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雨の日 作者:浅上陽一郎

最終回   1
 窓辺で雨が止むのを待つ。特に何をするのでもなく待つ。撥ねる雨をぼんやりと眺める。霧散。雨は止まない。僕は外に出ない。
 出られないのが、出たくないのか。今も水溜りには波紋が生まれた先から消えていく。つなぎを着た男が、まるで雨が降っていないかのように歩いている。髪を染めた女は屋根のある場所に向かって走っていく。でも、ほとんどの人は傘を差している。
 音楽が流れている。先ほどはBrian Wilsonの"Wouderful"。今はEagkesの"Hotel Calfornia"。どちらも原曲ではないと思う。カヴァー曲だったり、アレンジだったりした。ラップ調にされた歌は、二台のラジカセで同時に違うCDをかけたかのように感じられた。
 向かいには駅があり、ここからは時計が見える。外に出てから30分後のことを思う。でもいまだにみんな傘をさしている。
 30分以上経った。濡れることを気にしなければ、既に着いているはずだった。
 さらに時計が進む。自由に使える時間が減ったことを思う。息苦しさと心細さと一抹の寂しさが胸に迫る。移動時間は一時間。だから、僕が自由に使える時間はその分引かなければならない。針が進む。
 窓の向こうの様子が変わる。別の選択肢のことを思う。少し金が必要だ。駅にあるキャッシュコーナーでお金を引き出さなければならない。来月は遠出したい。いくら残せばいいのか、いくら使えるのか、どのように過ごすべきか。
 時間があるようにも、ないようにも感じられる。外に出て雨の降り具合を確かめる。この程度なら平気かもしれないと思う。けれど雨は降っているし、傘をさしていない人はいない。時間は戻らない。意味もなく寺に登ったときのことを思い出す。経文が書かれた車を回すと、それを唱えたのと同じご利益が得られるらしい。
 合羽を着た男が目の前を遠すぎるが、見失ってしまう。郵便局のカバンとヘルメットだったと思う。
 先ほど考えた二番目の予定を実行するべきだと思う。けれども数字が減るのは憂鬱だ。今は昨日より少なく、昨日はこの前より少ない。減り方も三日前ぐらいから増えたと思う。けれども、私がどのような行動をしてもそのすべては無駄なんじゃないだろうか。ならば貯金があろうとなかろうと、同じはずだった。そうかもしれない。唯一意味があるかもしれない来月の予定。その気になれば中止することもできる。けれど、三ヶ月以上前から楽しみにしていたことでもある。
 何もしなければ選択肢が増え、何かをすると減ってしまうのだ。まあ、そのどちらも無意味なのだが。もし、考え事をという行為に価値があるのなら、何もしないということを選ぶのが賢明なのかもしれない。ここにいれば、天気の変化を観察することができ、場合によっては最初の予定を実行することもできる。
 けれども空は、絵筆を洗った後のバケツのようだった。
 二番目の予定を実行するための適切な時間から五分過ぎていた。自分はこれからどうするべきか。模範的な生き方と照らすなら、僕は今、今の考えを実行するべきではない。しかし、現在の僕は根本的に模範的でないとも言えた。すべての行動が絶望的だった。
 やりたくはないが、世間的に楽しいと思われている行為。何もせずに、天気を観察するだけの行為。この二つとさらに、金と時間を天秤にかける。やはり、ネガティブなものしか残らない。
 今日は濡れるしかないらしく、貯金は減り続けるしかないようだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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