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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第16回   オリエンテーション!南北対立と腐黄色者の意外な一部
朝八時半、新年度最初の全校集会の真っ直中の中にいる兆一・億次郎をはじめとする応援団一同、そして京達はこれからすることの大きさに胸を震わせていた。
 そして全校集会が終了、同時に二・三年生から歓声が上がった。
「おまん(お前)ら等、これからとてつもなく苦しくて、とてつもなく面白いことが待ってるぞ」という声である。しかし今年はそれだけではない。更にとてつもなく恐ろしいことが待っているのだ。それを知っているのは応援団一同と京、万和、そして伍四郎達だけだ。

 待ちに待ったるオリエンテーションの開始だ。応援団二年生五人が一年生全員をグランドに整列させたその後、
「ゴーーーーーーーン!」
突然の轟音と共に体育館の扉という扉が開いた。応援団三年生五人が「空間拳」で開けたのだ。当然一年生の誰もが、いや、京は除くが、驚きの悲鳴を上げたか上げないかという時二年生の「とっととへえれ(入れ)!」の恫喝に、皆ダッシュで体育館に入った。
 体育館に入った一年生、先ずクラス順に並ばされた。一体これから何をやるのか?すると、タク、そう三年の河上卓が叫んだ一言がまた襲いかかる。
「全員、正座!」
 この声に皆それぞれ正座をし始める。その時、京が体育館中に響き渡るように叫んだ。
「失礼します!」そして「村」の残りも続いて叫び、応援団からの声が響き渡る。
「北、南、おまん等も村を見習え!解ったか!」
 帰ってくるのは「北」と「南」の、
「はい!」の叫び声。しかしそこに何かこの世のものではない気配を応援団一同と京の第六感が感じとった。腐黄色者達が「村」の京を求めて「北」と「南」から迫ろうとしているのだ。一瞬狼狽えたのは億次郎だったが、京の「大丈夫」との声に何とか落ち着きを取り戻し、一言、
「不定の、定!」の声と動作をして腐黄色者達の姿を実体化させた。これを見て一年生達からの恐怖に満ちた表情と泣き叫びの声が現れた。それに対して天河のこの一言、
「怖がる必要はない!こいつ等はおまん等を取って食おうとしている訳じゃない!」これと同時に応援団一同のガンダ石からそれぞれ黄金色と青色の光が放たれた。そして腐黄色者達は黄金色・緑色の光の束となり、茂野河市中の緑の中、そして茂野河河口の黄金湾に飛んでいった。
 その後のオリエンテーションは、「北」と「南」を競わせ、その緩衝役として「村」を使い、その都度現れる腐黄色者を浄化していくと言うことの繰り返しだった。やがて兆一・億次郎が他の応援団員にこう言ってきた。
「まずいです、時間がほとんど進んでいません」
「え?それじゃあオリエンテーションはずっと終わらないってことか?」この善三郎の言葉を待つこともなく、天河が一言、
「オリエンテーション、演芸ヴァージョンに変形!」と叫んだ。一年は大声で「はい!」と返事、天河と兆一・億次郎以外の応援団の面々は、もう腐黄色者の掃除が終わったのかと少しほっとしたが、
「違います。これからが本当の掃除なんです。昨日の練習で覚えたことが、遂に役立つ時が来たんです。私も頑張りますから、皆さんも頑張って下さい。広美さん・順子さん、やかんの水を宜しくお願いします」この京の言葉に一同は驚きの沈黙となったが、兆一の、
「テンさん、オリエンテーション・演芸ヴァージョン行きましょう。みんな、昨日の特訓の成果がついに役立つ時が来たんだ。好きなことをやれば良いんだ、大丈夫、俺達の心はガンダ石でつながってる」との言葉に全員が「よし!」と気合いを入れ直した。
 この時、兆一の心の中にガンダの祠で語り合っている京と圭の姿が入り込んでいた。オリエンテーション直前に二人が会っていたその場面である。話の内容は良く解らなかったが、最後に京のガンダ石を手に取った圭が銀白色の輝きを放ち始めたその瞬間ははっきりと見て取れた。そして兆一は直感した、圭がオリエンテーションの後に言おうとしていることを。二人は合体したのだ。それも腐黄色者達には解らない、応援団一同と万和、それに伍四郎達だけに解るような形で。そしてこの時兆一の言った言葉、
「行くぞ、圭」
 そして京の言った言葉、
「解ったわ、兆一」
 此処に茂野河最大のカップルが誕生したのである。

