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此処に兆一・命動章 作者:七木ゆづる千鉄

第10回   対抗戦前半・うなる弾丸剛球
 元山の選手は、全員球八の兄弟である。と言っても宇宙から探した人材をそう言う形で出しているのだが。打順およびポジションは次の通り。一番:一郎(投手)・二番:次郎(二塁主)・三番:三郎(三塁手)・四番:四太(一塁手)・五番:壱五(遊撃手)・六番:六郎(左翼手)・七番:七郎(中堅手)・八番:球八(捕手)・九番:九郎(右翼手)。これらの面々はリエントリー制で一度交代しても又戻って来れる。
 一方、茂野河側の打順は、一番:兆一、二番:億次郎、三番:劫太郎、四番:明、五番:善三郎、六番:卓、七番:寛、八番:中、九番:遥。打順はポジションの数字で決めたのだった。
 球審の「プレイボール」の声と共に始まった試合、一番打者・一郎は兆一の投球に三球三振、二番打者・次郎は2−0のカウントから三塁ゴロ、善三郎が調子よく捌いて一塁封殺、三番打者・三郎はは初球を叩いてライト前ヒット、四番打者・四太がセンターオーバーのホームラン、ここで元山側から声援が起こった。
「良いぞ、茂野河なんかに負けるなよ!」
 負けじと茂野河側から、と言っても団旗役穣次郎・太鼓役始太郎・型振り役天河・そして声援は広美と順子のわずか五人だが、
「裏取り返せばいいよ、もうこれ以上点数取られるな、負けるな茂野河!」と、「負けるな茂野河」の大合唱が起こった。その声援の大きさはスタンドにぎっしり詰まっている元山に負けていない。これには元山の誰もが驚いた。球八・伍四郎・りくを除いては。
 続いて五番打者・壱五は三球三振。かくして攻撃は裏の茂野河側に変わる。一番の兆一は、ボールをよく見てカウントを2−3にして、最後の球を掬い上げた。見たところ、浅い外野フライになりそうな打球であるが、兆一の、
「点!」と叫びながらの天差しで打球は勢いを増して飛び、場外ホームランとなってしまった。
「良いぞ、良いぞ、兆一。良いぞ、良いぞ、兆一」
 スタンドも一気に盛り上がる。続いて二番の億次郎、初球を痛打、弾丸の如く飛んだ打球はこれもまた場外ホームラン。又盛り上がるスタンド、ここで戻って来た億次郎が三番の劫太郎に囁いた。「これ以上点は取るなよ」
「普通に打てば良いんだよな」
「そうだ、そして九回終了時に2−2の侭でいれば良い」そのあと元山の控え選手達を引きずり出す、それが茂野河の、そして球八・伍四郎の目論見でもあるのだ。劫太郎は強烈な三塁ゴロだったが三塁手の壱五が軽快に捌いてアウト、明は大きなライトフライ、善三郎は三球三振で一回裏の茂野河の攻撃は終了した。
 ここから億次郎の言葉通り、元山・茂野河のどちらにも点が入らずに九回裏が終了した。ここで審判が兆一・球八を呼んでこれからどうするかを聞いてきた。
「兆一さん、これから奴等をどんどん出しますが、よござんすか?」
「勿論、全員出すまで試合は続行、それで良いよ」
 元山のベンチには「俺から出せ」と言わんばかりの猛者が大勢来ている。此処で兆一は球審にポジションの変更を伝えた。今度は億次郎が投手、兆一が捕手となって奴等を迎えるのである。
 そして迎えた10回表、元山は球八以外全員選手を変えてきた。しかし奴等は億次郎の投球にギョッとする。右の上手投げから繰り出されるその球は正に「弾丸剛球」それと同時にそれを難なく捕る兆一にも驚きの視線が注がれた。先頭打者の五番・ファイブ(外人の振りをしているが明らかにこの闘いに勝って地球を巣食おうとしている銀河系外宇宙人)は球威に息を飲んで見逃しの三球三振。六番打者、誰が出るか少し時間がかかったが、「俺が出る」と出たシックス、初球を打とうとして「大ショック」が起こった。なんと金属バットが折れるどころか穴をあけられたのである。さながら銃弾が通過したように。
「子、こんな球はルール違反じゃないか?」と言いかけたシックスを球八がこう止めた。
「だったらあんた等の素性を明かしても良いんでやんすよ」そしてその後三振したシックスの次の打者を催促した。やむなく出たセブン、見逃しの三振に終わった。そして奴等が思った事、これは球八には直ぐ解ったが、
「こいつは勝てない、だったら茂野河の誰かを出場不能にして不戦勝にするしかない」
 これは茂野河の全員にも直ぐ知れ渡った。これからは普通の野球じゃなくなるな、兆一の漏らした言葉に頷く一同。十回の裏・茂野河の攻撃はそんな元山の殺人野球との勝負となるのだった。

