駅のプラットホームに立った。 すると、そこは東山梨駅によく似た無人駅だった。昔中央本線沿線を歩いた時に見た事があるから良く覚えている。 しかしここが東山梨駅じゃない事はすぐ解った。駅名表示板には「西山梨」とあったのだ。俺は自分の目を疑った。中央線に「西山梨」なんて駅などある訳がない。夢かとホッペをつねったら痛みがある。一体これはどういう事なんだ? 「西山梨郡にようこそ」 突然の言葉に驚いて振り返ってみると、そこには警察官が一人いた。 「え?西山梨郡って一体・・・」 俺の疑問にその人は何も答えず、 「これからどちらへ行きますか?まずあなたがここへ来た目的を言って下さい」 「え?目的と言われても・・・」 と、とっさに言葉をなくした俺だったが、透さんに言われた事を思い出し、 「あ、床屋で働きたいんですけど」 と言ってみた。すると、 「ああ、そうですか。それならあそこですよ」 その人の指差した先には、「代々木理容店」と看板が出ている建物があった。 「あそこでは普通の仕事と『店長補佐』の二つがありますが、あなたのその格好からして、『店長補佐』がいいと思いますよ」 その言葉を聞いて、 「やっぱりこの『鼻毛』がいけないのかなあ」と内心思いながらも、俺はその人に礼の言葉を言ってから別れ、駅から外へ出た。
その「床屋」へ入ってみると、中では大勢の人達が賑やかに客の髪を切っていた。 「はい、いらっしゃいませ。今少し待って貰わきゃいけないんですけど、よろしいでしょうか」 明らかに俺を「客」だと勘違いしている。「違います。客じゃありません。あのう、『店長補佐』をやりたいんですけど」 俺は慌てながらも、一体何処に「店長」らしき人がいるかを探しながらそう言った。すると、 「え、店長?ああそう。店長ならこの裏の『店長室』の入口から入ってちょうだい」 この返事は、なんだか少し「なめた」口調に感じられたが、言われた通り裏に回ってその「店長室」を探した。 「店長室」は、表の賑やかさとは違って少しひなびた感じの出来だった。そしてその中にいた「店長」、こいつが俺のこの後の人生を大きく変える原因となったのだ。
「すいませーん、店長さんいらっしゃいますか?」 そう挨拶をしてみると、 「ふぁーい、わしに何か用ですかあ?」 と、何とも間の抜けた声がして、丸禿の頭をした見るからに馬鹿っぽい男がでてきた。いや、良く見ると漫画の「オバケのQ太郎」に出てくるO次郎のように頭のてっぺんに一本だけ毛が生えている。そいつは、 「おやあ?君いい鼻毛をしてるねえ」 と、唐突な言葉を言ってきた。 「何!あんたは俺をからかってるのか?」 俺は思わずそう叫んでいた。 「いやあ、そうじゃないよお。その鼻毛の色がいいって言ってるの」 鼻毛の「色」だって?鏡を見てみると、なんと、鼻毛が黄金色になっているではないか!「わしの毛の色も見てくれるか?ふん!」 と、何か気合いを入れるような声を上げた途端、そいつの頭が黄金色に光った! 「な、何だ?一体何が光ってるんだ?」 俺は訳が分からなくなっていた。何で頭から光が出るんだ?俺は幻でもみているのか?「良く見ろ、光ってるのは頭じゃないぞ」 確かに光っているのは頭じゃなく、てっぺんに生えている一本の毛だ。それにしても、「店長」の話し方が急に変わったようだ。それまでは気の抜けたような言葉使いが、「毛の光」とともにはっきりとしたものになっている。俺は思わず、 「あ、あんた、一体何者だ?」 と、半ば驚きが混じった口調で聞いていた。「ああ、それはな・・・おや?誰か来たみたいだぞ」 そいつの言葉と共に、「西山梨駅」の踏切りの音が鳴り、下り電車が停車する音が聞こえた。 「この『店長室』に来るとなると、只の客じゃないな。ひょっとして・・・」 「ひょっとしてって、おれと同じ『就職希望』って事か?」 「いや、もうそんな事はない。刧、お前が来たことで『店長室』はもう人を雇うことは無い」 俺はびっくりした。何故こいつ、「店長」が俺の名前を知っているんだ? 「ああ、それはな、お前が俺の**だからだ」 俺はこの言葉の「**」と言う言葉が解らなかった。解るようになるのはこのずっと後だったのである。
