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風の辿り着く場所 作者:月瀬カヲル

第6回   第6話 スカーレットガール
ずっと暗がりにいるみたいな寝心地だった。
本当に疲れていたようだ。よく眠った。
長い間眠りについていたはずなのに、
周りが明るくないようだ。
だから、そっと瞳をあけてみる。
・・・暗い。俺は空の下で眠ったのでは…?
石造りの壁、冷たい床、独房に似た簡素なベッド、
そこに身を横たえて寝ている自分…。
ここ・・・どこだ?
そこらには屈強そうな大男達が静かに
自分と同じ様なベッドで眠っている。
牢獄にしては、自由そうだし、う〜む・・・

考えても仕方ないから、誰かに聞こうと立つ。
「お〜、早いお目覚めね」
場違いな明るい声が耳から心臓まで響く。
視線だけをあちらにやる。
白いシャツに桃色の髪のショートカットが引き立つ。
そのショートパンツは小さな外見に合うが、明らかにこの場に不似合いだ。
「いきなり変なところにいて、ビックリしてる?」
すごく軽いノリで話しかけられる。
「ああ…、なんなのさココ
 ていうか、あんたら誰?」
「…口悪いわね…いい身なりなのに…」
「さらわれたやつに丁寧な口聞くほど人間出来てないんだ」
「う〜ん、黙ってれば白髪美男子のかわいい子なのに…」
「かわいい子って、俺そんな歳じゃ…」
「17歳ならまだ若いわよ、カフィ君。意地を張るあたりかわいいわ」
「…なんで、俺の歳と名前知ってるんだ?
 てゆーか、あんたって俺より年上なのか?」
「・・・・笑って言わせておけば、随分な口を利くのね…
 誰がマナがガキみたいな女ですってぇ…」
「そこまで言ってない!そこまで言ってない!」
ていうか、なんか本気で怒ってないか?
周りの温度と重圧が上がっているような…
てゆうか、思ったことそのまま言っただけなのになぜ…
「君の命は握られてるのも同然なのよ…
 この荷物が目に入らないの?」
その手にあるのは・・・・俺のリュックッ!!?
なんであいつが?ていうか、待てっ!
ルビーの魔導石なんか持ち出してまさかッ!
「さぁ、よく燃えそうね…楽しいショーが朝から見れるのよ…
 しかも君の屑荷物でッ!!感激に狂喜乱舞しなさい…ッ!」
呆れと困惑と絶望でうちひしがれそうです…。
だから、俺の名前から何まで知ってたのか…
ていうか性格変わってないか、このガキ?
「だぁれがガキですってーーー!」
なんか心読んでるしーー!有り得ないーーー!

「そこまでにしとかないと大人気ないぜ、姉御!」
「あ・・・ごめん。ついカッとなっちゃって…」
気がつけばさっきの騒動で寝ていた大男たちが
起きて二人の周りに集まっていた。
「姉御も人が悪いよなぁ、早く説明してやんなよ。
 こいつがかわいそうじゃねぇか」
ていうか、姉御?てことはつまり・・・
「で、自分の置かれてる立場やっぱ分かってないでしょ?」
「う〜ん、さしずめ盗賊団の女首領にとらえられた善良な旅人か?」
「うん、物の見事に勘違いしてるわね。って、誰が女首領よ!
 ・・・まぁそう勘違いされてもしょうがないかも…」
その周囲では大男達がガッハッハッと声をあげて笑っている。
「もう、あんたら何笑ってるのよ。
 そもそもマナのことを姉御なんて呼ぶあんたらが悪いのよッ!」

