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此処に兆一・命動章 作者:七木ゆづる千鉄

第11回   対抗戦後半、天地ボール・悠鳥ボール、結果引き分け
 此処まで闘いが長引いてくると、元山の宇宙人の中にこの闘いそのものを無くそうとしてくる奴等も出てくるだろう、そう予測した天河は、「拍手・三拍子」の型を振り始めた。この型には丁度弓を引くような動きがあるが、それを使ってスタンドとグランドを完全に分離した。邪魔をしようとフェンスを越えてグランドへ何者かが入ろうとすると、見えない矢に刺されその場で失神して、無量紫光団に連れて行かれる、そんなことが2・3回起きてスタンドからの妨害行動は一切無くなった。後はグランドに出ている奴等の行動だが、それは兆一の「天地ボール」の「天!地!」の声ごとに来る震えが全員に感じられてこちらも無くなった。
 そして回は二十回の表、打順は八番・球八。
「皆、打たせてくぞ!」との兆一の声に驚いたのは元山のほかの面々、一体あの球をどうやって打つのか興味津々の面持ちである。
 球八は両目を閉じて打席に入った。そして兆一の「地!」の声と共にバットを振り始めると、「カキンー」との音と共に大きなフライが飛んだ。そこで億次郎の「地!」の声と共にセンターの中が打球を捕った。これを見ていた元山の面々は「そうか!」としたり顔で球八の打ち方を真似ようともくろんだ。それがどんな結果をもたらす事など誰も知らずに・・・。
 二十回の裏が終わったとき、審判と兆一・球八で試合をいつまで続けるか話し合いが持ち上がった。結果は、「元山のメンバーが元に戻ってから九回する」と。そして二十一回の表、元山交代組の力自慢の男が代打として登場。兆一の「天地ボール」を球八の打ち方で打とうと意気込んだ。球八は、「真似すればいいってもんじゃありやせんよ」と一言釘をさすような言葉を吐いたが。そして一球目、兆一の「地!」の言葉に合わせてバットを振ったが、ボールがバットに当たったときにそれは起こった。「ガツン」ト鈍い音がして奴はその場に倒れ込んだ。駆けつけた球八が「やっぱり」と一言、何と両足が骨折していたのだ。
「京さん、すいませんがちょっと来てくれやせんか?」
 球八の言葉に頷いて京がその場で天通拍手、奴の足は治ったが、その代わりその姿が人間ではなくなった。球場いっぱいに広がる驚き、此処で垓和が垓通拍手。奴の姿は人間に戻ったが、もう何もする力は残っていない。そんな奴を無量紫光団団員が連れて行った。
「こうやって山をきれいにしないと、河とはつなげないでやんすね、兆一さん」球八の言葉に頷いた兆一に、元山の交代組が恐怖の声を上げた。その場から逃げようとした奴等もいたが、それは無量紫光団に全員捕縛された。
「ここでやることをやってから捕まったほうがあとのお仕置きも軽くなるってことでやんすよ、ねえ」この球八の言葉に頷いた元山先発組の面々、かくして試合はまだまだ続く。
 次の打者は、兆一が叫ぶであろう「地!」の一言に明らかにびびっている。そこで兆一はこう宣言した。
「もう、俺は『地!』を言わない!」
 そして兆一が「天!」と叫んで投げた一球目、一体どうなるんだ?と球場中の誰もが注目したその時、「地!」と叫んだのは何と一塁手の劫太郎!ボールは見事億次郎のミットにストライクでおさまった。こうなると困ったのは元山の打者陣、これから誰が「地!」と叫ぶのか七人もいるから解らない。そんなこんなで二十一回の表は三者三振で終わった。
 それからは守備の方で茂野河にこれといった事はなく回が進んで行った。しかし攻撃の方ではそうではなかった。毎回登板してくる元山の投手に対して、茂野河の各打者は必ず腹に打球をお見舞いして交替させる、そんなことが何回も続いた。
「このまま奴等が無くなるまで何回かかるんだ?」劫太郎がそんな疑問を皆に投げつけた。
「そりゃ、居なくなるまでだろうなあ」と明。
「ええい!そんな悠長な事を言ってると・・・」劫太郎の言葉に合わせて、ばっさん、ばっさん、と悠鳥の飛ぶ音が聞こえて来た。悠鳥は一体何処に?
「俺の左手に宿っているぞ」と兆一。かくして二十七回からは兆一が「悠鳥ボール」を投げ始めた。左の下手投げから繰り出されるその球、よく浮いていられるなと誰もが思うほど遅い。しかし打者が打とうとバットを振ると、さながら大リーグボール3号の如くすり抜けてミットへ入る。だからといってゆっくり打とうと待ち構えると、全身全霊が止まってしまう・・・層、悠鳥を捕らえる事が出来ないように誰にも打てない球なのだ。
「この球を打てるとしたら、球八だろう。そのとき全てが解決する」この兆一の言葉の意味する事とは?全ては三十回表・球八の打順のときに明らかになる。

 そして迎えた三十回表、球八の打順である。球八のバットからは、はっさん、はっさん、との音が聞こえている。これを聞いた億次郎は「打たせて行くぞ!」と他の八人、ダッグアウト、そして茂野河側スタンドへ声を掛けた。
 そして兆一が投げた大一球を、球八は悠鳥その2の乗り移ったバットで打った。打ったボールは何処へ?見ると上空に大きな白い球体が見える。それがだんだんグラウンドに落ちて来る。
 ここで茂野河全体が行った「人呼」により、白い球体は、ぱっさん、ぱっさん、と音を立てながら九個の球となって九人のミット・グラブに納まった。それと同時に黒い弾丸が球場中に降り注ぎ、スタンド、ダッグアウトに残っていた元山交代組を全員気絶させ、無量紫光団が全員を連行して、リエントリー制で元山のメンバーが全員先発に戻った。これで三十一回から四十回まで、元山と茂野河をつなぐ闘いは大詰めを迎える。

 三十一回の表から兆一は右の上手投げに変えた。その速さに元山側はビックリ。本当にこれが今まで連投した男の投げる球なのか?しかし球八がこう断言。
「ここ丸打の水の力でやんすよ。あっし等もその水を飲んで相手をしやしょう」
 そして回は進んで行った。元山が2点取ればその裏茂野河も2点取る。そんな状態がずっと続き、四十回の裏、三点取られたあと打順は九番・遥。四球を選び、一番兆一につなぐ。兆一はライト前ヒット、二死一・三塁で億次郎の打順。センターオーバ−のホームランで遂に同点。ここで逆転かと思われたとき突然茂野河メンバーのパワーが落ちた。次の劫太郎は三球見逃しの三振。
「やっぱり、山と河は引き分けじゃないとな」とつぶやいたのは億次郎・兆一・そして伍四郎。

 かくして、元山と茂野河を丸打で完全につなぐための闘いは終わった。これから始まるのは、その丸打で締結される「地球連邦」の締結に向けた動きである。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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