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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第6回   「イニシャルK」と京の同調・兆一と億次郎の対決の結果
その頃、京は小山家で一人台所のあれこれをチェックしていた。
「えーと、包丁はここ、鍋・フライパンがここ、調味料はここ、それから調味料がここ・・・よし!準備完了、と」これから食事は自分が作るぞ、と少し浮き浮き気分だった京に、あの声・・・イニシャルKの声が聞こえてきた。
「誰か・・・誰か私を助けて・・・」その声は相変わらず自分の声とうり二つ、京は思わずこう聞いていた。
「あなたは・・・あなたは一体何なの?あなたは私なの?」
「私にも解らない。私は今、自分が何処にいるのか解らない。でもあなたと会えば、きっと・・・」きっと、の先を言おうとしたその時、
「ただいま!京、今帰ったぞ」億次郎の声がイニシャルKを黙らせた。しかし、その後兆一が玄関に入った時に、
「あ、あなたが兆一?・・・兆一なのね!」この声は京だけでなく三人全員に聞こえた。
「おい、イニシャルK!貴様何故京をいつも誘うんだ?あの腐黄色者達に渡そうとしてるんだろうが、そうはさせない。いくら来ようがこの俺がぶっつぶしてやる。解ったな!」億次郎は怒り心頭である。しかし京は、
「兄さん、そんな事は無いわ!あの人はきっと腐黄色者から逃げたいのよ!助けて欲しいのよ、だから・・・」と強い口調で言っている内に両目の焦点が合わなくなり、
「誰か・・・誰か私を助けてー、助けて助けた助けてーーー」と突然絶叫し始めた。これを見ていた億次郎も、その様子に圧倒され、
「京・・・京、一体どうしたんだ?」と言いながら「ガンダ石」を光らせ始めたが様子は全く変わらない。億次郎もこんなことは初めてのようだ。そこで兆一は、
「億次郎、俺に任せてくれないか?」と「不定の定」の印を胸の辺りに持ってきて、
「不定のー、定!」と叫びながら印を逆さまにして腹のへそがある所ににぶつけた。
すると、印から放たれた黄金色の光の中で京がパタリと倒れ、その後で横たわった京の全身から白銀色の輝きが現れた来た。
「こ、これは一体・・・何なんだ?」億次郎は、目を皿のようにしてこの「色」の正体を京の記憶から探ろうとした。だがいくら「ガンダ石」を使ってもまるで解らない。すると兆一がこんなことを話し始めた。
「ひょっとして、これは京さんの「心の色」かもしれないぞ」何故だかは解らないが、「感覚」として伝わって来るというのである。
数分後、目を覚ました京がこう聞いてきた。
「兄さん、兆一さん、一体私、どうしちゃったの?あの人の声を聞いているうちに気が遠くなったみたいなんだけれど」
「それは・・・確かなことは解らないけど、多分京さんとその人、イニシャルKの心が同調したんだと思う」兆一は億次郎には「何も言うな」と目で言っていた。ここでまた騒いで京を失神させる訳には行かないと思ったからで、億次郎もそれは納得した。
そんな時、玄関から誰か忍び込んでくる気配がやって来た、それも得体の知れない。兆一が一体何か確かめようとしたその時、いきなり「男」が腹を殴った。その場でうずくまる兆一、驚いた億次郎が「男」を見ると、明らかに腐黄色者の気配がしてきた。その気配は今まで見てきた中で最悪のものだった。
「さあぁ、早くぅ、京をぉ、出せぇ」声も相当腐りきっている。
「何故だ?何故お前達が此処まで来られるんだ?」
「それはぁ、オリジナルガンダのおかげだぁ。オリジナルガンダがぁ丸打峠のガンダの祠からぁずっと離れなかったからぁ、俺達もぉ此処まで来られなかったぁ。だが今オリジナルガンダはぁ此処にいるぅ。京をぉ『あの方』にぃ差し出せばぁきっとぉ俺達の所にぃ戻ってきてくれるぅ。さあ早くぅ京を差し出せぇ。さもなくばぁ今俺が取り憑いているぅこの男を殺すしかないぃ」男の言葉通りである。まだ「ガンダの祠」がある丸打峠の家だったら、取り憑いている腐黄色者だけを追い払うことが出来る。しかし此処では・・・億次郎はためらった。自分も「人殺しガンダ」の汚名を被るか、それとも・・・。暫く家中に緊迫の気配が漂った。その時、
「億次郎、心配する事はない、そいつと闘うのはこの俺だ」気絶していた兆一が「男」と億次郎の間に割って入っていた。
「何ぃ?馬ぁ鹿ぁなぁ、さっきのぉ一撃でぇ死んでぇしまったぁ筈だぞぉ」「男」は驚きの色を隠せないでいる。
「それにしてもさっきのパンチは臭かったな」兆一は「男」を睨みながら更にこう言った。「あんた、腐黄色者だろ?その人を直ぐ解放しな。さもなくば・・・」
「さもなくばぁ、なんだって言うんだぁ?」「男」の口調は身の毛もよだつような感じで、その顔には薄気味悪い笑みが浮かんでいる。「どうやらぁこの『身体』よりぃお前のものの方がぁいいみたいだなぁ」そう言ったと同時に、「男」の身体から黄色い湯気のようなものが出てきた。
「兆一、気を付けろ!それが腐黄色者の正体だ!少しでも吸うと身体を乗っ取られるぞ!息を止めていろ。お前なら出来るはずだ・・・」だから俺が「そいつ」を消す、と億次郎が言いかけた時、兆一は「大丈夫、心配無用」とほほえんだ。一体どういう手があるというのか?億次郎・そして京の心配をよそに兆一は「不定の定」の印を結び、顔の当たりで構えてから、
