「わかちゃんがうちに来たのってめっちゃ久しぶりやね。」 と、かよちゃんは楽しそうに微笑んで言った。 「そういえばそうやなぁ。」 と、わたしも微笑みながら、フローリングの床の上に腰を下ろした。
実際に、彼女の家に遊びに来たのは随分と久しぶりのことだった。最後に来たのはいつだろうと考えて、よく思い出せなかった。
たぶんもう三ヶ月以上前のことだ。社会人になって働くようになってから、学生のときの友達と遊ぶ機会はめっきり少なくなってしまった。仕事が忙しくてなかなか時間の都合がつかないということもあったけれど、でもそれ以上に、みんなそれぞれ生活の基盤となる場所が変わってしまったような気がした。
何か特別なことでもない限り、みんなで集まることはなくなってしまった。今日かよちゃんの家に遊びに来ることになったのも、べつに前もって約束をしていたわけではなくて、買い物をした帰りに、街でばったり彼女と顔を会わせたからだった。
かよちゃんは自分の荷物を置くと、とりあえずという感じでテレビをつけた。すると、部屋のなかに賑やかな笑い声が溢れた。
なんとなくテレビの方に視線を向けてみると、今テレビではバラエティ番組がやっていて、見たことのないお笑い芸人が何かコントのようなことをやっていた。テレビのなかの観客がどっと楽しそうな笑い声をあげて、その笑い声を聞いていると、よくわからないけれど、ほっとしたような気持ちになった。
「わかちゃん何か飲む?」と、少し経ってから、かよちゃんがふと気がついたように言った。 「いいで。そんな気をつかわんでも。」と、わたしは答えたけれど、彼女はそんなわたしの言葉を聞き流して、それまで座っていた床から立ち上がると、玄関と一体化しているキッチンの方へ歩いていった。
そしてそこで立ち止まって、わたしの方を振り返ると、「紅茶とコーヒーやったらどっちがいい?」と、訊いてきた。
わたしは少し迷ってから、「じゃ、コーヒーで。」と、答えた。かよちゃんは、「了解。」と言って微笑むと、コーヒーメーカーを準備して、コーヒーをいれる準備をはじめた。
しばらくすると、コーヒーメーカーから蒸気の吹き出る音が聞こえてきて、そのあとにガラスビンに抽出されたコーヒーの溜まっていく音と、コーヒーのいい香りがふんわりと漂ってきた。
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