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灰色の街 作者:鰐部祥平

第6回   土曜の暴走2
もう何時間ほど隠れて居るのだろう。みんな疲労と寒さで会話も無くなり、静かに座っている。ケンジは虚ろな表情を浮かべて痛みに耐えている。何とか歩けるところを見ると骨は折れていないだろう。
 純は虚空を見つめながら春奈の事を考えた。
あの夜、別れぎわに春奈が見せた空々しい笑顔。あの時は春奈が自分に対し決別した事を意味したと思った。だが今考えるとあれは最後に自分を試したのではないか?「突き抜ける」事の出来ない男に彼女が見せた最後のチャンス。「この冷たい笑顔を乗り越えて、私を引き止めてみてよ。本気のあんたを見せてよ」春奈のそんな心の声が純には聞こえるような気がする。なぜ、彼女の腕を引き寄せ抱きしめなかったのか。純の瞳に微かに涙が浮かぶ。「今更かよ」心の中で呟く。純の思考を突然携帯の声音が遮る。「はい。ヒロです。はい。はい。はい。」どうやら、シン君からだ。後藤の「オヤジ」が先方と話をつけたのだ。「もう大丈夫だから尾頭橋まで来いって」「カネヒラ君。純とケンジが怪我をしてるんで単車を運転して下さい」ヨシがケンジの単車を指差す。「嫌だ!嫌だ!絶対嫌だ!!」まるで駄々子のようにカネヒラは叫ぶ。「ふざけんなよ」ヒロがカネヒラの襟首を掴みながら叫ぶ。純はその二人に割って入り「いいよ。俺は殴られただけだから。ヨシはケンジの単車に乗って」襟首を掴まれた為か、カネヒラは今まで乗っていたヒロのケツには乗らず。ヨシのケツにオズオズと座る。

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