「不定の、定!」と叫びながら印をひっくり返して腹のへその辺りにぶつけた。するとその印から黄金色の輝きが放たれ、腐黄色者の黄色い湯気が次第に固まり、黄色の生物(?)が姿を現した。
「バ、馬鹿ナ?・・・俺達ノ姿ハコノ空間デハ実体化シナイハズダゾ!」驚いたのはその生物(?)である。
兆一はやはり唖然としている億次郎に向かって、「もういいぞ」と合図を送った。そして億次郎が放った「ガンダ」の青い光、生物(?)はその光に包まれ、光り方を緑色変えてから近くの木の中に吸い込まれて行った。
それからしばらくして、腐黄色者に取り憑かれていた「男」は目を覚ました。
「ん?んんん・・・あれ?俺どうしんだ?ここは何処なんだ?あれ?あなた達は・・・?」口調は完全に普通の人間である。億次郎や京は困ってしまった。「本当の事」は言えない・・・。すると兆一が突然、
「いやあ、家の前で倒れているあなたを見かけまして、『これはいけない』って此処まで運んで来たんですよ」言葉は全く淀みなく、「たいした事ではない」と言う口調である。億次郎も京も、これには全く「ポカン」としてしまった。一体どうしたらこんな調子の良い事が言えるのだろう?まさしく兆一は、「調一」である。
「そう言えば、なんだか黄色い煙りのようなものが見えたような気がするんですが・・・」そんな男の言葉にも兆一は全く動ぜず、
「きっと気を失う時に、何か幻でも見たんでしょう。でももう大丈夫、それじゃ気をつけてお帰り下さい」と「男」を玄関まで見送ったのだった。
「男」が去った後、億次郎は兆一に腐黄色者と過去自分がどれだけ戦って来たか、そして奴等の目的が「京」である事を語った。
「奴等の親玉、イニシャルKが・・・」京を付け狙ってと、億次郎が言いかけた瞬間、
「違うわ兄さん、あの人はそんな人じゃ無い、奴等に操られているのよ!」京が激しく抗議した。これから兄妹の言い争いが続いた。
「何を言ってるんだ京!それは奴の手だと何時も言ってるじゃないか!」
「それは兄さんの勝手な思い込みよ!お父さんも言ってたじゃない!イニシャル・Kは敵じゃ無いって」・・・兆一にも止められないこの「争い」、一体どうしたらいいんだと悩んだその時、何処からか「天通拍手」の音、そして辺りは全て止まった。こ、これはひょっとして万和か?そこで聞こえて来た声はヨロズだ。
「兆一、今お前がしたら良いと言う方法を言えば良い、それで良いんだ」そして辺りは再び動き始める。兆一は、よし、と覚悟を決めた。そしてこう言った。
「億次郎、京さんとイニシャル・Kを会わせてやれよ」この兆一の言葉に驚く京、しかし億次郎は、
「兆一、お前はそんな軽はずみな事を言うのか?若し二人を会わせたらどうなるか、解ってるのか?」冷静で、突き刺さるような口調である。それに対して兆一はあっさりと言った。
「解ってるよ億次郎、今日お前の言った『何か』が起こるって言いたいんだろう?」
「そ、それが解っているなら何故そんな事を言うんだ!」億次郎から冷静さが消えた。しかし兆一は冷静に言葉をこう続けた。
「その『何か』は悪い事じゃ無い。むしろ良い事だ。ヨロズが言ってるから間違いじゃ無いぞ、億次郎」
この言葉を聞いて、億次郎は少し固まった。しかし、
「誰が何を言おうが、俺の考えは変わらない。京を奴等から守るのが俺の役目だ。だからその邪魔をする奴は、この手で打ち倒す!」と左右の拳から青い光を出し始めた。兆一はそれを見て「天通拍手」。その途端に辺りが何も無い荒野のような場所に変わった。そして億次郎は拳から「分身ガンダ」を打ち出した。対して兆一は、「天指しの構え」をして、「天!」と叫びながら「天指し」をして次々と来る「分身ガンダ」を空高く弾き飛ばした。
そんな状態がどれぐらい続いただろうか、お互いの顔に疲労の色が見て取れる状態になっても二人は「対決」を止めない。立ち尽くすしか無い京。一体どうしたら良いのか解らない。その時何処からか声が聞こえて来た、
「京さん、『天通拍手』を、『空間拳』を使いなさい」万和の声である。しかし、「空間拳」など使った事の無い京は、自分にそんな事が出来るのか全く解らない。すると万和はこう言って来た。
「今、自分がいる所を心の目に焼き付けて、そして両手で拍手・・・それだけで良いんだ。大丈夫、君ならこんな事簡単にできるよ」
京は言われるまま動作を行った。すると不思議な事に、全く知らなかった筈の一連の動きが、まるで昔から知っていることの様に出来た。そして「拍手」、その音は高く鋭く響き「対決」をしていた億次郎・兆一の二人も思わず京の方を振り向いた。
そして二人は今の自分の状況に驚いた。まず億次郎は、あれだけ放った自分の「分身ガンダ」が全く消えて無くなったことに。そして兆一は、自らの「天通拍手」で作り上げた筈の「荒野」が元の部屋に戻っていることに。二人とも異口同音、
「一体これは・・・何が起こったんだ?」
その言葉と同時に玄関から万和の、
「どうやら、上手く行った様だな」という肉声が聞こえて来た。「上手く行った」だって?一体何が、どう上手く行ったんだ?

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Novel Editor