 そして始まったオリエンテーション・演芸ヴァージョン、一年生はもう恐怖におののくことなく時間を過ごすことが出来るようになった。しかしその中で京だけは気を引き締めていた。むしろこれからの方が気力・体力をより使うのだから。それは応援団一同も肝に銘じていた。
「演芸その〜、」と兆一の声、併せて一同の、
「演芸その〜、」と声を合わせる。そこで、「その三百六十五!」と兆一が小ネタを振り、億次郎が突っ込みを入れた。
「お前、一年間何をやってたんだ!仕舞いにゃ、」
「仕舞いにゃ何だ?」兆一はこうボケた振りをして全員にサインを送った。何?ここで「斬る」のか?その通り、サインを受けた億次郎は、「お前なんかはこう斬ってやる!」と言った後で、
「ぶぁさ!左場読み」をした。すると笑って良いのかどうかためらう「北」と「南」の面々、「村」はもう爆笑であるが、そこで天河のこの言葉、
「全員、爆笑!」この後、体育館中に起こった笑いの渦に巻き込まれながら、腐黄色者の黄色が兆一達姓に「山」がつく者の中で金になり、億次郎達姓に「河」がつく者の中で緑となり、それぞれ金は黄金湾へ、緑は丸打峠へと流れていった。
 さらに、体育館の屋根から白銀色の光が差し込み、それはマネージャーの順子と広美・二人の持つやかんへと入っていった。これはマネージャー二人と京の色だということはもう皆承知しているが、
「これでもうやかんの水を汲みにいちいち外へ出る必要はなくなったよ。だからどんどん運んでね」確かに二人の持っているやかんは、注ぎ出すとその分すぐ水が湧いてくる。この水は丸打峠の「ガンダの祠」の水であるということは、全員心で納得した。水のきれいな茂野河でも、一番きれいで美味しく、尚かつパワーを持っている水なのだから、一年生の誰も途中で倒れることはないだろうとも確信して。そしてオリエンテーションは最終局面を迎える。

 オリエンテーションも此処まで来ると、応援団一同のそれぞれの表情には明らかに疲労の色が見て取れる。しかし幾ら「左場読み剣」を放っても腐黄色者の集団は全く減る傾向を見せない。そこで兆一は決心した。壇上に上り、
「もうオリエンテーション、やめたいと思う奴がいたら遠慮無く手を挙げろ」この言葉に一年からは誰も反応無し、事情を知らない者はまだ止めたくなくて、唯一事情を知っている京はそんなこと出来る訳がない、そういうことでの結果だったが、手を挙げた者が二名いた。応援団の中と善三郎である。
「いい加減一年だけじゃなくて、おんだあ(俺達)も楽しみたいわぁ」と言ってきた。そこで兆一は、
「それじゃあこれから、オリエンテーション演芸ヴァージョン最後の演目。応援団三馬鹿トリオによる、パロディ・オリエンテーションの始まり始まりぃ〜」と二人と共に壇上に上った。そして他の団員や京には練習の結果を此処で出して欲しいとガンダ石を通じて伝えた。
 此処からは兆一達の演芸をシナリオ形式で描こう。

演芸その1・発声練習
(指導者の中と指導を受けている善三郎と兆一。しかし兆一の体調が芳しくない。)
中:(偉そうに)「発声というものは、腹から出すことが何よりも大事だ!一年生二人!」
善三郎・兆一:(善三郎は普通に、兆一は少し気分が悪げに)「はい!解りましたチュンさん」
中:「じゃあ行くぞ!まずは・・」(気合いを入れた大絶叫)フゥーレェーエ、フゥーレェー、モノォーカァーワァー!」
善三郎:(調子よく)「フゥーレェーエ、フゥーレェー、モノォーカァーワァー!」
中:(善三郎を見て)「よし、おまんは合格だ」(兆一を見て)「どうした?おまんはやらないのか?はやくしろ!」
兆一:(気分悪げに)「すいません・・今やります」(少し深呼吸をして)「それ!・・フレェーエェーエェーエェオエエエエー」(口から黄色いげろを戻す)
中:「くせーくせー!幾ら腹からと言っても、げろを戻す奴がいるか!お前のような奴は斬ってやる・・・ぶぁさ!左場読み」(この時三人以外の応援団員も左場読み剣を振るう)
兆一:「ああ、斬られたら何か腹がきれいになっていくなあ」(この時兆一の体全体が黄金色に輝く)
善三郎:「斬られて反省しない奴は捨ててしまえ!ばうぅ、右場捨て!」(この時黄金色と青色の輝きが「北」と「南」の間を行ったり来たりして、そこから新たな腐黄色者が現れる)

 こうして現れた腐黄色者は、あらかた黄金となり海へ行くか、緑となり丸打峠へ行くかした。しかし一部残っているものがいる。それは今までの奴と違って兆一達応援団には襲ってこない。しかし京の所へ来ては離れ、又来ては離れている。一体彼等は何者なのか?それは兎も角、まだ演芸は続く。

