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池田を巡る恋愛。 作者:上原直也

第1回   1
 不幸にも、公務員採用試験の不採用通知が届いたのと、彼女に振られてしまったのは同じ日だった。だから、池田はどうしようもなく落ち込んでしまった。あー、と叫びだしたくなるくらいだった。試験に落ちてしまったのも仕方がない。彼女に振られてしまったのもまあ仕方がない。でもよりにもよって、ふたついっぺんに起こらなくたっていいじゃないか、と池田は思った。

 自棄になって、「なんでやねん」と叫びながら携帯を床に叩きつけると、携帯は壊れはしなかったものの、そのの画面にヒビが入ってしまった。それを見て、池田は猛烈に後悔した。そしてもう一度、「なんでやねん」と、目頭に涙を滲ませながら呟いた。

 悪いことというものは重なるものらしい、と池田は苦渋の気持ちで学び取った。気分転換に音楽でも聞こうと思って、最近出たばかりのBzのアルバムをミニコンポでかけてみた。でも、それを聞いていてもちっともよくないどころか、ただうるさいだけだった。池田はうんざりした気分で、そのかけていた音楽を止めた。

 さすがにさっきの携帯の件で学習していたから、自棄になってミニコンポを叩いたりするようなことはなかったけれど、しかし、ムシャクシャした気分はどうしようもなかった。それで何か当たれるものはないだろうかあたりを見回していたところ、池田の視線はさっきまで整理していたアルバムの写真の上に止まった。

 そこに写っているのは、高校の頃からずっとつき合いのある友達の顔だった。それは以前、みんなで集まって飲んだときに撮ったものだった。眼鏡をかけて楽しそうに笑っているその友達の顔を見ていると、池田は意味もなくムシャクシャしてきた。それで池田は写真のなかの男に向かって、「泉谷のアホ」と、言ってみた。すると男は一瞬、写真のなかで不服そうにその表情を歪めたような気がしたけれど、もちろんそれは気のせいだった。

 俺は一体何をやっているんだ、と池田は思った。我ながら自分のやっていることがアホらしくなってきた。ほんとうはこれから次の公務員試験に向けて勉強するつもりだったのだけれど、こんな気持ちではとても勉強なんて手につきそうにもなかった。池田は諦めてちょっと外に出ることにした。この前借りていたビデオを返しにいかなければならない用事もあったし、ちょうど良い機会だと判断した。
         
               

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Novel Editor by BS CGI Rental
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