…いつまで漫才は続くのか…そして、俺の身は大丈夫なのか…?
「で・・・、いい加減いつ説明してくれるの?」
頭をかきながら、不快な態度を示す。
「あぁ、ごめんね。ちゃんと説明するから」
どうやらようやく身辺説明が始まってくれるらしい。
「簡潔に言うとね、ここはレジスタンスのアジト。
 彼らはマナのレジスタンスに加勢してくれてる方々。
 つまりは、中央反対派で転覆やっちゃお〜てわけね」
・・・どっちにしろ蛮族の類?けど幾分まともか…
「話は分からないでもないけど、
 それだとちゃんとした民衆組織みたいだね」
「そうよ、何を疑っているの?」
「いや、それだとかなり説明がつかないことがあるんだけど…」
「えっ、何よ?」
「@何で俺がこんなところにさらわれたのか?
 Aなぜ俺の荷物をあんたが持ってるのか?」
そういうと、あちらは少し考え込む仕草をしてすらすらと答える。
「@周囲の旅人を不安定な治安から保護するため
 A・・・・・・・・・・・安全のため よ」
今、Aの返答にすっごい手間取ったような…
「って、誤魔化す必要もないか。
 どうせ明かさなくちゃいけないわけだし。
 本当のこと言うとね…
 @戦力に利用できそうだから
 Aこちらの優位で脅迫するため」
・・・やはり、とんでもない立場におかれているらしい。
「えっと…つまりは俺の力を試して、場合によっては
 否応無しにレジスタンスに協力してもらうってこと??」
「理解がはやくていいわねー、流石秀才君だわ。
 うん、要はそうゆうことなの。少しでもいい人材欲しいからね。
 どーせそんなに急ぐ旅でもないんでしょ?
 てなわけで、早速君の実力を試させてもらっていい?」
「いいよ…、どうせ拒否権ないんでしょ?」
「ないけど、手抜きするとマナが火達磨にしてあげるから手加減しちゃ駄目よ。
 多分、予想だと君はマナとそれなり程度に戦えるはずだから」
姉貴がそういうと、周囲から「オオーー」と声が上がる。
「…この人ってそんなに強いの?」
目の前のチビを指差し、ギャラリーの大男Aに聞いてみる。
「姉さんは相当の使い手よ、俺たちが束になってもかなわないほど強いんだ。
 しかも本気の戦闘となると、普段はあんなにチャーミングでかわいいのに、
 まるで別人になって、『真紅の死神』の異名をほしいままに…おおぉぉぉ…」
世にも恐ろしいことを思い出して、大男Aはうずくまってしまった!
・・・って、そんなにすごいのかっ!
「ん?まぁ、それなりには強いと思うけどそんな怖いはずないわよ。
 じゃあ、外にあがってさっさとやろっか?ギャラリーも可よ」
再び周囲から「オオーー」という歓声。
そんなわけで、ガタイのいい兄ちゃんたちに「あんちゃん頑張りなよ〜」と
背中をドンドン叩かれながら、外の方へ押し出されてしまう。
…街のレジスタンスのはずなのに、この荒くれ集団っぷりはいかがかと思う…

「そういえば自己紹介がまだよね。
 名前はマナ・スィスクル。今はここで指揮をとってるわ。
 一応のリーダーってところね」
「へぇ。で、俺の紹介はいいよね…」
「そーね…。もうおおよそは知ってるし。じゃ、てっとりばやく始めましょうか」
そう言って、目の前のリーダーさんは空手で余裕で構える。
「とりあえず、かかってきて。先手は譲るわよ」
なめられてるのか、試されてるのか。
「壊縛ッ!」
軽く様子見させてもらおうか、こちらも。
「双牙-クロス・リッパーッ!」
敵の真正面へ交差する風の刃を放つ。
「へぇ、なかなかね…」
それを単に速さのみでかわされる。
「次はマナの番ね、壊縛ッ!」
解放の言葉を口ずさんだ瞬間、彼女の手には長身の剣が握られていた。
大きいが、扱いやすさに長けた汎用的なバスタード・ソード。
華美なつくりでは決してないが、その柄に
埋め込まれた大きなルビーは上品そのものだ。
「いくよッ!」
真正直に突っ込んでくる。身のこなしが良く、大剣をなんなく使いこなす。
それが無駄のない動きでこちらに振るわれるッ!
グン!と。風を巻き込む力強さ。
跳躍でかわすが、相手のほうが素早さでは勝っているだろう。
「身のこなしがいいけど、それだけじゃ勝てないわ」
次々と剣が振るわれ、かろうじてかわしていく。
その筋に迷いはなく、しっかりとした力が込められている。
「さっさと攻めてきなさいよ」
そろそろ彼女の太刀筋も読めてきた。
こちらの行動により反撃の意を示す。
魔力を練りつつ、相手の懐に飛び込みみぞおちを深く突く。
「グッ…」
うまく相手の予想外をつき、ひるませる。
「風波-エア・ウェイブ!」
そして、至近距離から衝撃波を放つ!
この上ない感触で成功し、敵は綺麗に後方に飛ばされ着地もままならず、
背中を地面にうちつけ、苦しい声を漏らす。
しかし、すぐに立ち上がりこちらをにらみつける。
「…やるじゃない。そろそろ本気でいくんだから」
明らかに彼女の勢いが高まり、殺気を帯びる。
…てゆーか、実力を試すだけのはずなのにいつまで続けるのか…
こちらへ駆け出す彼女にこちらは間合いをとりながら、
真空波を放ち牽制するが、最小限の動きでかわされ、その勢いは留まらない。
「空烈牙-ウインド・ブレイドッ!!」
だから、とびきりの魔法をお見舞いする。
「ッ!」
これは避けきれないと悟り、彼女は剣をかざし集中する。
「ハッ!!」
純粋に魔力を放ち、威力を中和させようと試みる。
が、その真空波を殺しきれないッ!
「・・・っ!」
胸のあたりに傷を負い、血がにじんでいる。
「とんでもないわ。これほどまでに楽しませてくれるなんてね…」
あれだけの傷を負いながらも、彼女の戦意は全く衰えない。
むしろ、その眼光は新たに炎が宿ったようにも錯覚させる。
「ここまで熱くさせてくれたあなたに相応の火傷を返すわ…ッ!
 炎よ…、このつるぎに宿れッ!!」
刀身が赤みを帯びて、炎を纏う。
陽炎がその熱気をこちらに訴える。
「あぁぁッ!!」
声を荒げて、赤い刃を携えてこちらへ果敢に駆ける。
「真紅の死神ね…、そっちこそとんでもないよ…
 風波-エア・ウェイブ!」
一旦距離をとらせようと、魔法を放つ。
しかし、既にその動作は見切られていた。
どんな速さでかわし、どんな早さで見切ったか。
瞬時に真横から彼女はこちらに迫っている!
「グッ…!!」
なんとか身を翻して、まともに食らわずに済んだが、
炎を帯びた太刀は、さっきとはまるで勝手が違う。
その軌跡はまったく読みにくく、広い。
胸に火傷を負うが、痛みにひるんではいられない。
「風よッ!」
今度こそ衝撃波で吹き飛ばす。
「接近戦だと吹き飛ばすしか能がないのね、重戦士相手ではそれじゃ駄目ね…
 火球-ファイヤー・ボールッ!」
爆炎の込められた紅玉が放たれる!
それを風で軌道を逸らし、避ける。
爆発が巻き起こり、地面が深く抉られる。
遠距離からの攻撃ならば逸らせるが、接近戦では確かに不利は否めない。
「そろそろ終わらせてあげるわ…」
確かにそろそろ魔力も限界に近い。
早く勝負を決しなくては…
逃げて様子を伺っている場合ではない。
敵の攻撃を封じる一撃を…
再び敵が迫り、こちらに斬撃を加えようとする。
炎の太刀ではかわすのさえ困難だ。
「もうそっちは弾ギレかな?なら一気に死んでちょうだい」
相手の炎気がさらに増す。
その意識集中の瞬間を見計らい、足元に真空波をはなつ。
「クッ!」
切り傷を負わせる、これで少しは動きが鈍るはず…
「炎一閃-バーニング・ブラスト!」
直後、至近距離から剣から炎が放たれるッ!
避けられない、受けきることに専念するしか…
鍵をかざし、残りの魔力を全て集中する。
…ッ!相殺まではできない…ッ!
両腕に深い火傷をおおう…。
もうこれ以上の戦闘は・・・
「マナの勝ちよ、サヨナラ…」
首に触れる高温を保ち続ける切っ先。
負け・・・か・・・
ドドドドドドドドドドドドド・・・ッ!
曖昧になりかけた意識の中で、
大男達が彼女に突撃するのを確認する。
そして、あれよあれよとこちらも担がれて運ばれていった。


目を醒ますと、光の中にいた。
これは魔方陣…?あれほどの火傷がもう癒えてる…
「あれ?目覚めるの早いね〜」
顔を上げると、先ほど殺しあった相手がいる。
「さっきはごめんね〜。つい本気になっちゃたんだ…」
「あぁ…、俺も手加減してられなくてつい…」
「あのでっかい真空波のあたりからもう本気になってたわ…
 てゆーか、あれってヤバくない?生身の人間が受けたらスッパリ切れちゃうよね…」
「試したことはないけど、多分そうだね…
 手加減は苦手なんだよ…そっちもそれから容赦ないし…」
「本当に加減できなくてごめんね〜、君もよく死ななかった!」
そう言って、手を取られて強引に握手させられる。
「実戦経験ないようだけどあれだけの魔法使えれば合格だわ。
 協力よろしくお願いね!」
手を振りながら、拒否権のない契約。
「はいはい。…ところで隣で誰かどなってるけどいいの?」
彼女に説教しようと食ってかかっている紳士を指差す。
「あ〜、ジートはいつものことだから。
 でも今回は流石にヤバかったから叱られてやろうかな。
 また夜にでも会いましょう。もう少し休みなよ」


