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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第12回   オリエンテーションの本当の目的・京のガンダ化・・・兆一と京の複雑な気持ち
 翌日、応援団の全員に「オリエンテーション」の本当の目的は、それぞれが持っている「ガンダ石」を通して伝わっていた。そして「イニシャルK」の正体、京の出生の秘密も。しかしそのこと以上に大きな反響は兆一の心を知ってしまった宏美の大泣きだった。
「兆ちゃん、何で・・・何で気持ちを私に言ってくれなかったの?それがわかっていればこんなことをしなかったのに・・・」
「何、コーちゃんは俺みたいな小さな山を越えて天の河にたどり着いたんだから、それで良いんだよ」兆一はそう言って落ち着かせた。
「だけど、だけど兆ちゃんはどうするの?誰かいい人はいるの?」宏美のこの言葉に、
「何処か、大きな河に着けると思うよ。それが誰かはまだ解らないけどね」と何気なく答えた兆一だが、その瞬間、突然空から稲妻が直撃した。
 これを見て驚いた全員、いや、京だけは驚いていない。目を閉じて気絶したような表情に、億次郎がこう言った。
「ひょっとして、今のは京がやったのか?・・・間違いない、みんな自分の『ガンダ石』に聞いてみれば解りますよ」そして全員が納得、と言うことは京は兆一のことを?そして直撃を受けた兆一は、
「何だか痛いけど、胸に何かキュンとしたものを感じたなあ」と一言。自覚はしていないが、兆一も京のことを・・・?そう感じた一同だったが、当の二人の感情はそんな生易しいものではなかった。それはこれから追々明らかになって行く。
 遂に応援団の「春合宿」が始まった。これから迎えるオリエンテーション、茂野河をきれいに大掃除するためには、団員の全てがもっとレベルアップしなければならない。練習のメニューは早朝四時から夜の九時まで事細かに様々なものがある。一つ例を挙げると、初日の最後にスクワット四千回、これの後は誰の足も棒になる。億次郎と兆一も他の団員に力を送りながらなので、疲れ方は一緒である。そんな中でマネージャーの広美と順子が持ってくるやかんの水は、疲れを癒すこれ以上ないものだ。何故かこのやかんは、入れるだけでどんなスポーツドリンクよりも心身に利くのである。実はやかんの中には茂野川市にしかないある木の種が入っているからなのだが、その木の名前は実は誰も知らない。あの万和の研究でも名前が解らないその木、これが後に重大なことの核心になるのだが、今はまだ誰も解っていない。
 兆一達が「春合宿」で揉まれている時、京は合格発表を見に茂野河高校にいた。全教科特上の成績を上げていても、やはり合格出来るかどうか少し不安なのは京も例外ではない。
「ええと、受験番号は324っと、あ、有った!何処のクラスになるのかな、6組か」
 此処で京は、万和の言っていた「北」対「南」の対抗となるオリエンテーションのことを思い出していた。6組は「村」、二つの対立の緩衝場として万和が考えたことだったが、それは今この合格発表にも現れている。合格発表の看板が「北」と「南」に二分されているのだ。6組・「村」のそれはその間にぽつんと出ている。京は考えた。億次郎や兆一達「応援団」はこの対立を使って茂野河の大掃除をするのだが、それを受ける自分に一体何が出来るのか?その時に聞こえてきたのは万和の声だった。
「京さん、君は受ける側から力を使うんだ。君の『白銀』が最後の鍵になるからね」
 「白銀」?自分の何処にそんな力があるのか解らない京だったが、思い当たる節はあった。兄・億次郎と兆一の対決を止めた、自分の中にある未知な力、それがそうなのか?
「その通りだ。億次郎の『ガンダ』と兆一の『ヨロズ』、その二つの力を消した君も、やはり力の持ち主なんだ。これから丸打峠の『ガンダの祠』へ行こう。君の力をより確かにするために」この万和の言葉に、
「私、力なんかいりません!何かを壊すなんて耐えられません」と叫んだ京。しかし万和はきっぱりとこう言った。
「君の力は何かを壊すものじゃない。逆に何かを直す力だ。億次郎も兆一も君のその力で直されたんだ。しかし、今の君はその力の調節が出来ていない。その為に『ガンダの祠』へ行くんだ」
 そして二人は「ガンダの祠」にやって来た。
「万和さん、此処で私に何をするんですか?」そう聞いた京に、万和はこう言った。
「此処で君も『ガンダ』の力を身に付けるんだ。そして『彼女』も救う」
 「彼女」って一体誰?・・・あ、圭さんか。でも救うって一体どうやって?疑問の固まりの京に圭が声をかけた。
「あなたが兆一達と一緒に行動してくれれば、私は『イニシャルK』として居続けることに不安が無くなるのよ。だからお願い、万和さんの言う通りにして」
 この言葉を聞いて、京に迷いはなくなった。
「解りました。『ガンダ』の力を受け入れます。それと・・・」
「それと何だね?」と万和が聞くと、京は、少し顔を赤らめながらこう言った。
「それと、兆一さんのこと全てを教えて下さい。良く解らないんですが、兆一さんの存在が私の胸に迫って来るんです」
 良く解らない・・・それが兆一への「愛」なのだろうか、それとも圭と京が同調して感情を共有しているのだろうか、それともその両方なのか、誰にも解らないこの感情が、京の心に深く根付いていることは確かである。
 そして京は「ガンダ」の力を身に付けた。それが春合宿中の応援団全員に伝わり、億次郎と兆一以外の全員が歓喜の声をあげた。しかし億次郎は、今まで守っていた京の突然の成長に戸惑い、兆一は母・後輩、この二人の「けい」の境目が解らなくなり、この日の夜も母の胸に抱かれていたら、その姿がいきなり京になってしまうという夢を見てしまっていた。

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