「客」としてきたのは、何処かで見たことがある深い帽子をかぶった若い女と、黒の背広を着た中年の男だった。 「代々木んだべやさん、あなたの名前は代々木透さんから伺っています」 この男の言葉に俺はびっくりした。「店長」の姓が「代々木」だって?それに透さんが知ってるのか?それにしても、「んだべや」という名前は・・・。 「実は、このちとせが大の鋏嫌いで、今までは透さんから髪が伸びなくなる薬を貰っていたんですが、とうとうその薬の効き目がなくなり・・・こうなってしまったんです」 と、男が女の帽子を取ると、髪の毛がまるで爆発したように多量に現れた。 「透さんの言う事には、今まで押さえていたツケが来てしまったという事で・・・」 男の言葉を聞きながら、俺は、はっ!とした。この女、人気女優の笹原ちとせじゃないか。チャームポイントは長い黒髪。最近テレビに出ていなかったのはこの所為だったのか。それにしても、鋏嫌いとか言ってたけれど、んだべやの奴、どうやってちとせの髪を切るんだ?と、俺は思っていたが、 「解りました、俺に任せて下さい」 と、あっさりとした口調で引き受けてしまった。 「ん・・・んだべや、俺は何をすればいいんだ?」 何をしていいか解らずそういった俺に、 「ああ刧、お前はドライヤーと、『帰りの籠』の片棒を担ぐだけでいいぞ」 と、んだべやは穏やかな口調で答えてくれた。え?ドライヤー?「帰りの籠」?そりゃ一体なんだ?そんな疑問を持った俺を横に、んだべやはちとせの髪を切る用意を始めた。しかし手には鋏も何も持っていない。 「それじゃ始めます。ふん!」 と、気合いの入った声をあげたんだべや、頭のてっぺんの一本の毛が黄金色に輝き始め、何と、突然伸び始めた。ちとせは明らかに驚いたまなざしでそれを見ている。 「これで切ります。まあそうびっくりしないで下さい」 「これ」って、まさかその「毛」で?更に疑問が増えた俺だったが、んだべやはその「毛」をちとせの髪に当て、スッと動かした。 すると、何という事だ!あれだけ多かったちとせの髪が、バッサリと落ちていた。 「それじゃ、頭を洗いますから前に倒れて下さい」 んだべやの言葉に従って、ちとせは頭を前に倒し、洗髪をした。 「よし刧、ドライヤーだ。お前の出番だぞ」 んだべやの言葉に俺はドライヤーの場所を探した。しかしそんなものはこの部屋の何処にもない。 「あ、そうか、悪い悪い。ドライヤーってのは、お前の「鼻息」なんだよ」 え?俺の「鼻息」?何なんだよ、そりゃ。「鼻に気合いを入れて一息、それでいいぞ」 言われるが儘に鼻に気合いを入れると、俺の鼻が黄金色に輝き始めていた。 「よし、一息だな。ふん!」 鼻息を一回した途端、「ブァー」とした熱い風が俺の鼻から出た。そして、ちとせの髪はいわゆる「烏の濡れ羽色」の状態で仕上がっていた。 「はい、これで終わりです」 んだべやの言葉に、しばらく金縛りにあっていた男はやっと落ち着き、 「あ、あのう、代金の方は如何ほどでよろしいんでしょうか」 と聞いてきた。それに対してんだべやは、 「それはそちらの言い値でいいですよ。ここは『店長室』ですから」 と、あっさりと言った。 