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フジシロ 作者:清夏

第3回   男前

 藤代という男も、最初はこの病を理解しなかった。いや、今でもきっと理解などしていないだろう。そういうやつだ。

 オレの悩みは、藤代の許容範囲を超えていたらしい。
 こいつはオレの相談に乗ることを、直ぐに放棄した。
 病名もよく間違えた。たとえば、性同一傷害という風に憶えているのに気付いたときは、オレの口からは溜息しか出なかった。
 悪気がない。と、言えば聞こえが良い。
 所詮、オレの悩みなど、この男には関係ないことなのだ。
 やっぱりこいつは、良いヤツのふりをしているだけの、みせかけだけの男だ。
 そう思うと、いくぶん胸がスッキリした。
 それと同時に、オレはガッカリしていた。
 こいつが、オレを救ってなどくれるはずがなかった。何を期待していたのだろうか。
 親にも頼らず、誰にもすがらず、雄雄しく生きていこうと決めたはずのオレ。そのオレが、実は弱々しく、脆い人間だった。
 気付いたときには、自嘲っていた。
 笑っていた。なんで笑っていたんだろうか。
 笑っているうちに、なんだか、力が抜けていくのを感じた。
 それまで、感じたことのない心地よさだった。
 それで、少しばかり自由になれたような気がした。
 気がしただけかもしれないが。それでも、良かった。




 藤代は、オレを救ってなどくれない。
 それは分かっていた。だが以来、オレと藤代はなにかと話をするようになった。
 深い話はしない。
 他愛のない。どうでもいいような話だ。
 ただ、オレからあんな告白を受けていながら、藤代はオレを女だと全く思って居ない様子だった。
 女だと思って欲しいわけではない。断じて。
 ことさらに『お前は男だ!』と、宣言して欲しいと思っているわけでもない。
 ただ冗談だと思われているのかと、もう一度言ってみたが、それでもその態度に変わりはなかった。
「いくらお前が女だって言われても、そう見えないものは仕方ない」
「確かに……仕方ない」
 苦笑する。
「まあ、俺の方が男らしいかっていうと、これがそうでもない」
 さらっと言う。
 細い体と、色素の薄い感じ、特にその白い肌は、藤代のコンプレックスのようだ。それでいて、それに深く悩んでいる風もない。
 オレは、気付いた。
 男らしいということは、別に見た目ではない。
 そんなことは、オレ自信が一番良く知っていることだと思っていた。だが、分かってはいなかった。
 男というのは、外見ではない。ましてや、体ではない。
「フジシロって、男前だな」
「気味ワル……」
 藤代は本気で震え上がったものだ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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