藤代という男も、最初はこの病を理解しなかった。いや、今でもきっと理解などしていないだろう。そういうやつだ。
オレの悩みは、藤代の許容範囲を超えていたらしい。 こいつはオレの相談に乗ることを、直ぐに放棄した。 病名もよく間違えた。たとえば、性同一傷害という風に憶えているのに気付いたときは、オレの口からは溜息しか出なかった。 悪気がない。と、言えば聞こえが良い。 所詮、オレの悩みなど、この男には関係ないことなのだ。 やっぱりこいつは、良いヤツのふりをしているだけの、みせかけだけの男だ。 そう思うと、いくぶん胸がスッキリした。 それと同時に、オレはガッカリしていた。 こいつが、オレを救ってなどくれるはずがなかった。何を期待していたのだろうか。 親にも頼らず、誰にもすがらず、雄雄しく生きていこうと決めたはずのオレ。そのオレが、実は弱々しく、脆い人間だった。 気付いたときには、自嘲っていた。 笑っていた。なんで笑っていたんだろうか。 笑っているうちに、なんだか、力が抜けていくのを感じた。 それまで、感じたことのない心地よさだった。 それで、少しばかり自由になれたような気がした。 気がしただけかもしれないが。それでも、良かった。
藤代は、オレを救ってなどくれない。 それは分かっていた。だが以来、オレと藤代はなにかと話をするようになった。 深い話はしない。 他愛のない。どうでもいいような話だ。 ただ、オレからあんな告白を受けていながら、藤代はオレを女だと全く思って居ない様子だった。 女だと思って欲しいわけではない。断じて。 ことさらに『お前は男だ!』と、宣言して欲しいと思っているわけでもない。 ただ冗談だと思われているのかと、もう一度言ってみたが、それでもその態度に変わりはなかった。 「いくらお前が女だって言われても、そう見えないものは仕方ない」 「確かに……仕方ない」 苦笑する。 「まあ、俺の方が男らしいかっていうと、これがそうでもない」 さらっと言う。 細い体と、色素の薄い感じ、特にその白い肌は、藤代のコンプレックスのようだ。それでいて、それに深く悩んでいる風もない。 オレは、気付いた。 男らしいということは、別に見た目ではない。 そんなことは、オレ自信が一番良く知っていることだと思っていた。だが、分かってはいなかった。 男というのは、外見ではない。ましてや、体ではない。 「フジシロって、男前だな」 「気味ワル……」 藤代は本気で震え上がったものだ。
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