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此処に兆一・始動章 作者:七木ゆづる千鉄

第10回   「イニシャルK」=圭・母と子の初めての出会い
その夜の兆一は、寝ずに一晩を過ごした。
「イニシャルKが俺の母さん、そして京さんが『新人間・完全版』だとすると、俺が母さんに何か言うためには、京さんの協力が必要なんだろうか」そんなことを考えながらふと見る母の写真、兆一ははっとした。母の圭の顔は今の京の顔と真そっくりなのだ。呆然とした兆一に、
「おい、お前にも同じに見えるか?」億次郎が「心の声」で話しかけて来た。
「俺も驚いたよ。同じ『新人間』だからって顔までそっくりじゃあな。しかし、京を使う訳にはいかないと思うぞ。腐黄色者の奴等に利用されるのがオチだからな」
「あら、兄さん。私なら大丈夫よ。もう自分が何者なのかが解ったんだから」京まで割り込んできた。そして三人は夜通し話し合い、今度の日曜日に事を実行しようと決めたのだった。
そして日曜日、三人は茂野河の川岸を上流に向かって歩いていた。目指す先は京がイニシャルKを見たという「ガンダの祠」の奥である。
この茂野河は、長さ自体はそれほど長くはないのだが、「河」と言われている。それが何故なのかがこの河岸を歩いていると誰もが納得する。ともかく両岸から色々な「声」が聞こえて来て、歩いた距離以上の疲労感が感じられるのだ。三人はそれぞれ自分のガンダ石を握りしめ、「ガンダの祠」を目指していた。そして少しずつ見えてきたその祠の入口、丸打峠の頂上に三人は立った。
「此処が『ガンダの祠』だ。兆一は初めてだったよな」
「ああ、確かに来たのは初めてなんだが、何か昔から此処のことを知っていたような気がするんだ。『ヨロズの言霊』に目覚める前から、何だか何時も此処の夢を見ていたなあ」兆一に初めてイニシャルKの声が聞こえたのはつい最近だったが、その場所はおそらくイニシャルKからずっと見させられていたのだろうか、それともヨロズが?どちらからかは解らないが、ともかく兆一の記憶の中に「母」のいる所が注がれていたのだろう。
やがて三人はガンダの祠に触れた。その時全員の心にイニシャルKの声が聞こえてきた。
「貴方達は誰?女の人は・・・ひょっとして私?やっぱり私は『京』なのね」
それに対して答えたのは京、
「確かに読みはそうですけど、貴女は私ではありません。貴女の名前は『圭』です。土ふたつの字です」
これを聞いたイニシャルK、いやこれからは「圭」と呼ぼう。圭から、
「じゃあ私は一体誰?この世にどうやって産まれて来たの?」そんな叫び声が上がった。その時億次郎は分身ガンダを出して、
「これ、見覚えがあるでしょう?貴女と腐黄色者をずっと見ていたこいつ、ガンダを」
それを見た圭ははっとした。これは、自分と「彼等(腐黄色者のこと)」のやりとりをずっと見ていたあの存在・・・。そして、
「何故貴方は私と彼等の話を聞いていたの?」と、問いかけてきた。億次郎の返事は、
「俺達ガンダの一族は、昔から貴女と奴等の事を見てきたんですよ。そう、貴女が此処に来た最初の時から」だった。
 これに対して圭は、
「私が此処へ来た最初の時からって・・・ま、まさかあのガンダは・・・億太郎さん?」過去の事を少し思い出したようである。更に、
「それじゃ私を時々包んでいたあの人は一体誰なの?」どうやらヨロズの事もずっと気になっていたようだ。この問い掛けに答えたのは、
「それはヨロズ・・・俺の父親、小山万和をこの世で選んだ・・・『空間意識体』なんですよ、母さん」涙目になった兆一だった。
 この言葉を聞いた圭は思わずこうつぶやき叫んだ。
「え?『兆一』?・・・やっと、・・・やっと起きてくれたのね!」圭の両目に嬉し泣きの涙が浮かんでいた。

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Novel Editor