藤崎さんとはレンタルビテオ店の前で別れた。 彼女は自転車に乗って帰っていった。ちょっと心配になって送っていこうかと言ったのだけれど、彼女はひとりで帰れるから大丈夫だと答えた。
彼女の姿はすぐに夜の闇に溶けるように見えなくなってしまった。池田は彼女の姿が完全に見えなくなってしまってから、車を走らせた。 帰り際に、藤崎さんとはお互いの携帯番号とメールアドレスを交換した。
家に帰ってから、池田は彼女と話した色々なことを思い出した。そしてそれから、彼女のあの哀しそうな表情を思い出した。池田はふと思いついて、彼女のメールアドレスを画面に表示させた。何か彼女にとって少しでも励ましとなるような言葉を送りたいと思った。池田はしばらく迷ってから、こうメールを送った。
嫌なことも色々あると思うけど、まあ、元気だしてな。何もしてあげられへんけど、話し聞くことぐらいやったらできると思うし、いつでも電話なり、メールなりしてください。
そのメールに対して、すぐに返事は帰ってきた。彼女はメールのなかで、おかけでたいぶ気持ちが楽になった、色々ありがとう、と書いていた。そしてそれにつけ加えるように、池田くんも早く前の彼女のことが忘れられるといいな、とも書いていた。 池田はそのメールを二度読み返してから、携帯を机の上に置いた。
池田は机の上に問題集を広げた。部屋の時計に目をやると、もう時刻は五時を回ってしまっていた。 「さてやりますか」と、池田は声に出して呟いてから、シャープペンシルを手に持った。勉強を開始する時間はいつもよりもだいぶ遅くなってしまっていたけれど、それでも何もしないよりはマシだろうと判断した。とにかく、十一時まで気合いを入れて頑張ってみようと思った。
ふと、窓の方に視線を向けると、閉じられたカーテンの隙間から、朝日のやわらかい光がそっと静かに差し込んできていた。
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