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灰色の街 作者:鰐部祥平

第3回   学校
定時制高校の教師には一つ凄い特技がある。
常にルールを無視する不良達に「八十年代青春ドラマ」さながら正面からぶつかる。などとはせず、彼らの不合理な主張や行動に一定の理解を示しつつ、不良たちの怒りや心の高ぶりが収まるのを待つ。決して教師は怒らず、反論もしない。彼らが落ち着いた後にその非を淡々と語り、さらに一転彼らを褒め「お前は、本当は賢い。お前になら分かるだろう?」とくる。不良達は煙に捲かれた感じでしぶしぶ大人しくする。本当に彼らの更生を考えるなら、正面からぶつかっていく方が良いかも知れないが、そんな事をした日には、燎原の火の如く怒りは別の不良達にまで燃え広がり、一日四時間しかない授業はすべて潰れてしまう。定時制といっても、生徒のすべてが不良ではなく半分の生徒は中学のときにいじめ、不登校、引きこもりなどの挫折を経験しながらも立直る為に通学しているのである。彼らの時間を犠牲にはできない。そんなわけで教師は何が起きても冷静。まさにプロとして事態に対処する。
 純はかねてより、教師共が巧みに自分達を誘導していることに気づき、何とか一泡ふかせたいと思っていた。授業をサボり友達とトイレで話し込んでいる内についに閃いた!「ヨネ!今からお前の原付で校舎の中を走ろうぜ!ゼッテー目立つ!」学友の中で一番お調子者と思われるヨネを純はたきつけた。
「それはさすがにヤバクね?」怯むヨネ。
ばか!ぜってー面白いって。マジでみんなにウケるって」ヨネはまんまとそそのかされ、二人はヨネの原付にニケツして校舎の中に乗り込む。ヨネの原付はマフラーが改造してあり。甲高い音を立てる「パリパリパリ!」純は原付のアクセルをリズミカルに回す。一瞬の内に各クラスの扉が激しく開き、生徒と教師が廊下に飛び出てくる。ヤンキー仲間は喝采を叫び大はしゃぎ。教師は…顔から血の気が引いている!純は原付を運転しながら素早くその表情を読み取り「やった」とばかり微笑む。「止まれっ!」教師の一人が怒り戦慄きながら叫ぶ。「お前らいいかげんしろ!」別の教師が純たちの行く手を遮るようにして立つが、暴走で手馴れた運転で難なくかわす。
 そのまま校舎の外に出て自転車置き場に戻る。教師は追いかけこない。しばらくすると、ヤンキー仲間が十数人ゾロゾロとこちらにやって来た。「純、ヨネ。ちょーウケるじゃん」皆がはしゃぐなか、純はもう醒めていた。ヨネは皆から注目を集めて有頂天になり、もう一度、原付に跨り今度は自分で運転をしながら校舎に戻っていった。
 「純、今週の土曜日に暴走があるけど、濃尾連合は来るの?」名古屋の天白に本拠地を置く「邪神」のメンバーのテルユキが聞いてきた。「うん。行くみたいだよ。」と純。「純は来ないの?今回の暴走は俺らのチーム主催だから来てよ」テルユキはヤンキーの中ではどこか落ち着いた雰囲気のある男で、純はそんな彼に一目置いていたので、行きたいとは思ったが「ごめん。彼女と予定があるから…もし予定が変わったら行くよ。」テルユキは「ああ、純はあの彼女にベタ惚れだからな。」と言いながら笑った。「学校が終わったらどうする?」純はすまなさそうに「ごめん、これから彼女」そんな純を見てテルユキはまた小さく笑った。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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