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卒業の日に思うこと 作者:快新平

最終回   片山昭の場合
 今日は、我が校の通信制の卒業式。校長として、壇上に立った私の目に飛び込んでくるのは、希望に胸満ち溢れた、幅広い年代の、たくさんの個性を持った卒業生たちの顔。


 この学校には、様々な事情を持った生徒たちが入学してくる。


 全日制の学校に、ついていけなかった生徒。事情で、高校を中退したり、高校に行けなかった生徒。病気がちで、毎日は学校に通えない生徒。学校に適応する事ができなかった生徒。不登校になってしまった生徒。縛られる事を好まず、自由な学びを求めてくる生徒。


 入学式のとき、戸惑ったような、怯えたような、そんな顔をしていた生徒たちが、今は最高に晴れ晴れとした表情で、式に出席している。


 卒業式も、服装は自由。もちろん、式に相応しい服装をしてくるようにとは言っているが。


 だから、卒業式にも個性が出る。
 金髪にスーツの学生もいれば、振袖姿の学生もいる。しっかりパンツスーツで決めている学生の隣には、フリルのたくさんついたドレスの学生もいる。中には、出産を控えて、マタニティードレスの学生もいる。


 保護者席に目を移せば、そちらも顔ぶれは様々だ。


 母親もいる。父親もいる。中には、ご主人や奥さんが出席している人や、成人している子供が、親の晴れ姿を見に来ている。


 親にしてみれば、「自学自習」のこの学校は、なかなか大変な事もあっただろう。けれど、子供たちは諦めずに、今日の日を迎えたのだ。


 皆、晴れ晴れとした表情をしている。卒業式で、これに勝る喜びはない。


 卒業後の進路もそれぞれだ。
 大学に進学するもの。専門学校に進学するもの。企業に就職するもの。家業の手伝いをするもの。もとから務めていた企業に、今度は高卒として採用してもらうもの。卒業後、結婚するもの。出産を控えているもの。
 皆それぞれ、未来への道を歩き始めているのだ。


 卒業していく生徒たち。その顔を、卒業生の呼名の間、ずっと眺めていた。


 この学校は、様々な事情を抱えた、たくさんの生徒が入学してくる。そして、様々な道に羽ばたいていく。
 それはきっと、来年も、再来年も、それから先の未来も変わらないだろう。この学校はそういう人たちのためにあるのだから。


 そろそろ、校長の式辞を述べなくてはならない。卒業生たちに贈る、最後の言葉だ。


             卒業生諸君。卒業おめでとう。

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