「フジシロ」 そいつが俺を呼ぶ時は、どういう訳かカタカナに聞こえる。 他の誰が呼んでも、藤代としか聞こえないのに、不思議なものだと思う。 そういえば、そいつは俺を下の名前で呼んだことがない。もしかしたら、知らないんじゃないかと、疑ってみた。ありうる……と思う。なんだかどうでもよくて聞いたことがない。もし、本当に知らないとしても、別に驚かない。だから、おれは聞いたりはしない。 「お前、色素薄いんだな」 それは子供の頃からの俺のコンプレックスだ。 薄茶色の髪が地だということを、そいつは気付きやがった。髪を一つまみ、後ろから引っ張ってきた。 「離せ」 出来るだけ冷たく、そいつの手を払った。 そいつは、傷ついたような顔をしてみせた。 「冷たいな。フジシロは」
そいつは、名を宮城桂という。身長180センチのにやけた男前だが、驚くべきことに男ではない。女なのだ。 だが宮城に言わせると、自分は男なのだそうだ。 着ている制服も確かに女子のものではなく、俺と同じ男子のものだ。 見た目的には、どうみても男で、皆そう思っているし、本人も男だと確信している。 しかし、生物学的には女なのだ。 なぜか、宮城はそのことを俺に打ち明けた。そういう病気なのだと、言った。 「どういう病気だよ」 俺は、いつもいい加減なことを言う宮城を信用しなかった。 「男が、女の体で生まれてくる病気」 楽しそうに笑う宮城の言葉の重さを、俺は理解しなかった。 俺の認識は、体が女なら女で、体が男なのが男だというものだった。体が女なら、それは女であって、男ではない。 性同一傷害とかいうのだそうだ。 もしも宮城が男なのに体が女だとしたら、男であるという俺自身の根拠はどこにあるのだろうか。とか考える。 女を好きになるから男なのか。男を好きになれないから男なのか。
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