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灰色の街 作者:鰐部祥平

第1回   週末の夜〜プロローグ
夜の闇を切り裂く爆音が週末特有の浮かれた雰囲気の街に響き渡る。愛知県名古屋市最大の繁華街である栄を目指しバイク80台、車数十台の暴走族が片側三斜線の道路を占領し自由気ままに走り回る。純は自分の愛車z400FXに跨りその光景を眺めながら、自らの生の高まりを感じる。冬の真夜中の身を切るような風も今の純には心地よくすら感じられる。響く爆音とテールランプの輝き、さまざまに改造されたバイク。そして物見高く見物する街の人々。これらの物が純にとっては、意味喪失した自分の人生に輝きを与えてくれるものであった。
 「栄まであと少しだな。今日は単車も多いし、燃えるね。」とケツに乗るヨシが純の耳元で叫ぶ。純は身をねじり「ああ、今日は楽しそうだな!」と叫ぶ。
 「おっしゃあー!気合入れるぞ!!」ゼファーに跨るヒロが隣で叫ぶ。
 純、ヨシ、ヒロ、の三人は名古屋市郊外にあるH町出身、幼馴染の十七歳。中学の時には落ちこぼれ、不良になることに憧れるがどこか中途半端なまま本物にはなり切れず中学を卒業する。そんな三人も中学卒業後、隣の中学出身の不良グループに誘われ、一六歳のときに濃尾連合の奇目羅(キメラ)と言う暴走族グループに誘われ、晴れて本格的なヤンキー人生を歩むことになる。
 「外堀通」を名古屋駅方面から栄に向かっていた暴走隊は久屋橋の交差点を右折する。すると道路は一方通行四斜線の大通りになる。右側にはセントラルパークの森が夜の闇に暗く繁る。この公園は泉一丁目から栄五丁目まで南北に貫く都心のオアシスだ。この南北に長い公園を挟むよう左右に、片側四斜線の大通りが走っている。この通りをなんども往復することが暴走族にとっては一番の晴舞台である。公園と反対側に面する歩道には、夜遊びを楽しむギャルやナンパ目的の男たち、飲み歩くサラリーマン。ホスト、ホステスから外国人売春婦までが闊歩している。ネオンが創り出す背徳の世界に快楽とスリルを求め、多くの人が集まる。人生の憂さから逃避し享楽の波に飲まれようとしている者。彼らから快楽と引き換えに、金銭を吸い取ろうとする者達の世界。これほど純たち暴走族に相応しい世界があるだろうか!社会から落ちこぼれ、人生の目的もなく、しかし若さゆえに無限のエネルギーを持ちながら、その捌け口のない者達。彼らに生命の輝き、自らの存在を誇示する舞台。その舞台を純達は何往復も繰り返し走る。腕が痺れるくらいコール(リズムをつけた空ぶかし)を奏でながら。
 「純、左!左!」ヨシが後ろから腕を伸ばし歩道側を指差す。その指の先には二人のギャルが白い紙切れを振り回しながら車道側に跳び出している。純はその二人の前に単車を横付けにする。「やった!チョー、カッコいいじゃん」ギャルの一人がそう叫びながら一枚の紙切れを純に手渡す。もう一人がヨシに紙切れを渡しながら「絶対連絡してよ」と叫ぶ。「おう!絶対連絡するよ」紙切れを開き、中の電話番号をチェックし終えた純はそう叫びながら単車を発進させる。いつもより気合を入れてコールを刻みながら。
 暴走隊の後ろではケツ持ちの単車が四台、巧みなローリングでパトカーを押さえている。ローリングの度に激しく揺れるライトがパレードの電飾のように周囲にきらめく。夜はこれからだ。この後さらに今池など市内の小粒な繁華街を、パトカーを同伴して走り続けるのだ。空が白み始めるまで…

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Novel Editor by BS CGI Rental
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