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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第11回   茂野河での「南北対立」と万和の決意
 億次郎・兆一・京・そして圭の四人は、これからの腐黄色者達への対策を話し合っている。先ず圭が三人に謝った。
「知らなかったこととはいえ、あなた達を巻き込んだ私のこと、許してとは言わない。ただこれからは、私もあなた達と一緒に腐黄色者達と戦いたい。仲間に入れてくれる?」この言葉に「そうはいかない」と何処からか声が聞こえてきた。これは、「ヨロズ」か?「声」は更にこう続けた。これから茂野河の大掃除をする。腐黄色者達を黄金にするためには、圭が変わらず「イニシャルK」として奴らを押さえておくことが必要だと。
「茂野河の大掃除って、一体いつやるんだ。俺達三人だけでやれっていうのか?」この兆一の疑問に答えたのは、いつの間にか来ていた万和だった。「茂野河高校応援団」の全員で事にあたると。
「全ては、此処から始まるんだ。茂野河に染みついている腐黄色者を全て黄金にすること、それはお前達に係っているんだ」この言葉を聞いて最初に反応したのは圭だった。
「万和さん?何故今まで私に声をかけてくれなかったの、私、今まで自分が何者かも知らなかった・・・何故?」と涙ながらに訴える圭に、万和は「ヨロズ」に止められていたと告げた。また元のオリジナルガンダ、即ち億太郎もそうすべきだと言っていたという。
「圭、済まなかった。だが安心してくれ。これから俺達がやることを、お前は見守っているだけで良いんだ。お前に『眼』を渡すから」万和は圭に黄金色に輝いた玉を渡した。それを手に取った圭は、
「あ、あれ?私の眼、どうしちゃったの?河が、茂野河の全てが見えてきた」と驚きの声をあげた。万和はそんな圭に、
「三人がやっとこのレベルに到達したから、こういう事も出来るようになったんだ。これからは見たいものがいつでも見られる。だから安心してくれ」と語りかけ、億次郎・兆一・京の三人に、これからのことを話し始めた。それは新年度が始まって最初にある、「茂野河高校・オリエンテーション」が舞台だという。今度の「春合宿」はその為に応援団全員を鍛えるのだとも。
「京さんは一年生だから、オリエンテーションを受ける側になるが、其処はそれなりのやることがあるから覚えておいて欲しい」この万和の言葉に兆一が、
「オリエンテーションで何をするんだ?腐黄色者全部を争いから退かせるのか?」と聞いてきた。それに対しての万和の言葉に全員驚いてしまった。何と、腐黄色者達の争いをもっと激しくさせるというのだ。
「今年の一年のクラス数は11、1から5までが『北』の人間、7から11が『南』の人間、そして6組は『村』の人間だ。茂野河の『北』と『南』の対立はよく知っているよな・・・」万和は茂野河地帯の昔話を始めた。
 時は弥生時代、元山は既に大きな王が治めている強大な国だったが、茂野河の辺りは国らしい国がない、いわば未開拓の所だった。
 その茂野河と元山を繋ぐ丸打峠に居たのが「ガンダ」だった。「ガンダ」はこの峠にいる門番をしていた。危険な奴が茂野河の地に入らないように、初代の使い手・大河一が目を光らしていた。そして茂野河の河口近くには「ヨロズの言霊使い」の初代である小山始太郎が海からの侵入を見張っていた。「ヨロズ」が何故初代に始太郎を選んだのか、「ヨロズ」自身にも良く解らなかった。地球を造り急速に衰えた自分の「力」に合う何かを感じたのだが、彼が何処から来たかは全く解らなかった。一は祠に触れた時に「力」を貰った。「オリジナルガンダ」である億太郎が先祖を捜し当てたのだが、一自身にはそんなことは解っていない。二人はその祠で出会った。そして二人で海と山から茂野河の地帯を見張っていた。丸打峠を通れたのは「力」の無い一般人で、また海から上がれたのも同じだった。
 しかし、茂野河で「ヨロズ」に触れた命のカス、即ち腐黄色者が元になって茂野河を二分する争いが起こることをまだ誰も知らなかった。
