「ほんまや。」と、わたしが笑いながら頷くと、かよちゃんもつられるように少し笑って、「あれもしかしてほんまに太陽なんちゃう?」と、冗談で言った。 「太陽いつの間に転職したん?」と、わたしも楽しくなってきて言った。
「だけど、最近太陽どうしてるんやろ。」と、かよちゃんはちょっと真面目な表情に戻って言った。「わかちゃん、最近太陽にあった?」と、かよちゃんはわたしの方を振り向くと言った。
「ううん、全然会ってへん。」と、わたしは小さく首を振って答えた。
太陽に最後に会ったのはいつだろうと考えているうちに、急に太陽のことが懐かしくなってきた。学生の頃はほとんど毎日のように会って遊んでいたのに、最近では滅多に会えなくなってしまった。太陽や他のみんなに最後に会ったのは、もう三ヶ月以上前のことだった。そう思うと、急に何だか少し寂しいような気持ちになった。
「太陽、あれから新しい仕事先見つかったんかなぁ」 と、かよちゃんはコーヒーを一口啜ってから言った。 「さあ、どうなんやろ。」と、わたしは曖昧に返事を返した。
太陽は大学を卒業したあと小さな建築事務所に就職して働いていたのだけれど、最近、その会社を辞めて無職になっていた。太陽の話では、会社の経営状態が思わしくなくて、辞めてもらえないかと社長に頼まれたのだということだった。
「でも、しばらくはゆっくりするって言ってたから、まだ何もしてないんちゃう?」 と、わたしは少ししてから言った。「働いてるときは休みがなくて、自分のしたいこと何もできひんかったから、しばらくはゆっくりしたいみたいなこと言ってた気がする。」
「そっかー。」と、かよちゃんはわたしの言葉に頷くと、少しの間黙って何か思いを巡らせている様子だったけれど、やがて、「だけど、うちらもう二十五になるんやね。信じられへんわ。」と、しみじみとした口調で言った。 「そうやね。」と、わたしは苦笑するように微笑にして頷いた。
高校生ぐらいの頃は、自分が二十五歳になるなんて想像することすらできなかった。でも実際になってみると、案外あっけないものだった。ちょっとあっけなさすぎるくらいだった。年齢だけが、どんどん勝手に一人歩きをしていくという感じがあった。
「・・・この前な、高校のときの友達の結婚式があってん。」 と、かよちゃんは少し経ってから、ふと思い出したように言った。 「・・・女の子の友達なんやけどな、その子、高校のときの同級生の子と結婚してん。それでな・・・。」と、かよちゃんはそこまで口にしてから、ちょっと躊躇うに、何かを確認するように、わたしの顔をちらりと見た。
そして一呼吸ぶんくらい間をあけてから言葉を続けた。「それでな、結婚式には他にも高校のときの同級生の子が一杯きててな・・それでそのなかに、わたしが高校のとき片思いしてた子もおってん。」 彼女はそう言ってから、少し恥ずかしそうに小さく笑った。
「べつに今はなんとも思ってないで・・けどな、ちょっとその当時のことを思い出してな・・・なんかよくわからへんねんけど、めっちゃ切なくなってしまった。」 「そんなことがあったんや。」と、わたしは曖昧に微笑して頷いた。
そして頷きながら、わたしにも高校のとき似たようなことがあったな、と、懐かしく思い出した。高校生のとき、わたしにはひとつ年上の好きなひとがいた。でも、そのひとにはもう恋人いて、わたしの気持ちは届かないままに終わってしまった。そのひとは今頃どうしているのだろうとなんとなく思った。
「せっかく再会したんやから、思い切って声かけてみたら良かったのに。」 と、わたしは冗談めかしてそう言ってみた。「今度ふたりで遊ぶ約束するとか。」
すると、かよちゃんは、「そんなの無理やわ。」と、恥ずかしそうに笑って、「それにその子、彼女おるって言ってたし。」と、続けて言った。 「そっか。それは残念やな。」 と、わたしは曖昧に笑ってコーヒーを一口啜った。 かよちゃんもわたしにつられるようにしてコーヒーを啜った。
僅かな沈黙ができて、その沈黙なかにテレビの音がくっきりと浮かびあがった。すごくタイムリーなことに、テレビでは結婚式場のコマーシャル流れていた。
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