■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

灰色の街 作者:鰐部祥平

第2回   通学
金髪のロン毛に赤のメッシュキャップ。赤のダウンジャケットをザックリ着こなし、首には赤のバンダナを捲き、オフホワイトのコットンセーターを大きめのサイズでダラリと着る、パンツは白のデニムをダボダボと腰までズリ落として穿いている。靴は赤の、ナイキのスニーカー。純は巷で言われる赤ギャング風のいでたちで、電車に座る。隣の座席で似た格好のヒロが座席に浅くもたれかけながら最近の不良グループの近況をダラダラとしゃべっている。純とヒロは別々の定時制高校に通っているが名古屋駅までは同じなので一緒に通学している。
 純にとっての学校は特に意味を見出せるものではなかった。ヒロは工業科に通い、大工の棟梁である父親の後を継ぐ為に、学業の方は意外なほど真面目におこなっているようだ。進路が決まらず習慣で通学している純にとってはとても羨ましい、あるいは焦りを感じる元でもあった。純の家には両親は居ない。父親の実家に住んでいるが両親は離婚しており父親は東京と名古屋で会社を経営し、東京と名古屋にも家を所有する。それぞれに別の女性を囲っている。純は小さいときから留守にすることが多い父親に懐くことはなく、今日まで疎遠なまま来ている。母親は別の男性と同居をしている。近くに住んでいるので様子は、よく見に来るが色々な理由から子供たちを引きとることができないでいる。純の兄弟は十五歳の妹と十一歳の弟。この三人が屋敷とも呼べそうな大きな家に子供達だけで暮らしている。これが純の焦燥の要因の一つでもあることは間違いない。生活費は父親から送られているが、こんな生活はどのような形であれ、行詰るのは目に見えている。
 電車が名古屋駅に着くころには、駅は学校から開放された高校生達で賑う。純とヒロは学校が始まるまで40分ほど間があるので、ヒロの学校の友達コウジと合流しナンパをする。これはほとんど習慣のごとく毎日行われているため、名駅周辺の女子高生にはすっかり顔が知れ渡ってしまっている。「純ちゃん、またナンパしてんの?今から遊ぼうよ。」純たちの姿を見て、ナンパがきっかけで友達になったギャル達が声をかけてきた。日サロで焼いた浅黒い肌にルーズソックスの白色が眩しく映る。純達はナンパを止め彼女たちと駅の隅の階段に座り込みしゃべる事にした。擬音と単語の羅列でしかない虚しい会話だが、若い純にとっては女の子と話すことに淡い快感が無いわけではない。それに自由奔放に生きているように見える彼女達にもそれぞれの悩みや苦悩を抱えていることはわかっている。今まで、ヤクザから堅気の大人までが彼女達を食い物にしようと、色々な罠を仕掛けているのを純達は目の当たりにしてきたのだ。「淳ちゃん、またねー」純は彼女達、ヒロ、コウジとも別れ学校に向う。つい今まで何を話していたのか純には思い出せない。彼女達との会話は所詮、視床下部的な快楽であり、そこから得られるものなど無いのかもしれないと純はボンヤリトと考えた。
昔、純はそのような考えをヒロやヨシに話して見た事がある。二人からは「意味わかんないんだけど?」「いや、普通じゃね?」という言葉が返ってくるだけだ。
彼らと共にいるのは楽しい。だがどこか微妙に歯車が噛み合わないのだ。パズルのピースがたった一つだけはまらない様な歯痒さを感じ始めている自分に純は気づき始めていた。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections