初めて、そいつを見たときに、向こうが透けて見えたような気がした。 むろん、そんなはずはない。 ただ、それくらいに色素が薄い。というのが第一印象だ。 こいつは病気じゃないかと思った。 瞳の色が尋常ではなく、薄い。陽の光が差し込むと、色がないように見える。 挙句、肌があり得んほど白い。いや、白いという生易しいモノではない。蒼いといっても良い。実に不健康だ。 しかも、痩せすぎだった。
しかし、そいつは男だ。男の体を持った男だ。 酷い話だ。こんなので、何の苦労もなく男として生きている。不公平だ。 無性に腹が立つ、そういう男だった。
高校を卒業してから、そいつとは全く会っていない。 会いたくない訳ではなかったが、会う機会をことごとく逃していた。 まず、ヤツが東京に行き、オレが鹿児島に行ったのが、会わなくなった最大の要因だ。 それから引越しのゴタゴタで、オレがあいつの東京の連絡先を書いたメモを失くしたこと。そして思い切ってかけてみたあいつの携帯が、不通になっていたこと。 信心深くないオレだが、これは『藤代とは、もう会うな』というカミサマの思し召しなのだと、うっかり思いたくなるというモノだ。
オレには、あいつ以外に高校時代の知り合いはない。 つきあった女は何人もいたが、皆ことごとく別れてしまったから、もう何の繋がりも残っていない。 そして鹿児島に引っ越してから、高校のあったN市には一度も行っていない。なぜならN市は、オレにとって帰るところではないからだ。オレは、当時アパートで独り暮らしだったし、親類縁者の一人もいない。 同級会は、開かれているのかもしれないが、オレには声がかかっていないのだろう。
みごとなまでにナイナイ尽くしで、今のオレと藤代をつなぐものは本当に何もない。
クラスの中で、オレは浮いていた。思い切って言ってしまうと、皆から憎まれていたり、煙たがられていた。 オレ自身が、そう仕向けていたことなので、それは間違いない。 オレは人と関わることが、あまり好きではなかった。 いろいろと面倒だった。 あれこれ気を使って生きるよりも、孤独であることが楽だったからだ。 それでいて、手当たり次第という勢いで女と付き合っていたのは、我ながら意味不明だ。 カノジョたちは、とても心地よかった。ただ、残念ながらその心地よさは、長続きしなかった。 それは、カノジョたちと体の関係を持つことが出来ないせいだった。 ……と、いうのは当時の言い訳で、本当の理由は、どの女も好きではなかったというトコロにあった。それで、長続きするハズがない。今さらながら、当時の自分に突っ込みを入れたくなる。 それに気付いたのは、あの男のせいだった。 無性に腹立たしい、色素が薄く、冷たく、男前な藤代環という男の。
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