「そ、それでは今日用意したこの、」 男はそう言って大きめのカバンを出し、 「この中に入っているもの全額を出させて下さい。これからも宜しくお願いします」 とんだべやに差し出した。 「はい、解りました。これからは一年に一回でいいですよ」 と、んだべやはにこやかに言った。 「え?一年に一回ですか?」 男は明らかに驚いているようだ。男だけではない、ちとせも同じである。だから、 「あ、あなたは一体何者なんですか?」 と、んだべやに聞いてきたんだろう。 「いやあ、俺はちょっとした『力』を持ってるだけですよ。それに・・・」 んだべやは俺を指差してさらに続けた。 「この、劫もです」 「え?俺?俺にも『力』?・・・あ!」 「そう、その鼻毛だ。俺たちには同じ血が流れているんだ。『黄金色の髪の一族』の血がな」 ・・・「君もついに自分の『血』に目覚める時が来たんだね」・・・ そうか、透さんはこの事を言っていたのか、俺はあの言葉の意味がやっと解った。そして、この後ちとせと男を送った後で、さらにその意味を強く思わせる事になる。
ちとせと男の二人を乗せた籠を担いで、どれ程歩いただろうか、 「はい、着きました。二人ともよく我慢しましたね」 と、んだべやの声、此処は何処だ?と、辺りを見回してみると、何と「韮崎」と駅名が出ている。ひょっとして中央本線の韮崎駅か?「此処から上りのホームで乗れば、東京まで行けますから、お待ちになっていて下さい」 二人は籠から降りて、それぞれ礼の言葉を残して上りのホームに去って行った。 「さて、店に帰るか。劫、今度は大変だぞ。何しろ帰り道は命懸けだからな」 このんだべやの言葉に、 「え?何が命懸けなんだ?」 俺の問いに、んだべやは何も答えず、 「それはこれから解る。じゃあ行くぞ」 と、サッと立ち上がった。俺は慌てて、んだべやの後を追って立ち上がった。 韮崎駅から東へ向かううちに、辺りは段々暗くなり、やがて真っ暗になった。そして、んだべやの一本毛・俺の鼻毛、それが闇路を照らす灯の様に輝き出して来るのが手に取る様に解った。 ・・・それからどれ位時間が経っただろう、帰り道も峠に差し掛かった時、周りの山という山が緑色に光り出して来るのが見えた。そしてその光は明らかに俺たちに向かって来ている。 「・・・Yerrow is the Devil! Green is the God」 そんな叫び声と共に、何かエンジンの様な音が次第に大きくなって来る。こいつらは何だ?まさか、俺達を襲おうとしているのか?「逃げなきゃいけない、早く、逃げるんだ!」と、籠を担ぎながら必死の俺の「心の声」を、聞いたかのように、 「劫、俺たちには武器がある。俺たちの『毛』だ!」 んだべやの「心の声」が、更に、んだべやの叫びが聞こえた。 「怒髪、天を突く!」 この叫びと共に一本毛から、まるで連発の打ち上げ花火のように黄金色の光の玉が放たれた。そして俺も叫んでいた 「噴発、鼻毛!」 俺の鼻の穴からは、さながら二つの竜巻のような黄金色の風が出ていた。 「What? Second yerrow man?] 奴等の驚きの声らしき響き、それと共に緑色の光は急激に消えて行った。それでも残りの光が俺たち目掛けてやって来る、そしてその光が俺たちに接近しようとしたその時、 「Stop! Yerrow isnユt The Devil! The Devil is some of Green!」 何処かで聞いた声だった。そしてその声を聞いた奴等は、良く解らないが何だか驚き、恐れているようだ。ひょっとして・・・ 「ああ、これは透さん、お久し振りです」 と、んだべやの声。やっぱりそうか!
