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此処に兆一・激動章 作者:七木ゆづる千鉄

最終回   多野河での闘いの終結・新たな出発
 それにしても何故「地球打ち出し」があんなに複雑になったのか、その答えはヨロズが知っていた。地球を空間的に沢山造る為には、一つの国に一つの地球だけでは足りないのだ。それぞれの国で複数個「種」を出すことで、種と種が複雑に絡み合い、地球の数は更に多くなるのである。そう、まだ多野河からは「種」しか飛んでいない。種が根付くものが必要なのだ。それは・・・ガンダである。そう言ったのは億太郎だった。万和、いやヨロズには言いにくいことだからな、と。図らずも億次郎誕生の際に生まれた零子が、この多野河地球で「核」の存在になったことが、ガンダと地球の大きな結び付きの一つであり、億次郎の(かつては億太郎もそうだった)「青」、零子の「赤」が地球の核心の色なのだという。今他の島々でやっている「種打ち出し」が終われば、多野河から「黄色」が無くなり辺りは赤いマグマの中に溶けていき、それが種の根付くものとなる。その前に此処を去らなければ茂野河に帰ることは出来ない。しかしその為には・・・。
「それ以上は言うな!親父」と、億次郎が億太郎の口をふさいだ。兆一、京、それに垓和以外の面々は不思議な顔をしている。零子は・・・今日食をコントロールしていてこの場にいない。その為には、一体・・・まさか零子が?
「億次郎、今はまだその時じゃない。これから垓和さんに子供をつくってみる。ヒョッとしたらその子が何とかしてくれるかもしれないからな」と、兆一が億次郎の肩をそっと叩きながら言った。それを聞いて驚いた垓和、「私には子供をつくる能力なんて無い、一体何を言っているのか」と、言ったが、兆一は一切構わずに、手に何か分厚い本のようなものを取りだして京に渡した。この通りに作ってくれ、と。見るとその表紙のタイトルに京は一瞬驚いたが、解ったと言って小屋の奥に入り、他の団員、マネージャーと一緒に「気」を込めた声をあげた。そして、「出来た!」との声がしたところで、兆一が垓和を連れて中に入った。
 そこには新人間発生装置・完全版があった。兆一は垓和に頭髪を一本貰い、装置の「父種」部分に入れ、スイッチをONにした。すると辺りの光景が突然真っ暗になった。今まで日食中でも消えることがなかった七木で作った明かりまで消えてしまっている。
「この装置を動かすだけのエネルギーが不足しているんだわ」と、京の一言。中野圭として、そして大河京として二度通ったこの装置の仕組みを肌身にしみて感じたのだ。今までは「茂野河」という大きなエネルギーがあったから難なく出来たことが、此処では他に沢山の島々もある為に出来なくなっている。一体どうしたら良いんだと誰もが解らなくなったその時、億次郎の耳にこんな声が聞こえた。
「億次郎、アタイは此処に残るよ。その代わり子供達を宜しくね」それは、ガンダ石を通して兆一達他の応援団全員に聞こえ、気付くと日食は終わっていて、垓和の腕の中に二人の赤ちゃんがいた。二人とも男の子である。見ると垓和は泣いている。自分に子供が出来て嬉しいのか?いや、それだけではない。あの零子の言葉と同時に、
「そんなことをしてはいかん!君がどうなるか解らないんだぞ!」という垓和の叫び声はみんなの耳に確かに聞こえた。しかし、みんな解っていた。零子はそうしたくてそうしたのだと。新人間発生装置のエネルギー源になることで、零子は多野河の太陽に戻ったのだ。そして垓和の涙は多野河一体のマグマとなり、島々は赤い色に溶け始めた。そこで突然現れたのは伍四郎。背の低い男を一人連れている。
「そっちは誰だ?伍四郎君」と天河が問い掛けると、男が答えた。
「あっしは空穴球八と申します。伍四郎兄さんの従兄弟で元山開拓団副団長です。溶け始めた島々の救援に参りました。さあみんな、行くぞぉ!」その声の後聞こえた大音響、見ると数は数千人、これが元山開拓団だ。それぞれ次々と島々を回って、唯一地球、茂野河地球に出口のあるこの元島に連れて来始めた。そんな中、兆一が伍四郎に何かこっそり話しかけた。伍四郎はそれを聞き、解ったと一言。そして天河に目を向け、うなずいた天河は全員に「団長命令」をかけた。

「団長命令!我ら茂野河応援団は、これより元島を出て垓乃島に向かう!なお、七木垓和さんとその子供二人は、元島開拓団に任せることにする、以上」
「押忍、団長解りました」

 今、茂野河号は多野河を下り、垓乃島へと向かっている。そこで天河がこう言った。
「今度の垓乃島は、今までで一番の難しい関門だ。解るな?」これにうなずく一同。何がどう難しいのか?それはこれから解る。

 遂に垓乃島に着いた茂野河号、0・∞の悠鳥の攻撃も軽くかわし、最後の「不定の定」の悠鳥に来た時、それは起こった。
「お前って、『お前モドキ』じゃないのか?ほうら前にも後ろにも、右にも左にも、上にも下にも・・・」!応援団一同それぞれが、幾つも幾つも自分と同じ顔・形をした「モドキ」達に囲まれたのだ。そして各々、「本当の自分」はどれなのか解らなくなる・・・。地球の激震の後に、茂野河応援団の激震が待っていた。そんな中はっきりしていることは、自分達の色が青・黄色・白であり、周りの色が赤・黒であるということ、それでやっと自分を見失わないでいられる。その中の黄色から飛び出したヨロズ、
「お前達のこれからを『彼等』に預ける」と一言。この後無色透明な、色は解らないがいることは解る何かが全員にクイズを出してきた。

クイズ1:役満の役でしか上がれない麻雀で、三人までがあがる役を考えろ。
答え1:一人目・天和、二人目・地和、三人目・人和。

 これは「山」組、「河」組、マネージャートリオが「天差し」・「地打ち」・「人呼」をすることでクリアした。そしてクイズは更に進む。

クイズ2:ではその麻雀の四人面目のあがる役と、終局はどんな役?