演芸その2:「ちっくい!」大行進
(中と善三郎が仁王立ちしているその間に、正座して兆一がいる。)
中:(兆一を見下ろして)「おい!おまんは何で俺達がこうしているか解っているのか?」
善三郎(歌舞伎の台詞のように)「解ってぇ、いるのかぁ?この野郎ぅー!」
(ここで一年の間から大爆笑が起こる)
兆一:(か弱い声で)「わ、解りません」
中:「言っている矢先からその声、どういうこんだ!」
善三郎:「どういうこんだ、どういうこんだ!」
中:「おい、おまん」
善三郎:「おい、おまん!・・・って誰のこんだ?」
中:(善三郎を指さして)「おまんのこんだ!俺が合図を出すまで暫く黙れ!」
善三郎:(気を付けをして無言で応答)
中:(兆一を指さして)「おまんには気合いというものが全くない!これからおんだあ(俺達)がそれをたたっ込んでやる!解ったか!」
兆一:(小声で)「はい」
中:(善三郎に合図を出す)
中・善三郎:「ちっくい!」
(この後暫く、兆一の「はい」と二人の「ちっくい!」が続く。しかし段々兆一の声が大きくなり、やがて二人が兆一を挟んで踊り歩きをしたその時から)
二人:「ちっくい、ちっくい」
兆一:「はーい、はーい」
(上の三人のやりとりが数回流れた後)
兆一:「ぶぁさ、左場・折り!」(「左場読み剣」の後で右手の剣を折る、変化技「左場折り剣」をやった後で応援団一同に振る)
太鼓の音一回の後、
全員:「でっかいだぁ!」

 この後腐黄色者の半分が応援団を襲おうとするが、残りの半分がそれを防ぐ。彼等は何者なのか?それは次で明らかになる。

演芸その3・落ち武者の復活
(疲れ切った様子の中と善三郎。それに対して兆一は元気モリモリである。)
中・善三郎:「な、何故あのとき剣を折ってしまったのか・・・今でも悔いが残る。俺達はもう破邪の技は使えない・・・。
兆一:「二人とも何を愚痴ってるんですか?」
中:「馬鹿野郎!おまんが『左場折り』なんて技を使ったからじゃないか!後のことを考えもせず、大変なことをしやがって」
(ここで腐黄色者の嵐が発生。応援団全員に緊張が走る。)
兆一:「大丈夫ですよ。破邪の技はまだありますって」
善三郎:「なぬ!一体それは何なんだ?」
兆一:「善三郎、これからやるぞ。チュンさん、よく見ていて下さい。・・・ばうぅー」
中:「そりゃあ、破じゃじゃなくて邪気召還の『右場捨て打』じゃないか」
兆一:「ここからが違うんですよ、ばうぅ、右波ぁ!」(右場捨て打の変化技、右波。前から右側に持ってきた両手を、ドラゴンボールの「かめはめ波」のように前に出して気を放つ。
兆一:「さあ、みんなも一緒に」
体育館の全員:「ばうぅ、右波!」
兆一:「そして、天!」(「天指し」を行う)「応援団のみんな、剣が復活したよ!」
(全員が確かめ、確かに右手の指剣の復活を確認)
中:「でかした兆一、これで俺達も落ち武者から脱却だ。これから何処へ行く?」
善三郎:「やっぱり、さっき言ってた『天』か?」
兆一:「いやあ、世の中『天』だけじゃないですよ。足下には、ほら、『地』!」(「天指し」の状態から、右手の剣を真下に下ろし肘で左手を叩く動作、「地打ち」を行う)「俺達の行くところは「人(れん)!ですよ」(右手の剣を左手の掌に擦るように当てる動作、人呼《れんこ》を行う)
応援団一同:「さあ、これから行くぞ!新たな旅立ちへ」

 この時、応援団一同と万和、それに伍四郎だけに見えていた光景があった。それは銀白色の天へと伸びる風の流れ、それに赤色の地の底へと続く渦だった。地の底へは次々と腐黄色者が飲み込まれていく。応援団に危害を加えようとした者達だ。そしてさっきその攻撃を防いでくれた者達、彼等は穏やかな口調でこう言ってきた。
「K様、どうか我々を天にお返し下さいませ。どうか宜しくお願い申し上げます」
 そして京がとった行動、それは「天通拍手」だった。その響きに天への風の流れがより強くなり、彼等を天に帰したのである。
「K様、やはりあなたは我々を救って下さる女神様でした。有り難うございます」
彼等、腐黄色者の中の善玉の、最後の言葉だった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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