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灰色の街 作者:鰐部祥平

最終回   土曜の暴走3 エピローグ
尾頭橋でシンが濃尾連合のメンバーを集め今回の出来事のあらましを話す「お前ら五人が今日通った場所には白龍会の事務所が有ったらしい」白龍会とはヒットマンなどを多数抱える愛知県1の武闘派の組織だ「あそこの組長は族嫌いで有名でな。事務所の前を通る奴らはケツ持ちがどこだろうと潰す。と宣言していたらしい。名古屋のチームでは有名な話らしいが…まあ、今回はお前らの話はついたから大丈夫だ」しばらく沈黙し、その後「ただ、拉致られた奴の事は諦めろ。向こうにも面子があるからな。後藤が出てきたからと言って全員を返すわけにはいかないからな」
 「!!」純たちの顔から血の気が引いた。純は自分の膝から力が抜けていくのを止められない。もしあの時、拉致されていたら純も切り捨てられていただろう。恐怖に押しつぶされまいと純は隣に立つカネヒラを見る。今にも泣き出しそうな顔で震えている。ヒロ、ヨシも顔面蒼白だ。ケンジは俯いたまま顔を上げることが出来ないようだ。
「もし、そいつの両親から何か聞かれても、暴走が終わってから別れた。その後は知らない。とでも口裏を合わせておけよ」
 トモユキは二度と見つかる事はないだろう。白龍会はその道のプロだ。トモユキは終着駅着いたのだ、彼の望まぬ形にせよ。15の冬の日に友人にも家族にも見送られる事も無く暴力によって…。
「そうだ。明日…いや今日だな。今日の夜10時にお前ら5人は事務所に来い。オヤジに挨拶するんだ。わかったな」「はい…」5人は返事をする。これを合図に皆自分達の単車に戻る。「純とケンジは車に乗れよ」車で参加していた奇目羅のメンバー二人が単車の運転を交代してくれるようだ。純は助手席に乗りながら小さくため息をついた。
濃尾連合の暴走隊がゆっくりと走り出す。純は空を見た。空は白み始めている。だが厚い雲に覆われ一面が灰色だ。コンクリートとアスファルトの灰色が一層深く見える。純にはこの世界全体が灰色になってしまったように感じられた。ふと歩道に目をやると、日曜の早朝なのに背広を着たサラリーマン風の男達が幾人か、冬の朝の澄みきった、しかし刺すような冷たい空気の中を歩いている。口元に微かな緊張感を漂わせてはいるが無表情な眼差しをしている。だがその足取りには、そこはかとない強さを感じる。灰色の街。どこまでも続く灰色の世界を、彼らは歩く。
純はそんな彼らを見つめていた。そのうちに瞼が重くなり静かに目をつむる。純の意識が深淵の彼方に沈んでいくまでに、幾ばくの時間も必要とはしなかった。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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