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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第7回   「イニシャルK」の正体・Dr.Man・万和と億太郎の対決
その後、億次郎と兆一、そして京の三人は、万和から今回の「対決」に至った本当の理由を聞いた。なんと、京の「本当の力」を発現させる為に「対決」を仕組んだと言うのだ。それは、腐黄色者達やイニシャルKを「倒す」のでは無く、「救う」為に。それから万和の昔話が始まった。億次郎・兆一・京の誕生には、とても大きな「理由」があったのである。そしてイニシャルKの正体は・・・。
大河億太郎、中野圭、小山万和の三人は幼馴染みだった。小さい頃から体の弱かった圭も、高校生になる頃には健康な体になった。それは「ヨロズの言霊使い」の万和と、「ガンダ使い」の億太郎の両方の力のおかげだった。
高校の時、万和と億太郎は茂野河高校に応援団を作ったことは前にも描いたが、その応援団が出来る前、夏の野球の「対抗戦」で茂野河高校は元山高校に全く適わなかった。しかし出来てからは現在に至るまで全て引き分けている。それも二人の力である。応援団の団旗には「ガンダ石」が入っている。そして応援の型には前にも描いたように「空間拳」の動きが入っているからだ。そんな高校時代を一緒に過ごした三人は、同じ大学に進学して、同じ職場、茂野河高校に教員として就職した。大天才の万和は世界中から是非ともうちの研究所に来てくれと誘いがあったが、そんなものには全く乗らなかった。理由は億太郎と圭の存在と、腐黄色者との戦いがあったからだ。そして、謎の存在・イニシャルKもあった。その声は圭には全く聞こえないというが、二人には始終聞こえていた。
ある日、イニシャルKについて調べていた二人に、圭の過去について少し謎めいたことが出て来た。圭の両親の日記に、「Dr.Man」という言葉があったのだ。一体『Dr.Man』っていうのは何なんだ?この疑問を解決する為に、万和は「天通拍手」をして、圭の産まれた時代に飛んだ。そしてその先に待っていたものは・・・。
まず万和は、「ガンダの祠」に飛んだ。其処で頃合を見計らって茂野河を下り、「Dr.Man」の手掛かりを見つけるべく「中野家」圭の両親の家へと向かった。其処で顔を会わせた圭の父親・中野博士を目の前にして、自分が何者なのかと一瞬躊躇ったその時、
「私は、『Dr.Man』です」と口が勝手に回った。何?ヨロズがそう言わせたのか?一体何故?疑問だらけの万和に、ヨロズがこう語りかけて来た。
「万和よ、お前は自分がやりたいこと、やらなければいけないことを言う為に此処に来たんだ。躊躇わずに思うがままに行動しろ」万和はその言葉を胸に、「Dr.Man」としてそれからの行動に移った。それがどんな結果をもたらすか、その時は全く解らずに。
中野博士にこれから重要な会議があるので、「Dr.Man」・万和に是非来て欲しいと言われて向かった先、それは「地球の異常化」への対策を考える事をテーマとした会議だった。そこで万和は、地球の異常化の原因は、「地球意志」の弱体化にあると力説した。
「其処で、強い人間の精神を巨大化して、『地球意志』に働きかけることが一つの方法としてあります。それは決して荒唐無稽な事ではありません。これから私が提案する、『超人間発生装置』を使えば可能なんです」万和の言葉に、会場はざわざわし出した。その中には、そんな装置に誰がかけられるんだという声もあった。其処ですかさず万和の一言、
「その役目は、私がなります。でなければこんな提案はしません」これで静かとなった会場、そして万和の出した回路図に驚きの視線が集まった。
しかし中野博士の一言で事態は思わぬ方向へ向かう。
「Dr.Man、君のような貴重な人材をそんな事に費やすわけにはいかない」博士は回路図をチェックして、何か別の装置の回路図を作成した。そして会場にいる全員にこう言った。
「今、一人の人間の精神を地球規模に拡大すると言う案がDr.Manから出されたが、此処で私は考えた。その逆、地球規模の精神の一部を一人の人間の精神にしてはどうかと。そこで考えたのがこの『新人間発生装置』だ」
それから辺りの動きが突然早くなった。回路図を元に「新人間発生装置」が急ピッチで進み、完成した「装置」のスイッチが入り、白銀の光の中から女の赤ちゃんが現れた。
「妻との間に一人も子供が居ないから、この子は私の娘としよう。名前は・・・そうだ『圭』としようと思う。皆、それで構わないね」この中野博士の言葉に万和は愕然としてしまった。しかしそれと同時に「天通拍手」をして、会場全員の記憶を消した。しかし「Dr.Man」の名だけは消さずにそのまま時を超え、億太郎の目の前に戻って来た。
「ヨロズ!お前はこうなる事を知っていて俺をこの時に飛ばせたのか!」万和の嘆きのこもった叫び声にヨロズは何も答えなかった。
 帰って来た万和の表情に億太郎は、
「どうした万和?何だか深刻そうな顔をしてるが、『Dr.Man』の事、何か解ったのか?」と軽く問いかけて来た。万和はどうしていいか解らない。こんな「事実」を伝えるなんて出来ない、しかし隠してもおけない・・・。
「う!やっぱり隠しておけない!」万和のその一言と「心の声」に億太郎の表情は一変した。
「何だと!『Dr.Man』がお前だと!そして圭は・・・だと!何故俺にそんな事を話した!お前さえ黙っていれば・・・万和、俺はお前を一生許さないからな!」この言葉に、
「誰も許して貰おうなんて思っちゃいない」と万和は決して逃げた口調ではなく、更にこう言い続けた。
「こんな事があっても、いやこんな事があったから言うが、俺は圭を幸せにする義務がある。億太郎、お前もそうだろうが、圭に対する俺の気持ちは解るよな」
 これを聞いた億太郎は、
「ああ、確かに解る。だからこそ俺も言うが、圭を幸せにするのはお前だけじゃない、俺もそうだ。だからお前と決闘をする。どちらかが勝つか、それで決まりだ」かくして「ガンダ使い」と「ヨロズの言霊使い」の初めての闘いが始まる。
万和は「空間拳・無打」の構え、億太郎は両手にガンダ石を握り、それぞれ黄金色・青色の光を放ち、そしてその光をぶつけようとした。その時、
「二人とも何をやってるの?喧嘩なんて止めてよ!」と入って来たのは何と圭である。そのままそこに居たら二つの「力」の中で消えてしまう。二人は急いで光を引っ込めた。そしてその後億太郎を睨みながらの圭の一言、
「億太郎、これは一体どう言う事?」これで億太郎は悟った。圭は自分じゃなく、万和を必要としているんだ。だからこう言った。
「いや、何、万和と圭をどちらが娶るかってことで、決闘をしようとしたんだが、それも意味無い事だって今解ったよ」そしてその後こう言った。
「今まで俺は、自分の中のガンダの力を疎ましく思ってた。こんな汚れた力なんてもう要らないとな。だが今気持ちが変わった。これから俺は圭と万和の為に、この力を誰かに伝えて行く。だからこれから元山へ行く。二人とも、しっかりやってくれよ」
そして億太郎は茂野河市から去って元山市へと移って行った。自分の跡継ぎを見つける為に。

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Novel Editor