僅かな沈黙ができて、その沈黙なかにテレビの音がくっきりと浮かびあがった。すごくタイムリーなことに、テレビでは結婚式場のコマーシャル流れていた。
「・・・わかちゃんはもう大丈夫なん?」 と、沈黙のあとで、かよちゃんはわたしの方を振り向いてちょっと遠慮がちな声で言った。わたしがなんのことだろうと思って彼女の言葉の続きを待っていると、彼女は、 「・・・加藤くんのこと、もう大丈夫なんかなぁっと思ってな。」 と、少し小さな声で言った。
わたしが咄嗟のことに何も言葉を発せられずいると、かよちゃんは更に言葉を継いだ。
「・・・もし、嫌なこと思い出せてしまったんやったらめっちゃごめんな。でも、わかちゃん、別れたばっかりのときすごく落ち込んでたし・・・あれから少しは落ち着いたんかなって思って。」
「うん、もう大丈夫やで。」と、わたしはかよちゃんの言葉にいくらか無理微笑んで答えた。「・・・別れたばっかりのときは、長い付き合いやったし、すごく落ち込んでしまったけど、もう大丈夫。そんなに思い出したりしんくなってきた。」
「・・・そっか。それやったらいいんやけど。」と、かよちゃんはちょっとの間心配そうにわたしの顔を見つめていたけれど、やがて頷いた。
そして少し間を空けてから、「でも、何か話したいこととかあったらいつでも言ってな。」と、付け加えるように言った。「何もしてあげられへんけど、話聴くことぐらいやったらできると思うし・・。」
「・・ありがとう。」と、わたしは言った。でも、そう言ったわたしの言葉は、いくらかぎこちなく部屋の空気を震わせていった。
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