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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第5回   兆一と億次郎の対決前哨戦・応援団全員「ガンダ」化
翌日、今度はちゃんと起きた兆一の「小山家」に、万和・億次郎・京の三人がやって来ていた。そこで最初に言われた言葉、
「兆一、又昨日寝坊したな!罰を受けて貰うぞ」万和の目はやはり節穴ではなかった。そして兆一は逆立ちをさせられ、万和の「天通拍手」に次第に体重を重くされ、百倍までは耐えられたが、最後突然千倍まで上げられた所で兆一は力尽きた。
「すっごーい」と京の声。
「又、一段と強くなったな」と、これは億次郎の声。そして万和は、
「あと十分もすれば目が覚めるから、それまでは放っておこう。それまでに朝食の支度だ」
と、二人に中に入るように言い、気絶している兆一をおいて家の中のあれこれを説明した。まずは一階の居間、そして万和の書斎、そして遺影が飾られている部屋、この遺影を見て京が驚きの声をあげた。
「万和さん、これ私の写真じゃないですか?」
「違うよ京、これは万和さんの奥さん、兆一のおふくろの、名前は・・・ええっと何でしたっけ」
「ああ、そうだったね億次郎君、混乱すると思って言ってなかったんだが、『けい』と言うんだ」
この言葉に驚いた億次郎、
「え!『京』?全く同じ名前?」完全に「目が点」になっている。
「いや、音は同じだがね、土二つで書く『圭』なんだ」万和の口調は穏やかである。
「あいつの初恋の相手は俺と同じだった。つまりこの『圭』。それで娘が生まれた時に思わず名付けてしまったんだろう」
万和は京にこの部屋を使うように勧めた。京はあまりその気になれなかったが、遺影はしまうからとの、万和の「押し」に押されて、使う事に決めた。それから二階の兆一の部屋と空き部屋が二つ。億次郎はその一つを使う事にした。
そして三人は朝食を済ませて外に出た。兆一はまだ気絶したままだ。ここで万和は京に兆一を起こす様に頼んだ。ついでに名前に「さん」を付けないようにとも。
「兆一、早く起きて」自分でも不思議だったが、京は何故か自然に言葉を発していた。すると、
「うわぁ!又あの声が聞こえた」兆一が叫ぶように飛び起きた。それを聞いた億次郎・京の二人は、
「あの声って、ひょっとして・・・」声の調子は違っていても、全く同じ言葉を言っていた。これは一体どういう事なのか?
実は、万和に「千倍」の罰を受けて気絶した兆一は、ただ寝ていただけではなかった。ヨロズと話をしていたのだ。
まず、あの時聞こえた「少女」の声が何だったのか、兆一はストレートに聞いた。するとヨロズはゆっくりとこう答えた。、
「そうか、ついに彼女の声が聞こえてしまったか。ならば話そう、彼女の名は『イニシャルK』だ」
「イニシャルK?それはあんたと同じ『空間意識体』なのか?」
「ああ、そう言う事になるな。それでな、兆一」ヨロズの声がぐっと強くなった。
「彼女を救ってやってくれ、頼む」
「頼むって、あんたに出来ない事が俺に出来る訳無いだろうが」
「いや兆一、彼女を救えるのは『お前達』しか居ないんだ」ヨロズの声はさらに強くなっていた。
「俺達って、まさか俺と億次郎?」兆一は半分山勘で「自分達」を当ててみた。
「ああ、だがもう一人居る。それは・・・」
「それは?」
「それは、京さんだ」
このあとヨロズは口を閉じた。その後暫くしてから兆一は京に起こされたのである。
兆一と億次郎は「あの声」・・・イニシャルKについて黙って会話した。
「兆一、あの声ってイニシャルKのことか?」
「ああ、だが聞いたのは昨日が初めてだ。だけど京さんの声を聞いて驚いたよ。一瞬、間違えちまった」
「そうか、やっぱりお前が腐黄色者の訳がない。同じ黄色でもヨロズの黄金色だもんな」
その時兆一は時計を見た。いけない、時間がもう無い。「天通拍手」をしようとしたところ、億次郎がその必要はない、と止めた。
「俺の分身ガンダに乗ればいい。お前なら出来るはずだ」手からガンダ石を出し、気合いを入れて分身を出した後、二人は捕まって超音速で空を飛んだ。
学校に着いた時、億次郎・兆一の二人はまず応援団の「部室」に入った。そして直ぐに応援団一同の歓迎を受けた。
「いよっ、『ガンダ使い』の億次郎、待ってました。」善三郎の調子の乗り方は非常に「ハイ」だ。ところが、
「お前等そんなに調子に乗ってて良いのかよ!」億次郎はいきなり善三郎をにらみつけて、さらに「これから何が起きるか解ってんのか?」と続けた。しかし、
「何が起きるかって、何が起きるんだ?」と天河が問いかけると、
「い、いや、それは・・・」と口籠もってしまった。これを聞いた中が、
