■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

卒業の日に思うこと 作者:快新平

第2回   金橋祥子の場合
 私は、今日、高校を卒業しました。私は今、58歳です。


 私は、金銭的な問題もあり、中卒で、学校を終えました。その後、家庭でやっていた農家を手伝い暮らしてきました。


 その後、お見合いで知り合った今の主人と結婚し、主婦となった私は、3人の子どもの子育てと、家事に奔走しながら、ささやかだけれど、幸せな毎日を過ごしていました。


 そんな私が、高校に行っていなかったことを初めて後悔したのは、1番上の息子が、第一志望の高校に落ちたときでした。高校受験の体験の無い私は、息子にどんな言葉をかけて良いかわかりませんでした。


 幸いにも、息子は、滑り止めで受けた高校に行き、そこで友人もでき、楽しい高校生活を過ごしました。そして、大学受験では、無事に第一志望の学校に受かる事ができました。


 しかし、私の心には、高校に行っていないことの後悔が、次第につのり始めました。


 息子や娘に、宿題を教えてやれない。逆に息子や娘に教えてもらうことが多くなる。


 このまま老け込んでいくのも、と思ったとき、成人した1番上の息子が提案したのが、私の高校入学でした。


 もちろん、最初は躊躇いや、迷いもありました。若い人の中に入っていく勇気も無かったし、第一、家庭の仕事もある。主人の定年も近い。学費だって、どうやって出そうか。


 そんな私の背中を押してくれたのは、子供たちと主人、そして、主人の母でした。
「母さんが高校出てないのは知ってるし、それを後悔してるのも知ってる。今まで俺達が散々世話になったんだから、学費くらい俺が何とかするよ。」
「母さんは、今まで十分頑張ってきたじゃないか。我慢する事はない。自分のやりたい事をやればいいんだ。」
「祥子さん。うちのことは気にしないで、いってらっしゃいな。うちのことなら私だってまだ何とかなる。遠慮はいらないよ。」
 温かい言葉に、涙が止まりませんでした。


 さすがにすべてのことを姑に任せるわけにもいかず、選んだのは通信制の高校。ここなら同じくらいの年代の人も多いと聞いたのも、選んだひとつの理由でした。


 高校生活はとても楽しく、レポートを提出するたびに、先生からの添削がとても楽しみで、週1回の登校日も、同年代の友人ができたおかげで、とても楽しく、また、意外にも、現役の高校生の年代の子とも仲良くなれたのは、やはり、この学校の特徴からでしょう。


 しかし、残念な事に、姑は1年前に他界しました。姑は私が高校に行きだしてからというもの、私と話をするのを楽しみにしていました。
 そんな姑は、私を見て、
「嫁に来たときよりも輝いている。」
と、口癖のように言ってくれていました。


 今日、高校の卒業証書を手にして、万感の思いが込み上げてきます。

 これから、卒業式に出席してくれた主人と、お墓参りに行ってきます。


 お義母さん、無事に卒業しましたよ。今の私は、輝いていますか?

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections