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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第9回   京の出生の秘密・ステップアップした億次郎と京
一年後、丸打峠で息子の億次郎を鍛えていた億太郎の家に、万和が兆一を連れて訪れた。
「どうした万和、こんな所に来て。何かあったのか?」億次郎を抱きながら億太郎が訊いて来た。後からやって来た分身ガンダ、操っているのは億次郎である。
「もうそこまで育ったのか?これは将来が楽しみだな」
「お前の方はどうなんだ?兆一君は何か出来るようになったのか?」
「ああ、何か色んな言葉を覚えるのが早いんだ。俺の子供の頃の十倍ぐらいだ」
「それじゃ、ひょっとしてヨロズが教えているのか?」
「いや、それは無い。ヨロズはこいつには何も教えていないと言っているからな」
いつの間にか二人は息子の成長を語り合っていたが、
「そうだ。今はそんなことを言っている場合じゃないんだ。実はな・・・」万和が億太郎に言ったこと、これが京の誕生の元になったのだが、この時の二人にはそんな事は予想も出来なかった。そのこととは・・・。
二人が向かった先は、茂野河の河口の茂野河港だった。そこで腐黄色者に取り憑かれた奴らが「新人間」を生み出そうとしていたのである。その訳は、圭・今ではイニシャルKとなった彼女が、自分の生まれたときの光景を思い出し、腐黄色者たちに、
「この子を私の目の前に連れてきて!」と呼びかけてしまったからだった。
「腐黄色者の奴等は、自分達の匂いのする新人間を作ろうとしている。思えば圭を産んだあの装置には重大な欠陥があった」
その「欠陥」とは、「父」の存在だった。圭を産み出した最初の装置は、ただ意識を人造の卵子に入れてそれをそのまま人間にするものだったが、其処に「父」となる精子に変わるものを入れなければ、産まれた新人間は肉体的に不完全な存在になってしまうのだった。圭が病弱だったのもその所為だった。
「この『計画』は絶対阻止しなければいけない。もしも腐黄色者の匂いのする『新人間』が産まれたら、この茂野河市、いや世界が大変なことになってしまう。さあ億太郎。行くぞ」万和は何か考えがあるのか、「新人間発生装置」のある建物の中に、まだ幼い兆一・億次郎を連れて入って行った。
二人は、まず入口で腐黄色者の匂いのする男に入るのを止められかけた。
「アナタ達は此処ニハ入レナイ。我々ノ匂イがシナイモノハ全テ敵ダ」男の全身からは明らかに腐黄色者の匂いがして、すぐに別の男も来て万和・億太郎に襲いかかってきた。しかし、ヨロズ・ガンダの二人の前にあっけなく返り討ち、その倒れた奴らの白衣を万和が手に取り、億太郎にこう言った。
「億太郎、これを来て中に入るぞ」
しかし、その白衣の匂いはかなり臭い。それでも我慢出来ない程ではないと、二人は鼻にバリアーを張り急いで「新人間発生装置」のある大実験室へと向かい、今にもスイッチが入れられそうな瞬間に遭遇した。
其処で万和がしたのが「天通拍手」その瞬間辺りの動きが止まった。
「そうか万和、時を止めたのか。それじゃ今度は俺の番だ」億太郎は装置のある部分、腐黄色者のエキスが入っている「種」を入れる場所に自分のガンダ石を入れた。
その瞬間、辺り一面に白い輝きが現れて、輝きが消えた後、億太郎の手には赤ん坊が抱かれていた。女の子である。億太郎が穏やかな口調で、
「この子は俺の娘だな。名前はどうしよう・・・そうだ『京』にしよう」と言った。
それを聞いた万和は、
「・・・字は違うことは解ってるが、やっぱりお前は圭のことが・・・」と、ため息混じりに言った。すると億太郎はこう切り返した。
「それもあるがそれだけじゃないぞ万和。お前が『万』、俺の息子が『億』、そしてお前の息子が『兆』・・・全部数の名前じゃないか。だからこの名前にするんだ。それから京と言えば都だ。この子は将来、お前達の都になる、そんな感じがするんだ」
かくして京はこの世に生を受けた。そして「新人間」の存在が世界に知れ渡ることもなくなった。
「俺の話は以上だ」万和は三人に京と圭・イニシャルKの全てを伝えた。しかし億次郎は肝心なことを聞いていない。自分の母親がいったい誰なのか?その疑問に答えたのはヨロズだった。
「億次郎、それは俺にも未だ解らないんだ。億太郎の相手が誰なのかは、『元山』でのことだからな。だがいずれ時期が来たら解るだろう。これから応援団がやって行く茂野河の大掃除が終わって『次』の命がお前達茂野河応援団につたわった時にな」
「な、何でヨロズの声が俺に聞こえるんだ?」億次郎は驚きの声を上げた。それに対して答えたのは万和だった。
「これだけのことを知ったことで、君のガンダの力がヨロズに届くようになったんだ」億次郎は、ついに父・億太郎に並んだのである。
また京が突然こう言った。
「私、今イニシャルKの姿が見える様になった」京も一つ階段を上ったのだ。

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Novel Editor