藤代は、クラスの中心的存在ではないが、人受けが良かった。いつも誰かと一緒で、いつも楽しそうだった。 よくよく観察していると、頼られている感じがする。 あんな細身に、どうして皆が寄りかかるのだろうか。 あれに寄りかかるのが、それ程に心地よいものなのか。 それが、きっとキッカケだ。 藤代環という、その男。名前まで、決して男らしいとはいえない。 オレは、その男に悩みというやつを打ち明けてみたくなった。
オレには悩みがある。正直、悩みなどという言葉にしてしまわれるのが、嫌になるくらいの苦悩だ。 オレは男だが、体が女なのだ。 たぶん、人から言わせれば、体が女ならばそれは女ということになる。 だが、オレには分かっていた。オレは、男なのだと。 モノ心ついたときには、スカートが恥ずかしかった。赤いランドセルが嫌で、入学式を前に、川に流した。 成長するにつれて、違和感は募るばかりだった。胸が微かにでも膨らんでくるに至っては、それを切り取ってしまいたくなった。 気がおかしくなりそうだ。どうして、こんな風に思うのか。自分は、やっぱりおかしいのだと思った。 他の者が、自分の体に満足しているのが、羨ましくて、憎かった。
中学には制服というものが存在し、しかも男女別に決められていた。 男の制服。女の制服。もちろん、体の性別で、それは決まっていた。 この短いスカートをはいて、生きるくらいなら、死んだ方がましだ。 そう、思った。
これまでも、スカートと葛藤しながら、なんとか付き合ってきた。女子トイレに行く ことにも、吐き気を覚えたこともあった。 それでも、なんとか生きてきた。 今まで耐えてこれたのだから、こんなスカートのひとつやふたつ、何とかなるだろう。そう、思ってみたが、無駄だった。
死んでしまおうか。 そう、思った。けれど、死ねなかった。怖かった。死にたくなかった。生きていたかった。 そうして死ぬよりも、それを着ないことがましだということに気付いた。
スカートも、赤いランドセルも関係ない生き方があるはずだと、思った。 もしそれがないのならば、自分が切り開いていけばいいことだと、思うことにした。
性同一性障害という言葉を知ったのは、この苦悩に散々に転げまわった後だった。
反抗的で問題児のオレとの闘い疲れた両親は、オレを病院に連れて行った。 思えば、良い親だった思う。 結局、理解はしてくれなかったが、諦めてくれた。
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