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フジシロ 作者:清夏

第2回   2
 藤代は、クラスの中心的存在ではないが、人受けが良かった。いつも誰かと一緒で、いつも楽しそうだった。
 よくよく観察していると、頼られている感じがする。
 あんな細身に、どうして皆が寄りかかるのだろうか。
 あれに寄りかかるのが、それ程に心地よいものなのか。
 それが、きっとキッカケだ。
 
 藤代環という、その男。名前まで、決して男らしいとはいえない。
 オレは、その男に悩みというやつを打ち明けてみたくなった。





 オレには悩みがある。正直、悩みなどという言葉にしてしまわれるのが、嫌になるくらいの苦悩だ。
 オレは男だが、体が女なのだ。
 たぶん、人から言わせれば、体が女ならばそれは女ということになる。
 だが、オレには分かっていた。オレは、男なのだと。
 モノ心ついたときには、スカートが恥ずかしかった。赤いランドセルが嫌で、入学式を前に、川に流した。
 成長するにつれて、違和感は募るばかりだった。胸が微かにでも膨らんでくるに至っては、それを切り取ってしまいたくなった。
 気がおかしくなりそうだ。どうして、こんな風に思うのか。自分は、やっぱりおかしいのだと思った。
 他の者が、自分の体に満足しているのが、羨ましくて、憎かった。


 中学には制服というものが存在し、しかも男女別に決められていた。
 男の制服。女の制服。もちろん、体の性別で、それは決まっていた。
 この短いスカートをはいて、生きるくらいなら、死んだ方がましだ。
そう、思った。

 これまでも、スカートと葛藤しながら、なんとか付き合ってきた。女子トイレに行く ことにも、吐き気を覚えたこともあった。
 それでも、なんとか生きてきた。
 今まで耐えてこれたのだから、こんなスカートのひとつやふたつ、何とかなるだろう。そう、思ってみたが、無駄だった。

 死んでしまおうか。
 そう、思った。けれど、死ねなかった。怖かった。死にたくなかった。生きていたかった。
 そうして死ぬよりも、それを着ないことがましだということに気付いた。
 

 スカートも、赤いランドセルも関係ない生き方があるはずだと、思った。
 もしそれがないのならば、自分が切り開いていけばいいことだと、思うことにした。



 性同一性障害という言葉を知ったのは、この苦悩に散々に転げまわった後だった。

 
 反抗的で問題児のオレとの闘い疲れた両親は、オレを病院に連れて行った。
 思えば、良い親だった思う。
 結局、理解はしてくれなかったが、諦めてくれた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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