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此処に兆一・激動章 作者:七木ゆづる千鉄

第5回   億次郎の夢枕の零子と、Ray-O-Yellowの企み、そして謎の男の涙
 多野河に来てから二度目の日食、応援団一同は小屋の中で眠りに就いた。寝る部屋は二年・三年・そしてマネージャーの三つに分かれている。そんな中億次郎は、夢の中で初めて零子と逢った。
 それは橙色の荒野にぽつんとあるオアシス、零子は億次郎を見つけると、嬉しそうに手を振って手招きをした。まさか自分のことが解るのか?と少しびびつた億次郎、だがそれは取り越し苦労だった。
「ああ、やっとRay-O-Yellow以外の人と会えた。アタイの名前は零子。あなたの名前は何ていうの?」
「お、俺?ああ、大河億次郎っていうんだ」
「ふうん、あんたも此処で地球をいっぱい造る仕事をしてるの?そりゃそうだよね、そうでなきゃアタイの所へなんて来る訳ないもん。それにしても億次郎って、どっかで聞いたこと有るような名前だなあ」やはり零子の心の奥底には昔のことが眠っているようである。億次郎はお前・零子が自分の母であることを言おうとしたが、意識の何処かにいる億太郎が「それは止めろ!」と叫んだので、言おうとした言葉を急いで飲み込んだ。
「それじゃあ億次郎、そろそろ日食が終わるよ。今日はここまで」と零子。今度は肉親・友達も連れてきてと言った途端、億次郎の眼からオアシスが遠ざかった。そして目覚めた時、兆一がこう囁いてきた。
「どうやら逢えたようだな。次回以降俺達を連れて行くかどうかはお前に任せる。じゃあ、朝のミーティングだ」
 億次郎は頷き、応援団一同による初めてのミーティングが「山」・「河」組による二人の徳川家康の違いについてから始まった。

 二人の徳川家康、その違いはとは、「河」の家康は本当の源氏の血流で本能寺の変の後海路で三河に帰ろうとして舟が難破して西の岸部に漂流したこと、「山」の家康は源氏の血流ではなく本能寺の変の後伊賀山を越えようとして道に迷い東の街の入り口で倒れたと言うことである。これ以外は全く同じ、と言うことは二人を何とかすれば地球が二つ出来ると言うことか?しかしそれは違った。二人をそれぞれ導いた中州が、また違うものだと言うこと。南蘭島と北夷島、この二つが、南は穏やかなところで他の島々と友好的に付き合おうとしているのに対して、片や北は騒々しいところで他の島に対して敵意むき出しであると言うことである。北が家康を受け入れたのは元島だから、茂野河応援団のいるこの島が、多野河地球の神・ヨロズに直結していることは極めて有名なのだ。
「それで二人のどっちをどっちに置いたんですか?テンさん」この億次郎・兆一の問いかけに、
「お前達が思っている通りだよ」と天河。「山」が北、「海」が南だという。そしてこれからの家康の取り扱いが決まった。山の家康は茂野河号で、海の家康は億次郎の分身ガンダで東と西の街を行き来させると言うことに。そんな時斥候用の億次郎の分身ガンダが、新たな山と海を観測した。
「山は冬、海は夏・・・まさか、幕末の男か?と言うことは、河合継乃助と坂本龍馬!」何てこった、家康をどうしようかって時に、幕末までいじらなきゃいけないなんて。全員が頭を抱えたこの事態に、兆一がヨロズに文句を言った。
「ヨロズ、いやこれからは親父と呼ばせて貰うぞ。親父は『和』を好む質じゃなかったんじゃないのか?これじゃ全く『和』が無い・・・『万和』から『万(ヨロズ)』、名前と共に『和』を捨てたのか?」
「いや、そうじゃない」とヨロズ。「和」は預けたのだ。自分が出来るのは此処まで、仕上げるのは兆一達茂野河応援団だという。これを受けてミーティングが再開、結局継乃助と龍馬はマネージャー達が引き受けることとなった。そしてミーティング、これで終了と誰もが思った時、圭が三つ目の議題を出した。自分の見た夢の話である。「夢」?ひょっとして零子かと一瞬どきっとした億次郎と兆一だったが、それは違った。垓乃島に、この多野河の垓乃島に誰かがいるというのだ。そう、先ほど出た名前不詳の男である。しかし、見えたのは京だけ、億次郎・兆一ですら見えていない。しかし京の話を聞いた兆一が直ぐに答えを出した。いつか垓乃島に行けるようになった時、彼に会って名前を付けようという。彼に「和」を授けようと。
 一方、多野河の何処かにある零黄島という、そうRay-O-Yellowの拠点では不気味に声をあげる腐黄色者達がいた。
「遂に日本の、江戸時代。始めの一人で二人と終わりの二人がやってきた。こいつ等を使って江戸時代を壊せば、日本も壊れる。そうすれば地球も壊れる。そして我々の安らげる時が来るのだ。ヨロズ・ガンダ何するものぞ、世界は我々が終わらせてみせる」
 そして聞こえる不気味な笑い声。そんな時その中のリーダー格の一人がぼそっと呟いた。
それにしても、零子様は何故我々の言葉に耳を貸して下さらないのか?あの方は自分が地球のために犠牲になったという自覚がないのだろうか」

 これを見ていた垓乃島の男、目にいっぱいの涙を浮かべている。
「何と言うことだ。全て私が悪いのだ。こんな姿で地球に戻ってしまった私が」彼の慟哭が、滅多に振らない多野河の雨を降らせた。この雨が、後に多野河地球に意外な出来事を起こすことになる。それは・・・。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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