宮城は、女に好かれているが、男には避けられている。 人のものとかいう見境なしに、片っ端から、女と付き合うせいだ。 それは、『プラトニックでいいの』という女を求めての、孤独な狩人ゆえのことと、俺は思うことにしている。 「お前、よくあんなヤツとつるんでられるよな」 木島というこの男は、生まれてこの方カノジョなしという悲惨な人生から脱却したところで、宮城に薔薇色の人生を奪われたことがある。憎むのも当然だ。 「今のとこ、害はない」 「そうかな」 木島は、溜息をつく。 「何だそりゃ」 思わせぶりな木島の言葉を、それほど気に留めた訳じゃない。 「聞かなかったことにしてくれ」 「何だよ」 こうなると、聞かずにはおられんだろう。木島の狙いは、そこにあったのだ。 「俺、見たんだ。お前のカノジョ。美貴ちゃんだっけ。……が、宮城と歩いてるとこ」 ガーン。 とかいう、擬音が頭に響くという体験をしたのは、生まれて初めてだった。
美貴とは、三月前から付き合っている。学校が別だから、宮城の目に触れることもないので、安心していた。それが、どうだ。あの男の守備範囲は、俺の予想をはるかに超えていた。 もしかしたら、ただ道を教えていただけかもしれない。 もしかしたら、美貴が宮城に俺とのことを相談したのかもしれない。例えば、テーマは『優しすぎる俺』について。とか。 もしかしたら、もしかしたら。
もしかしたら、をどれだけ繰り出したところで、結果は同じだ。 その日、美貴は俺に別れてくれと言った。 「環は、優しいよ。でも、それが不安になるの。もう付き合えない」 とか、訳が分からねえ理由だった。 どんな理由でも、俺はどうでも良かった。でも、言わずにはいられなかった。 「頼むから」 「え?」 今まで、俺は美貴に何か頼んだことはない。だから美貴は、驚いた顔をした。 『頼むから、別れないでくれ』 とか、美貴は期待したかもしれない。 「頼むから、違う男が好きになったから別れたいって言ってくれ」 俺は、そう断罪した。
宮城の声が、聞こえたような気がした。 『冷たいな。フジシロは』
俺は冷たい。確かにそうだ。優しいとみんな言うのは、そうふるまっているからだ。 俺は冷たい。それを隠して生きてきた。俺は、誰にも興味がない。俺は、親身になって相談をしているふりをしてきた。自分が冷たいということを、知られたくなかった。 「フジシロ」 学校の廊下で、宮城の声が後頭部に投げつけられた。 俺は振り返らず、その声をなかったことにしようとした。 それ以上、声は聞こえてこなかった。
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