その後の帰路で、透さんは一緒に歩きながら俺に「黄金色の髪の一族」の事を教えてくれた。 かつて世界中にはびこっていたその一族は、ありとあらゆる悪事をやっていた、というのはアメリカに本部がある「GreenWorld」の一方的な見方で、悪事をやっていたのはそのほんの一部、特に日本にいた「一族」は、逆に悪事を防いでいた。 その事に気付いた透さんは、「GreenWorld」の幹部として日本に残っていた「一族」の保護をしようと考え、三人の新生児を西山梨郡の病院にかくまった。 「その中の二人が俺と劫、お前だ」 と、んだべやの一言。それじゃもう一人は?俺の問いに透さんはこう答えた。 「それは私の娘だ」 しかし「GreenWorld」の下っ端の連中は透さんの思いとは裏腹にその病院に火を放とうとした。その事を知った幹部が三人のうち一人だけ、つまり俺を東京へと移し、正体がばれないようにコインに黄金の色を封じ込めた。 「君以外の二人は、すでに物心が付いていたから何もしなくても大丈夫だと思ったんだ」 と、透さんの言葉。これで全て万全と思ったが、下っ端の連中はなんと病院にダイナマイトをしかけたのである。 「その時の、んだべや君は立派だった。自分の髪の毛で娘の全身を隠し、爆風から娘を助けてくれたんだ」 そしてその代わりに、んだべやは髪の毛を失ってしまった。たった一本を除いて。 「それじゃ、俺も此処に来た事だし透さんの娘さんも来るんですね」 俺のこの言葉に、透さんも、んだべやも、何だか渋い表情になっていた。 「どうしてなんです?何故すぐに来れないんですか?」 「劫君、」 「劫、」 「んだべや君、君から・・・」 「いや、透さんから・・・」 二人が同時に話し出そうとして、お互いに譲り合った。 そして透さんが話し始めた。「GreenWorld」の下っ端連中がまだ「黄金」狩りをしている事、娘さんがまだ精神的に落ち着いていない事など、まだ俺たち三人が会うには時期尚早で、そして娘さんが今いる所を明かせないからだというのだ。 「んだべや、それにしても新生児でもう物心が付いているなんて、お前と透さんの娘さんて、一体何なんだ?」 「劫、それはな、・・・」 んだべやの言葉が突然とぎれた。 「どうした?んだべや。」 「わ、忘れちまった。俺はあいつの、そしてお前の何なんだ?さっき奴等の攻撃に反撃した時、記憶までエネルギーに変えちまった」「な、何を言ってるんだ、んだべや」 こいつ、何てボケなんだと思った俺だったが、 「劫君。さっきもいっただろう?んだべや君は生まれてすぐに一本毛になった。『黄金色の髪の一族』にとって、髪は命そのものなんだ。少しぐらい忘れっぽくなっても許してやってくれ。いずれ時が来たら・・・」 と、透さんは遠くを見据えたような顔つきでこう言った。 「・・・時が来たら、娘を君達の前に来させよう。そうすれば、んだべやくんの記憶も完全に戻るだろうから・・・」 そして、再び俺たちは籠を担いで歩き始めた。峠を越えて下り道になっても、相変わらず辺りは暗いままである。一体この道は何なんだろう。 「これは『時の道』なんだ」 と、んだべや。 「この道は、日本の裏側の『西山梨郡』と、普通の日本を結んでいるんだ。さっき奴等がやって来たエンジンの音は、タイムマシンなんだ。あれは此処にいる透さんが発明したんだぞ」 「それじゃあ、俺が乗ってきたあの電車も?」「そう、あれも透さんが設計したものだ。『中央支線』は、中央本線の塩山駅と韮崎駅の間にある『時の道』なんだ。そして『西山梨駅』はその途中にある唯一の駅で、特別の人間だけが降りられる駅なんだ」 特別の人間か・・・、そうか、俺といい、笹原ちとせといい、あの駅に来たのは何かしら「事情」がある人間だけだったっけ。 「しかしな、劫君」 と、今度は透さん。 「その『特別』ということだけれど、何もいい意味ばかりじゃない。その反対もあるんだ。君にはそういうことも覚えておいて貰わないといけない」 「え?何でですか?」 俺の問い掛けに透さんはこう答えた。 「これから君は、『代々木理容店』の副店長だ。今まで、んだべやくんは相当無理をしてきた。これからは君がその代わりをしなければならない」 「代わり」って一体何だ?そう俺は思ったが、店に戻った時その疑問はすぐに解けた。籠を担ぎおえて「店長室」に戻った途端、「ふわぁーい、そんじゃわしは眠らせて貰いますわい」 と、んだべやの奴、口調といい、態度といい、俺が初めて会った時の「腑抜け」になってしまったのである。 その後、俺は透さんから今日担いだ籠を店長室にきた客を韮崎駅まで、俺の代わりに今まで動いていたロボットを見せて貰った。 「このロボットのエネルギー源は、君が此処にくる前に君に渡した、あの黄色いコインだったんだ」 そしてもう俺が来たから、このロボットは用済みだと言って、透さんは書き置きを残しロボットを持って「西山梨駅」の下りホームから去って行った。
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