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此処に兆一・激動章 作者:七木ゆづる千鉄

第9回   地球打ち出し・日本版
 億次郎・兆一と、茂野河号に乗った茂野河応援団が元島に近づいた時、黄色い炎が元島に集まってきた。他の島の人々はそれを注目している。それはこの多野河の神・ヨロズがこれを良く見て置けと言ったからである。東・西の街にはもう誰もいなくなっていた。文明を教える必要がもう無くなったのである。これから遂に地球が消えるか増えるかの分岐点が迫っているのだ。

 一方、応援団の帰りを待っている垓和・京・広美・順子の四人だが、京が順子と広美に何かを話している。億次郎の助け無しで、日食のないこの時に零子に会う方法を考えたというのだ。
「私を見て貰えばいいの、私と零子さんはある意味同じだから」億次郎にとっての零子は兆一にとっての自分だと断言する京に、二人もうなずいた。そしてマネージャー三人による「天」「地」「人」三つの拍手が放たれた。広美が天、順子が地、そして京が人。この瞬間、三人と垓和のいる所が紫色の光に包まれ、そして元島から四人の姿が消えた!
 これを見ていた茂野河号の善三郎は、
「え?みんな何処へ行ったんだ?」と驚きの声をあげたが、
「いや、これで良いんだ」と明が一言を放ち、
「さすがミン、明晰だ」と天河が続き、
「何処に行ったかは零子の所だ」と寛が答え、
「さっすが寛、ひっろしっの『寛』は視野がひろっ過ぎる!」と中が調子に乗り、
「ど真ん中な事ばっかじゃねえか、チュンよ」と卓と孝太朗が強引に話を持っていくと、
「もうお喋りはやめだ!」と怒濤の如くの春男の締め、これが茂野河応援団の普段の遣り取りなのだろうか、兎も角一同は元島へ向かっている。

 一方、Ray-O-Yellowの全員も元島に向かっていた。地球滅亡の最大のチャンスだと、その黄色い炎を全開にしている。そして元島に着いた時、茂野河応援団一同と二人の家康・竜馬・継乃助も同時に着いていた。Ray-O-Yellowの親玉が応援団達に、
「お前等の無駄な活動もこれで最後だ!我が手で地球を壊してやる!」と叫ぶと、
「ああ、そうしたければすればいい。だが後でどうなっても知らないぞ」と兆一が意外な答えを返した。そして奴らが放った黄色い光・・・この中に元島が溶けていく。そして、
「やった!これで地球は終わりだ!」と喜ぶRay-O-Yellowの面々、しかしこの後事態は思わぬ方向へ行く。溶けていく風景が次第に黒い霧と化して行き、やがて霧が段々濃くなって辺り一面が黒い固まりとなっていったのだ。それはRay-O-Yellowの面々も一緒で、黄色かった自分達の色までも黒くなっていく、これに驚いた一人が、
「どうしてなんだ、何故我々が黒くなっていくんだ?我々の黄色は絶対的な色の筈なのに」とこぼした。それに対して明は、
「物事の最後は『黒』に決まっている。お前達の『黄色』は、いわばヨロズから貰った最後の救いの色。それに気付かなかったお前達に、もう救いの手は来ない。このまま『黒』の中で永久に沈んだままだ。これからずっと終わることのない苦しみの中で暮らすが良い。解っている俺達には、まあ少し楽なところだけどな」ときっぱりと言った。そして黒の色の中から。
「地球を壊すとみんな『黒』になるんだ。解ったか!腐黄色者ども!」と垓乃島の億太郎の声がした。Ray-O-Yellowの全員がその後言った言葉、
「助けてくれ!俺達はこんな窮屈なところにいたくない!誰か、助けてくれぇ!」
 この後、何処からか聞こえた「垓!」という言葉と拍手の音、するとそれまで黒かった景色が一変して、もとの元島の光景に戻っていた。
「助けてくれって言ったから、助けてくれたぞ。垓和さんが」と兆一の言葉である。そう、垓和の「垓通拍手」で地球滅亡を無かったことにしたのである。そしてみんなの前に現れた零子が、
「これで解ったでしょ、あんた等も楽になりたかったら、壊すことより造ることに考えを持って行きなさいよ!」とRay-O-Yellow達を一蹴して、連中は元島から去っていった。そして水かさを増した多野河の水に溶けていき、多野河の全ての島々に黄金色の玉を残した。これは一体何だ?それに答えたのは垓和だった。Ray-O-Yellow達の残した黄色がこの河の水で変化して、それぞれの島・即ちそれぞれの国の目指す地球をここから打ち出すための火薬が出来たのだと。
「それじゃぁ、何故俺達の所にはそれがないんだ?」と疑問を投げかけたのは継乃助である。それには兆一が答えた。
「それは俺達がいるからですよ。俺達には元々『黄金』はあるし『青』もある。それに彼女・零子さんが加わって『赤』まである。何時だって地球を打ち出すことは出来ます」
 この言葉に不服そうに口を出して来た者がいた。それは竜馬で、
「それなら、何で今まで打ち出さなかったんじゃ?おんしら、わしらの後を付けてばかりで、何もしなかったじゃろうが?」と厳しい一言である。それに対しての言葉が出なかった応援団一同。答えたのは、垓和である。
「それは、私を出す為ですよ。此処にはヨロズという『天』、零子さんという『地』、そして皆さん『人』全部揃っています。しかし揃い過ぎていて、打ち出す時何を基準にすればいいのか誰にも解らない。だから基準になる私という『垓』が必要だったのです」そして垓和は零子に向かって何か合図をした。頷いた零子は飛び上がり、「日食」を起こし始めた。これから全世界が注目する、「地球打ち出し」が始まるのである。

 元島にいた、「山」から来た家康と北夷島の竜馬・継乃助、先ず億次郎達応援団「河」組が家康に、
「天!」と叫び青い光を当て放った。そして山へ帰っていく家康。その後に残った竜馬・継乃助の二人に零子が、
「地!」と叫び赤い光を当て放った。そして二人は、家康とは違う景観の山へと帰って行く。此処で京達応援団マネージャー組が、
「人!」と叫びその場を白くした。すると次に浮かび上がって来たのは「河」から来た家康と南蘭島の竜馬・継乃助である。そして最初に叫んだのは兆一達応援団「山」組で、
「天!」と叫び、橙色の光を家康に当て放ち、家康は海へと去って行った。そして更に、残った継乃助・竜馬の二人に、
「地!」と叫び、緑色の光を当て放ち、二人は家康の時とは景観が違う海へと去って行った。
 そしてその後、垓和と億太郎が、
「垓!」この叫び声の後、視界は真っ黒になった。その後暫く続く静寂・・・、
「!」気付くと日食が終わり、元島には応援団一同と垓和、それに零子の姿だけがあった。
これが多野河の島々が見た、「地球打ち出し・日本版」のあらましである。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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