次の日からの日常はなんとも現実感の無いものだった。日曜日はずっと寝ていたし、やっと始まった月曜日の授業も遠い所の音に聞こえた。それでも、僕は不意に呼び止められた。 「今日から、君達の部活動を見させてもらうから」 実習の青海月先生のその一言で、僕は部活動に所属している事を思い出した。 「へぇ、青海月先生って高校の頃、演劇部だったんですか」 「そうだよ、女優一筋の花形スターだったんだから」 放課後、僕と一緒に旧体育館にやってきた青海月先生は部の他の連中にもみくちゃにされていた。しかし、先生は嫌な顔一つせず、一人一人の質問に丁寧に答える。 僕は準備体操しながら、芥川の事を考えていた。今日も彼は学校には来なかった。 「ほら、いい加減練習始めっぞ」 という佐藤君の掛け声で、他の連中もやっと部活をする気になったらしく、ジャージに奥の放送室で着替え始める。 「今日はやる気だな」 笑いながら山川という主に役者を務める二年の同級生が僕の隣で柔軟体操を始める。 「どうせ、今年も地区大会止まりだって。音響も照明もあやふやなままでさ、役者のほうもおぼつかないまま本番に雪崩込んで、いつの間にか終わっちまってるんだよ」 僕は彼を無視した。
青海月先生の指導が入った今日の練習はいつもよりも充実していた。亀の甲よりも年の功なのかどうかは知らないけれど、かつての経験から来るらしい先生のアドバイスは実に的を得た物だった。皆、先生の指示に従い調子も良かったのだが、ただ一人いつもは真面目な佐藤君が始終顔を曇らせていたのが気になった。 大会まで残り一ヶ月となり、僕達は閉門ぎりぎりまで練習した。先生は途中で帰った。僕は練習が終わった後、水飲み場で佐藤君を捕まえて、何とは無しに青海月先生の話題を口にした。 「この劇は俺達のモンだ。小林さんが演出して、俺が舞監やって」 佐藤君は水道の蛇口から口を離す。 「小林さんもかわいそうだったぜ、彼女の演出案悉く直されちゃってさ」 「いーんじゃねーの?」 脇から威勢のよい声が僕と佐藤君の間に割り込んだ。腕を捲くり、蛇口を捻り水を一口含む。山川君だ。 「他の学校なんかみんなあんなモンらしいぜ。顧問の先生が脚本書いて演出指定して。何から何まで顧問の先生が決めちまうんだ」 とまた水を一口飲んだ後、口を拭い 「特に、県大会に行くような連中はさ」 と付け加えた。 僕は何も言えなくなる。佐藤君は僕らをにらみつけた後、体育館の方へ戻ってしまった。その背中は、敵意を丸出しだった。何かに対して怒ってる。それは不甲斐無い僕達にかもしれないし、先生の言い成りになっている他校の演劇部に対してかもしれない。 「なんだよ、あいつ…」 とぶつくさ言う山川君を俺は足で軽く小突いてやった。 「何すんだよ」 ふざけてそうされたと思っている山川君は笑っている。 「ごめん、手が滑った」
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