家を出ると、あたりはもうすっかり暗くなってしまっていた。池田は試験勉強をしていたので、このところずっと朝夜が逆転した生活を送っていた。だいたい夕方五時頃に目覚めて、それから次の日の十一時頃まで活動するといった生活サイクルだった。
愛車のラブフォーに乗り込み、走り出す。この車は、学生の頃に苦労して手に入れたものだった。まだいくらかローンが残っていたけれど、もうすぐでそのローンも終わるはずだった。
池田は実家住まいだったから、フリーターの身であっても、家賃や駐車場代のことを気にする必要がなかった。まあ、大学を卒業しているにもかかわらず、実家のお世話になっているというのもあまり居心地の良いものではなかったけれど、しかし、公務員になるという目標のためには取り敢えず仕方がなかった。
池田は大学を卒業してから、アルバイトをしながら公務員を目指すという生活を送っていた。普通に社会人をやりながら公務員を目指すという手もなくはなかったけれど、しかしそうするとなると相当涙ぐましい努力をしなければならなかったし、だいたいそんなことをやっていたらいつになったら公務員になれるかわかったものではなかった。
これは池田が実際に勉強しはじめてわかったことなのだけれど、公務員試験というのはかなり難易度が高く、よっぽど身を入れて勉強しない限り、その試験を突破することなんてまずできないものなのだ。だから、池田は比較的に自由な身でいられるフリーターをやりながら、公務員試験の勉強を続けていた。
実際のところ、池田はもう既にいくつか結果を出していた。それでもまだ勉強を続けているのは、他に本命があるからだった。…最も、その本命のうちのひとつが、今日無惨な結果に終わってしまったわけなのだけれど。
車のなかではドラゴンアッシュのアルバムを聴いた。彼等の歌は常にポジティブなエネルギーに満ち溢れていて、池田は聴いていて元気が湧いてくるような気がした。今日みたいにロクでもないことが立て続けに二回も起こった日には、彼等の音楽に耳を澄ませて、そのポジティブなエネルギーを少しでも自分の気持ちのなかに補給したい気がした。
池田はしばらく音楽に耳を傾けていてから、ふとあることを思い出した。この音楽を作っている人間と自分は同い年なのだ。彼等がこうやって日本のミュージックシーンに燦然と輝いている一方で、今の自分はいかがなものだろう、と池田は思った。…一年半つき合っていた恋人に振られ、おまけに第一志望だった就職先まで落としてしまった。人間は生まれながらして不公平にできていると誰かが言っていたような気がしたけれど、まさにその通りだよな、と池田は感じた。
ああ、これから俺の将来はどうなっていくのだろう、と池田は一瞬暗澹たる思いに駆られた。でも、慌てて首を振り、いや、まだまだこれからやねん、と自分に言い聞かせた。第一もう既にいくつか内定はもらっているのだ。そんなに将来を悲観する必要はないだろう。
それにまだ俺は24なのだ。その気になりさえすれば努力次第で何だってできる。まだまだいくらでもやり直しはきく歳じゃないか。そうだ、俺は絶対やったんねん、やったんねん、やったんねーん、と、池田は心のなかで取り憑かれたように繰り返した。
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