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此処に兆一・激動章 作者:七木ゆづる千鉄

第2回   垓乃島、悠鳥との闘いーその果てに着いた多野河元島
 ヨロズの「垓乃島へ行け」との言葉に従って、茂野河を下る応援団一同。やがて茂野河口を抜け黄金湾に入った。垓乃島は此処から真西に行ったところにある。其処には伝説の鳥・悠鳥がまるで島を守るかのように飛んでいて、今まで島に入った人間は誰もいないという伝説が流れている。そんな垓乃島が目の前に見えてきた。しかしそれから先へ景色が動かない。茂野河号のガンダの力を使っても、全員で空間拳の技を使っても全く動かないのだ。一体これは何なんだ?とどよめく一同の中で、
「ああ、これはこのままで居るしか無えな」と明朗な表情での栗山明の一言。そして、
「うんそうだな兄貴、このまましか無えな」
と寛大な表情での栗山寛の一言である。これに怒ったのは「ハン」こと飯山春男と河上卓で、
「おい!二人とも何を悠長なことを言ってるんだ!」この一言である。
 すると、周りのそれまで海が見えていた景色が黒一色に一変した。それと共に聞こえてきた音、

   ばっさん、ばっさん、ばっさん、
   ばっさん、ばっさん、ばっさん・・・

 遂に、悠鳥の登場である。丸い胴体に羽・触覚を二つずつ付けたその鳥は、応援団一同の目の前を緩やかに飛んでいる。これが絶対に捕まえられない鳥なのか?
「こんなゆっくりした奴、すぐに捕まえられらぁ。いくぞ!」と卓が捕獲網を手に取り、その悠鳥をとらえようとした。しかし目の前にいるそいつは、まるで大リーグボール三号のように捕らえるどころか、触ることも出来ない。
「大リーグボール三号なら、ゆっくりすれば捕れる筈だぁ」と門河善三郎が捕獲網を手にした。しかし、
「善三郎、おまん何をしてるだ」と明が声をを翔まで、善三郎は動かなかった。いや動けなかった。
 一体どうすれば悠鳥を捕らえることが出来るのか?このままではこのままになってしまう。全員が頭をひねった。そして兆一と億次郎が同時にこう言った。
「捕らえないようにすれば良いじゃないですか?」これに天河も賛成、全員で目を閉じ、「無打」の体勢で暫くいた。すると目を閉じて黒かった視界が白く輝き始めた。
「悠鳥その一、私達の中に入りました」と京の一言。全員が「やったぁ!」と歓喜の声をあげようとしたその瞬間、悠鳥その二が現れた。白い輝きがさらに強く、激しくなり、全員の目が焼けてしまおうとしている。

   はっさん、はっさん、はっさん、
   はっさん、はっさん、はっさん、

 羽音は聞こえるが、姿は全く見えない。兆一と億次郎はガンダ石を握りしめ心の目で姿を捕らえ、耳でその羽音の意味を掴もうとした。「ばっさん」は「場参」、「はっさん」は「発散」・・・そうか!
「みんな、悠鳥その一を目の前に出すんだ!」兆一・億次郎の一言に全員が従ったところ、悠鳥その二の姿が瞬間見えた。∞の形に羽・触覚が二つずつ、そしてその後、垓乃島の元の風景の中に悠鳥その三が現れた。形は「不定の定」の印に似て羽・触角は二つずつ。そして羽音はこうだ。

   ぱっさん、ぱっさん、ぱっさん、
   ぱっさん、ぱっさん、ぱっさん・・・

 そして垓乃島に降りた応援団一同に、兆一・億次郎が悠鳥三種の解説をした。その一は場の中心、0。その二は場の対極、∞。そしてその三は一と二の対決の結果、0×∞=不定形・即ち世界の当たり前のこと。
「俺達はもうテーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼの三つを全身全霊に込めたんだ。これから多野河で、それを実践していくことになることを、今此処でしっかり胸に刻んでいこう」
 そして茂野河号は垓乃島の中心、垓乃湖に着いた。その湖面に着いたその瞬間、全員の体から悠鳥その一・その二が乱れ飛んだ。そして現れた悠鳥その三、「お前達は何処へ行きたいんだ?」と問いかけてくる。「多野河」と答えると、「多野河の何処だ?」と答えてくる。えっ、何処かって言われても・・・。
「元(はじめ)だ!」とこれはヨロズの声。そこで天地がひっくり返る感覚に襲われた。そこで兆一の「天通拍手」・・・・・・・・。

 暫く七色の光が見えた。そして、真っ直ぐ伸びる黄色の河の小さな中州にいた。此処は一体何処だ?
「これは、元島だな」と言ったのは億次郎。兆一、京以外の全員が、え?と驚いた。何で「元」なんだ?其処に現れたのは、何と伍四郎?また此処に何故?
「こっちの方は掘り当てたぞ。そっちの方も見れたんだな」この一言に頷く兆一と京。何でも伍四郎達は、分厚いマグマと闘いながら丸打のガンダの祠の跡から此処まで掘り進んで来たという。そしてたどり着いたこの島に、「元島」という名前を付けたのだ。そしてこの東西に伸びた河が多野河。東に見える山脈に近いところに「東多野河市」が、また西に見える海に近いところに「西多野河市」があるという。と言うことは茂野河での「北」と「南」の対立がこれからの闘いの礎なのか?
「いや、それは違うぞ」これはヨロズの声だ。
「西と東は協調している。此処ではそれを壊そうとしている全地球の腐黄色者、結社『Ray-O-Yellow』の暗躍を押さえるのがお前んとうの役目なんだ。俺・ヨロズが造った地球、その為に出来たねじれのために地の底に落ちた腐黄色者。それが俺がこうなった為に自分が何故こうなったのか知っちまった奴らは、今もこの河の中に自分達の色を流している。そしてこの『多野河地球』の色は赤、だから両岸の色は橙なんだ」
 そう言われればこの河の両岸は何処までも橙色だ。そしてこの元島の色は?あ、緑だ。そして伍四郎達元山開拓団が此処に出てきた穴は・・・青だ。
「食べ物に困らないように、例の木の種は蒔いて置いたからな」と伍四郎。成る程茂野河号を作ったその木は此処元島には茂っている。それにしてもRay-O-yellowの暗躍を押さえるって、叩き潰すってことなのか?
「いやそれは違う」と兆一。「むしろ奴らの動きを逆手にとって、此処から地球を無限大ぐらい造るってことなんだよな、親父」これに頷くヨロズ。此処に、「地球をいっぱい造る」という闘いが始まったのである。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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