 茂野河の流れは、丸打峠を過ぎた途端南側と北側に分かれている。その南側も北側も緑豊かな良く越えた田畑がある。「安泰」を約束されたはずのこの土地で突然「争い」の火蓋が切って落とされたのは、茂野河の流れの中から現れた黄色い霧状のものが茂野河地帯にいる人々に取り憑いたことからだった。腐黄色者である。奴らは南と北に別れて、人々に相手に対する不信感を植え付けた。そして茂野河を挟んで、南と北に分かれての大戦が始まってしまった。
 これを押さえたのは、言うまでもなく「ヨロズ」と「ガンダ」である。「ヨロズ」の指示に従い、始太郎は「空間拳」で取り憑いている腐黄色者を離れさせ、一はその現れた腐黄色者を「ガンダ」の青い光で緑色にして、茂野河の緑を更に豊かにした。しかし、茂野河の人々の間に生じた「南」と「北」の対立を消すことまでは出来なかった。
 やがて歴史はすすみ、戦国時代。茂野河はまた二つに分裂して、毎日毎日戦に明け暮れていた。「ガンダ」のお陰で、元山から軍勢が来ることはなかったが、この内乱は「ヨロズ」でさえ止めることは出来なかった。
 そこで考えついた案は、「南」と「北」の緩衝地帯を造ると言うことだった。茂野河の南側の流れと、北側の流れを分かつ島並に大きい中州。其処と河口から「ガンダ」の祠がある上流までの河原全体を「ヨロズの言霊」使いである小山家と、「ガンダ」使いである大河家の領分として、「南」・「北」の両方の大将に和睦をさせた。断れば自らの命がないことを知っていた彼等はそれを呑まない訳にはいかなかった。これで戦国時代の対立は一応治められた。
 明治時代、茂野河地域は「南茂野河町」・「北茂野河町」・「茂野河村」の三つの町村に分かれていた。旧制中学を創る際、「北」と「南」にいさかいが起こらないように、「元山県立茂野河中学校」は「茂野河村」に建つことになった。ここまでは良かったのだが、やがて三町村が合併して「茂野川市」になったときにまた問題が生じてしまった。
 それは、市制が施行されると同時に元山電鉄の駅を創る際、終点の「茂野河港駅」の一つ手前の「茂野河駅」が三町村の意見を聞かずに「南」に作ってしまったことだった。「北」の住人達は怒りに怒り、茂野川市が崩壊の危機に陥った。しかしそこで「ヨロズ」の小山家と、「ガンダ」の大河家を筆頭とする「村」の人達が、「北」に市役所を作るという案を考え出して何とか事を収めた。しかしこの場所に潜んでいる「腐黄色者」達にその恨みは残されて、現在の「茂野川市」に「南」と「北」の対決が迫っているのだ。
 丸打峠の「ガンダの祠」からの帰宅途中、万和・億次郎・兆一・京の四人は無口なままで、「心の会話」をしていた。この「話」は茂野河高校応援団の全員にも届いている。万和は自分の名前が「芳」から「万」に変わったことで緑にはなれないと言ってきた。億次郎と京は「何故」と問いかけたが、兆一にはそのことが出来ない訳は痛感出来ていた。「言霊使い」はその力故に逆に不自由になることがしばしばあるのだ。「芳和」が「万和」になった訳は、産まれた時に「ヨロズ」が手をさしのべてわざとそう仕向けたのだが、その為に万和は黄金にはなれても緑にはなれなくなってしまったこと、これは「ヨロズ」にとっても仕方がないと言わざるを得ない副作用だった。だから三人と残りの応援団全員で腐黄色者を戦わせて、染まるものは緑にして茂野河の命の元として、そうでないものは黄金にして茂野河の力の元にするという、茂野河の「大掃除」が今度の「新入生オリエンテーション」の一番の目的になるのだ。そして万和は最後に京を見ながらこう言った。
「青・黄・緑、これがこの街をきれいにする基本の色だが、それ以外にも重要な色がある。白銀、これが現れた時全ては解決する。そして次の課題へ俺達は向かうんだ」
 白銀?次の課題?億次郎と京には何のことなのか解らなかったようだが、兆一には少し解った。白銀はおそらく京のことだろう。そして次の課題は・・・親父は「ヨロズ」と肩を並べようとするんじゃないか、「新人間発生装置」の元となった「超人間発生装置」で。

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