雪が積もった日だった。 ケイスケは交通事故に遭って死んだ。 彼と同棲していたことが彼の両親にバレた。 お通夜に出ることも許されなかった。 私は手ごろな、ケイスケと同棲していたアパートで、今は黒猫のポーと同居している。 ポーは三年前、ケイスケが拾ってきた猫だ。 私は彼女―ポーはメスだ―のことが、好きになれないままでいる。 だけど、いくらなんでも捨てる気にはなれず、だらだらとポーの世話をしている。 それに対して、ポーは勝手気ままで、ご飯のときにしか私に懐かない。それ以外は、私に寄り付こうともしない。 ケイスケが生きていたころは、私だってポーに関わろうとしなかった。だから、ポーの態度が素っ気無いのは、当然といえば当然だとも言える。
ケイスケがポーを拾ってきたのは、雨の降っていた日だった。空が若葉色に薄く染まっていた日だった。 「拾ってきた」 見れば分かることをケイスケが言った。 「どうするの」 「飼おうと思うんだけど」 「勝手にしたら」 特に反対する理由が見つけられなかった。 ケイスケは、黒猫だから、という理由で、猫をポーと名付けた。 困ったのはそれからだった。 ケイスケは次から次に猫を拾ってきては飼うと言い出した。 しまいにはただでさえ狭い部屋に猫が十匹近く棲むようになっていた。 右を向いても左を向いても猫。 部屋の中で落ち着ける場所なんてトイレぐらいだった。 猫の餌代等はケイスケが払っていたが、だからと言って我慢できる状況でもなかった。 私はいい加減うんざりして、猫を捨てると、かんしゃくを起こした。 ケイスケは猫を拾うのをやめた。 それどころか、電光石火の勢いで、猫達の新しい飼い主を見つけて、他にやってしまった。 ポーだけ、何故か残った。 一匹だけなら耐えられると思って、私は知らないふりをした。 それがこんなことになるなんて。 私は途方にくれながら、ポーの世話をしている。 だいたい、動物なんて飼ったこともないし、可愛いと思ったこともない。そんな人間が動物の世話をするなんてナンセンスだ。 神様も悪戯が過ぎる。
「私が死ねば良かったね」 私は餌にがっついているポーの前にしゃがみ、ポーの頭を撫ぜてみた。 食事を邪魔されたたポーは、顔を上げニャアと鳴いた。 ポーと目が合った。
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