 終局は解るが、四人目の役が何なのか誰も答えられない。そんな中次々とモドキが何かを答えてきえて行く。これはみんな消されてしまうんじゃないか?そう誰もが思ったその瞬間、赤い色の方から、
「四人目は、八連荘!」と一言。この声は零子か?そして黒い色の方から、
「終局は、垓和!」この声は億太郎だ。

 暫くして「茂野河応援団、十男十女救出」と聞こえたかと思うと、茂野河号は海中を上っていく感じで海上に出た後で電車の車庫のある離れた島に辿り着いた。此処は一体何処だ?そんな一同の前に一人の少女がやって来てこう言った。
「お帰りなさい、茂野河応援団の皆さん。此処は垓乃島です。多野河ではなくて茂野河の。初めまして、私の名は海舟りく。河山伍四郎の従姉妹で許嫁、此処にある電車・元山電鉄株式会社の社長の娘です」
 多野河へ行く前と帰ってきた今と、茂野河は劇的に変わっていた。垓乃島に元山電鉄の車庫が出来ていて、しかもそこから茂野河と反対方向、海の方にも線路が続くようになっていたのだ。その先は海底トンネルになっていて、一体何処に向かっているのか?
「戊(ぼ)野河です。そこに零子さんともう一人、ええと何て行ったら良いんでしょう・・・」何か言いづらいことがあるのか、急に口が重くなるりく、そこへ億次郎が零子の赤いガンダ石を握りしめながら、
「後はこれで解るから良いですよ。みんなも良く感じてくれ」と零子の「今」を感じ始めた。そこで解ったこととは・・・。

 徳川家康と、坂本竜馬・河合継乃助の関係。これが茂野河と戊野河とでは全く違っていた。茂野河では多野河で山に行った家康と竜馬・継乃助の関係が、いわゆる普通の歴史の通り。それが戊野河になると、海に行った家康は沖で難破して離島で長きにわたり暮らすことになり、そこに竜馬が軍艦で家康を迎えに行き、継乃助は故郷で陸軍の訓練をずっとしていながら家康の帰還を待ち、その知らせが届いたと同時に軍勢を江戸に進め、そこに初めて江戸幕府が誕生したという。零子はその江戸時代の、戊野河の辺りに住んで、娘と二人で暮らしている。その娘は、
「よっちゃんの娘だよ。名前がまだ付いてないけど、何て付けたらいいかな?よっちゃんの息子の兆一君に聞いてみてくれる?」
「笙子だな」兆一はそう答えた。零子はその後、
「それから、垓和さんの子供二人これから行けば解ると思うけど・・・あ、兆一君もう解ってたんだね。名前もあの時付けたみたいだし。それからアタイにはもう五人娘がいる。それは」
「俺との子供だな」と億次郎。その子達は他野河にはいないという。茂野河・戊野河、この二つの地球以外の五つの地球にそれぞれバラバラにいるのだ。元山電鉄ではそこにも線路を通したが、どの位の時間で着けるか、まだハッキリしていないという。りくは天河に、戊野河・茂野河のどちらに行くか聞いてきた。天河の返事は、勿論「茂野河」。りくは一同に、茂野河号は此処に置いて元山電鉄で茂野河に帰るように頼み、全員それに賛成。かくして茂野河応援団の「地球を空間的にいっぱい造る」という旅は此処に終幕した。

 茂野河に帰ってから、応援団一同はさらなる驚きに遇うことになる。いや、兆一・億次郎・京、それに天河を除いた面々だが。
 オリエンテーションを受けた一年に、一同が体験した時の数より二人多い人物がいた。それは、何と顧問の万和ではなく垓和の息子、七木始太郎と穣次郎である。この名前は、天河が伍四郎に垓和と二人の赤子を託したあの時、兆一が紙に書いて渡したものだった。

 数詞で垓の上が「のぎへん」に「『予定』の『世』」と書いて、読み方は「じょ」』もしくは「し」。しかしこの字は漢字表に載っていない。だからその意味も含めて「始」。次が「穣」。これには「みのり」という意味がある。

 昔と少しずれた茂野河に、少しぎこちなさを感じる応援団一同。善三郎がある日の練習の最中、
「俺達の顧問って、確か万和さんだった・・・ような気もスルメイカ!」と寒いギャグの中にとまどいを込めた。すると億次郎が、
「俺の母親って、親父から垓和さんに乗り換えて、それで今度は俺自身に・・・な訳無いだろうが!」と兆一に向かって「右波」を炸裂!それを受けた兆一が、
「ばっさん、ばっさん・・・」と悠鳥の羽音を始めた。この瞬間、応援団一同・垓和達以外の時間が停止した。そして垓和が応援団三年・二年を連れて「丸打駅」・かつてのガンダの祠があったところまで連れ出した。
「この駅の0番線に乗って出発すれば、戊野河行きの電車に乗る事が出来る。垓乃島経由でなく、億次郎君の五人の娘さんがいる五つの地球を経由するのにね」

 かくして、今度は空間的にいっぱいになった地球を旅することになった一同。今度は一体どんなことが待っているのだろうか?

 次章:「運動章」に続く。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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