 元山の変わった投手は腹切りシュートを次々と投げ込んでくる。しかし五番・善三郎はそれを難なく受ける。カウント2−0で球八が善三郎にこっそり言った。
「ただ受けているだけでなくて、やり返しても良いんでやんすよ」
 そして三球目、投手の投げた腹切りシュートを善三郎が痛打!打球は投手の顔面を直撃、そのまま顔をグラブで抑えたためにアウトにはなったが、元山側に与えた影響は計り知れないものとなった。
「奴等をやっつけるためにはどうしたら良いんだ?」
「やっつけるなんて考えてたら、逆にやられちまいますよ。宇宙人の旦那方」
 この球八の言葉に、ギョッとした元山交代組。しかし中の女等がこう言った。
「私等と同じ、女を狙えばいい」
「どうですかね?おんなじ結果だと思いますがね」
 この球八の言葉を無視して、六番・卓の打順になったとき、殺人野球の矛先は一・三塁コーチャーの二人、笙子と京に向けられた。球八はそれを茂野河側に内緒で知らせ、二人とも「承知」と応答。これから起こることは奴等には全く予測不可能なこととなるだろう。

 卓が打った一球目は、弾丸ライナーが一塁コーチボックスへと飛んだ。一塁コーチの笙子は何ら臆することなくその球をキャッチして元山ベンチ側に飛ばした。その球が当たった男(球八を含めて先発メンバー以外の奴)は唸り声を上げながらその場で失神した。そいつを連れて行くのは無量紫光団の団員である。
「あいつ等は一体何者なんだ?」騒ぐベンチで球八がこう言った。
「この中で地球に巣食おうとしている奴を捕縛する人達でやんす。あんた等も図に乗ってると同じ目に合うでやんすよ」
 この言葉を聞いて直ぐ場外に逃げた奴等も、入り口で待っていた無量紫光団の団員に捕まった。もはや逃れるためにはこの勝負に勝つしかない。そう実感した投手は二球目を三塁コーチボックスに飛ばした。しかし三塁コーチの京もその球を難なくキャッチして今度は元山のスタンド側に飛ばした。
「何と!俺達は初めから何もかも見通されて此処に来ていたのか!」
 どうしよう・・・そうか普通にすれば何も問題は起こらない、そう気付いた奴などはそれ以降殺人野球を出さなくなった。

 そして十一回の表からは共にゼロ行進。そして十九回の表を迎えたときに、丸打駅から元山ベンチへ駆け込んだ女が、投手・億次郎の弱点を全員に披露した。そして億次郎は見た。自分が投げ込むストライクゾーンに浮かぶ零子の幻影を。
「タイム!」兆一がそれに気付いて億次郎と話し始めた。
「見えたんだな?億次郎」
「ああ、だがあんな幻、何てことはない」
「いや、例え幻でもお前に零子さんを打ち抜かせるわけにはいかない」
「じゃあどうするんだ?」
「億次郎、お前はこの九イニング俺の変わりに投げてくれた。これからは俺が投げる。「天地」ボール行くぞ」
 そして投手と捕手が交代。初めの兆一の球を見ていた交代組は「チャンス到来」とほくそ笑んだ。しかし、
「天!」と叫んで右手からボールを投げ上げ、「地!」と叫んで右手を左手の肘をにぶつけボールを捕手のミットにものの見事なコントロールで落とす、魔球「天地ボール」・・・この球をみた途端べちから声が消えた。球八は、
「ついに兆一さんも本気を出してきましたね」
と、待ってましたと言った様子だが。
 そして兆一が「人!」と叫んで「人呼」をしてから球状の様子ががらりと変わった。何と茂野河側のスタンドにも人が入ってきたのだ。
「お父さん、私達も応援に来たわよ!」
「樹、華美、陶子、加奈子、水奈美!」驚いたのは億次郎。娘達五人と、それに加勢しての集団がスタンドを埋め尽くした。「山」と「河」をつなぐための闘いも、いよいよ大詰めを迎えようとしていた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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