「やっぱりお前って臆病者の『臆』次郎なんだな。♪ぁ、本当に、臆次郎。臆病者の、臆次郎」と囃し立てた。その時臆次郎の手から青い光、兆一は「まずい」と、
「ゴールデン・ハンマー!」と叫んだ。億次郎から出た光は中にぶつかると思いきや、兆一の出した「ゴールデン・ハンマー」に吸収された。その後億次郎が兆一に一言、
「お前、言ったな!言ったんだな!」
これは「対決」は相当荒れるな、と覚悟を決めた兆一である。
その日の第四時限目は体育、それも柔道である。もうこの時期ともなれば準備運動の後は、全て乱取りになっている。次から次へと取り組みが進み、
「次にやるのは小山と・・・いかんいかん。お前とやれる奴なんて・・・」
「誰もいない」、そう言いかけた先生を、
「俺がやります」といったのは億次郎だった。
「おい、大河。お前は転入したばかりだから解らないんだろうが、この小山は柔道部の奴でも相手にならないぐらい強いんだぞ。何しろあの小山万和さんの息子だからな」先生はあくまでも止めようとしているが、
「だったら俺だってその万和さんと応援団を作った、大河億太郎の息子です」この言葉にみんながざわめいた。あの二人の息子同士?だったらどんな乱取りになるんだろう・・・。そのざわめきには期待感が現れている。
「億次郎、此処で本気を出すなよ。此処だと俺も作れないからな」兆一が「心の声」で言うと、億次郎も頷いた。これから二人の「前哨戦」が始まる。
億次郎は両手を握り(見える者だけ見える)青い光を出した。どうやら両手に「ガンダ石」が握られているようだ。そこで兆一も負けずに「空間拳、無打」。二人の気合いが柔道場全体に満ち溢れていた。青い光と黄金色の光がぶつかり合い、そこに緑色の空気が生じている。その光はやがて学校中、いや茂野河市中に広がって行く。二人とも体は全く動いていないが、その気迫は見ているもの全員に伝わっていた。やがて授業終了を伝えるチャイムの音、そこで我に返った一同・・・。
「ああいかん。全員着替えて次の時間の用意をしろ」先生まで時間を忘れていた。
そして帰る時に二人が交わした言葉、
「おい、一体何処でやるんだ?」
「ああ、家かそれともあの祠にしとくか?」
互いに、京のいる所ではやめようと思ったその時、ヨロズが兆一に語りかけた。
「兆一、対決は京さんのいる所でやれ。万和もそれを望んでいるからな」
え?また何でそんなことを言うんだととまどった兆一の顔を見て、
「なんだ兆一?ヨロズが何か言ったのか?」と、億次郎。どうやらヨロズの声が聞こえていないようである。
その日の放課後、応援団の「平日練習」の後は兆一と億次郎の「対決」のことで話はいっぱいだった。特に億次郎のガンダの力について、みんな興味津々と言った心持ちである。
「おい、本当に『ガンダ』のことを言っちまって良いのか?」億次郎は少し心配顔である。
「親父からもそう言われてるんだ。心配することはないぞ、億次郎」この兆一の言葉に、
「何?て言うことは・・・」と手に「ガンダ石」を握りしめて、億次郎は青色の光を放った。応援団一同は一旦歓声を上げたが、兆一の「静かにしてくれ」という態度に直ぐに静かになった。青い輝きは全員の心の中に入り込み、億次郎の、そうか!との「心の声」の後消え、各々の手の中に「ガンダ石」が残った。何だ?と叫ぶ善三郎に、兆一が語りかけた。
「これはな、これから俺達が全員『ガンダ使い』になれと言う親父・・・いやヨロズの考えなんだ。俺にも今解ったことなんだけど」
すると天河が兆一に、すっ、と目を移した。
「さすがテンさん、もう解ってるんですね。それじゃ億次郎、一発行くぞ」兆一は億次郎に向かって「無打」の体勢から黄金色の光を送った。
「よし、これで俺も使えるようになったぞ」億次郎が何を使えるようになったのか?それは次の瞬間明らかになった。彼は「天通拍手」をして、みんなの前から一度消え、数秒後に再び現れた。手に何かコインのような物を持って。その物とは・・・。
「なるほど、それが元山空港の記念コインか」テンの言葉に全員(兆一は除く)が驚きの声をあげた。何で「天通拍手」、それも今覚えたばかりのそれで元山まで行けるんだ?みんなの表情に少し恐怖の色が見えた。
「驚くことはないよ、ヨロズの力とガンダの力を合わせれば、これくらいのことは出来るってことなんだ」と兆一が言うと、みんなの表情が恐怖から希望に変わった。俺達もこれから頑張ればあそこまで到達できるかもしれない、やってやるぞ!
「但し、今すぐ出来る訳じゃないぞ。億次郎と兆一はもうその域まで行ってるけどな、俺を含めた後の奴等は、今度の「春合宿」から遠い道のりだからな!」天河が舞い上がっている全員に、一つ釘を差した。

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Novel Editor