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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第8回   「イニシャルK」の正体2・母の死
億次郎・兆一・京の三人は万和の話に唖然とした。特に兆一は、
「母さんが『新人間』だったなんて・・・ヨロズからも何も聞いてなかった。親父、何故今まで話してくれなかったんだ?」万和に対して聞きたい事が山程出て来ている。すると万和はこう言って来た。
「まだ話は半分も終わってはいない。これからの話はもっと重要なんだ。イニシャルKが何者なのか、そして億次郎君や京さんが一体どういう訳で今此処にいるのか、兆一、良く聞いておけよ」そして更に昔の話は続く。
万和と圭はその後すぐに結婚して、圭のお腹の中には男の子が宿っていた。
「万和、この子の名前なんだけど、私に一つ案があるの」圭の言葉には静かな、それでいてきっぱりとした「思い」が入っている。だから万和も軽い気持ちではなく、一体どんな名前なのかを尋ねた。すると帰って来た答えはこうだった。
「名前はね、『ちょういち』にしたいの」
「む?漢字は数の『兆』に『一』なのか?」
「そう、さすが万和。直ぐ解ったわね、この意味は『万』に『和』のあなたと同じ、それからもう一つの意味は『兆(きざし)』の『一(はじめ)』。この子が大きくなったらきっと何か新しい事が起きる、そう感じたの。そしてきっと私の『命』はこの子を産む事、そう思ってるのよ」
「そうか、そうだよな」答えながら万和は圭に自分が「新人間」であるという事を知らせようと思ったが、それはやめた。何れ自分で気付いた時、そのフォローをしようと思ったのだった。
そんな時、二人の元に億太郎から葉書が来た。内容を見てびっくり、億太郎に息子が出来たというのだ。名前は「億次郎」と付けたという。しかし母親が誰なのかという事は全く書いてない。ヨロズに聞いても、ガンダと元山の事は解らないという。
「何れ時が来れば解るだろう。今はきっと言えない事情があるんだろうな」とヨロズが言って来たちょうどその時、
「万和、一体誰と話してるの?」と圭が聞いて来た事に万和は驚いたが、億太郎と心の会話をしていると嘘を言った。ヨロズのことが解ると、大変な事になるのではないかと案じての嘘だった。
その直ぐ後で圭の出産が間近となり、元山にいた億太郎が駆け付けて来た。病院ではなく万和が自分で赤ちゃんを取り上げると便りを出した為に、手助けをしに来てくれたのだ。
そしていざ出産の時、圭は穏やかな顔のままだった。万和・億太郎の二人は少し変だなと思ったが、本人が大丈夫そうだから大丈夫だろうと楽観視していた。やがて圭のお腹から赤ちゃんが出て来て、出産は無事終了、と思ったその時異変が起こった。それまで元気だった圭が突然気を失ってしまったのである。一体どうしたんだ?疑問の固まりだった万和に、
「万和よ、こうなる事は決まっていたんだ。彼女の生命力では子供を産んだ後生き続ける事は事は無理だったんだ」ヨロズがこう言って来た。それは億太郎にも聞こえていて、
「ヨロズよ、何故それを言わなかったんだ!そう解っていたら万和は圭に出産などさせなかったのに!」分身ガンダを出してお前を攻撃すると食って掛かった。
するとヨロズはすまなかったと一言を発し、こうなる事を見てしまったと言って来た。
「それじゃあ、圭の誕生の時もそうだったのか?」万和がそう聞くと、そうだとの答え、口調を聞いていると泣いているようである。こんなヨロズは、二人とも初めて感じた。
「彼女の最後を苦しくないようにやってくれ」ヨロズのこの言葉にも涙が感じられ、二人は空間拳とガンダ石の力で圭を安らかに永眠させたのである。
そしてその直後、二人は圭の幽体が何処へ行くかを見守った。多分圭のことだから「天国」に行けるだろうと思っていたのだが、圭の幽体はこともあろうに腐黄色者がひしめく「空間の底」へ行こうとしていた。
これはいけない!と億太郎は自分の分身ガンダを飛ばし、圭の幽体に接触した。
すると、その分身ガンダから青色の強い輝きが出て来て、億太郎がこれはオリジナルガンダと同じだと言った。
「たぶん、圭に触れたその瞬間、分身ガンダは時空を超えてオリジナルガンダになったんだ」万和のこの言葉に、
「となると大変だな。これからオリジナルガンダを動かしているのが俺だと、分身ガンダを出すどころか、普通に働く事も出来なくなる・・・それは億次郎にやらせるか、俺のことを『何もしない父親失格』と言って来るかも知れないが・・・」億太郎はガンダを億次郎に継がせるという覚悟を決めていた。その時、圭の幽体は形を変えて時空も超えた。そこに現れたのは、何とイニシャルKである。腐黄色者の中でそう呼んだ奴がいたのだ。万和・億太郎の二人ともこれには驚いた。
「圭は記憶を全て無くし、自分の名のイニシャルだけを覚えていたのか。それを腐黄色者達が近付いて行って、自分達の親玉にしようとしている。早く行って助けなければ・・・」と言いかけた万和に、
「それは無理だ、オリジナルガンダの俺でもあの空間は辛い、もし行けるとしたらヨロズだろうが・・・出来るか?ヨロズ」
この億太郎の言葉にヨロズはこう答えた。
「俺でも難しい。あの『空間の底』に行くには相当力が要る。万和が俺と並んだ時には出来るかも知れんが」そして更にこう続けた。
「彼女を救うには産んだ兆一が鍵となるだろう。だが何も言うな。あいつが自分で気付くまで待てば、きっと旨く行くだろう」かくして圭をイニシャルKにしてしまった事件はひとまず終わった。しかしその一年後、今度は京が絡んだ事件が起こったのだ。

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Novel Editor