で、夕飯と呼ばれて来たものの…
なんなんだこの豪勢な食事と荒くれの群れは…
「こんな食事…なんで…?」
「これからあんたが死にに逝く前にたっぷり太らせておくんだよー」
「おいおい、あんたんちの豚じゃねーんだからよー」
大男Bと大男Cはブラックジョークを飛ばした!
しかし、カフィはなんか例えがリアルで笑ってられない!
けどまぁ…、仲間として歓迎されてるってことなんだよな…。
お腹をすかせていたし、彼らの祝宴に加わることにする。

・・・結局彼らは単純に騒ぐ口実が欲しかっただけなんじゃないだろうか?
さんざんもてはやされて、何となく気疲れしてしまい、
酔った振りで抜け出して夜風にあたる。
そこで、ただ風を感じていた。
「ああいう場は嫌いなの?」
「どちらでもないけどなんか疲れた」
気分が悪い振りをして出てきたのに、姉御さんは流石に鋭い。
「お酒とか楽しめないんだ?」
「まずいし、飲んでもあんまり変わらないから」
「子供ねー、あーゆーのは雰囲気を楽しむものよ」
「子供子供って…、あんたは何歳なの?」
「レディにぶっきらぼうに歳を聞くなんてダメよ」
「へぇへぇ」
その反応が気に入らないのか、う〜んと唸って告白する。
「私は22歳よ。ね、君に比べたら全く大人じゃない」
「へぇー、そうだね」
「あれ?せっかく教えてやったのに浮かない顔ねー」
「いや、なんかフツーに年上だからからかいようがなくてね」
「やっぱ性格悪いのね、あんた…。あー教えて損した。」
そう拗ねているが、騒げて上機嫌らしく口調は弾んでいる。
「そういえば、あの魔方陣ってなんなのさ?」
「あー、あの重態寸前の君を運び込んだやつ?
 あれはお姉ちゃんが作ったヤバイ魔法陣よ。
 消耗式だけど、ほとんどの傷なら治るくらいスゴイんだから」
「ふーん、やるねぇー」
「でしょー、普段ボーッとしてるけど回復呪文だけは凄いんだから」
「でも姉さんなんて全然見かけなかったけど…」
「ただいま、とらわれの身やってるのよ」
おどけたように言っているけど、彼女の声は既にあまり弾んでない。
「作戦失敗でもしちゃったの?」
「まー、そんな感じよ。もともとあっちがリーダーやってたんだから」
「それってかなりヤバイんじゃないの?」
「まーねぇー、もうあちら様お得意の公開処刑の日取りも決まってるし、
 下手に歯向かったりしたら、殺りかねないくらいヤバイんだから」
「…それって、もう動けないくらい塞がってない?」
「けど、荒くれ達は士気が高まって大変なのよ。
 お姉ちゃんは『姫さん』って呼ばれて大人気だったからね。
 マナは『姉御』なのにこのギャップはなんなのよ…
 で、そんな姫が有志を集ったからこんなに荒くればっかりなのよ」
自業自得な話に笑ってしまいそうになる。
そんな風に話す彼女の横顔には懐かしさの温かみがあった。
「親しんでるんだね、姉さんのこと」
「そーよ。家族ってのは変わらないの。だから大事にすることね。
 変わるとしたらそれは失うときくらいなんだから…」
彼女らしくないしおらしい発言。だけど、その瞳は強い。
彼女は諦める気なんてさらさらないんだ。
・・・俺と同じように・・・
「今回の作戦はねぇ、少数精鋭で姫さんを救出するのよ。
 そうじゃないと大人数で反乱なんてできないからね。
 そんな任務に協力してくれませんか?」
「・・・いーよ」
そうぶっきらぼうに言って、差し出された手に
今度はしっかりと握手をする。
「あんたは筋があるから、結構イケルと思うのよ。
 援護ならかなり役立ちそうだしね」
「はいはい、適度に頼りにしてくださいな」
「あれ?なんか拗ねてない?もしかして負けて悔しい?」
「あー、悔しいさ。あそこまで追い詰められるなんて初めてだ」
会話ではあちらが上手だから、しょうがなく白状する。
「ははっ、でも君かなり出来るほうだしいい感じだったよー。
 荒くれのみんなもあのチビは凄いってしきりに誉めてたし。
 けど、なんでシンボルに鍵なんて使ってるの?
 見たところ、あれ全然魔法に関係ないし戦闘能力ないじゃない」
「・・・あれは単なる記念品だよ、愛着あるだけ。そんなもん」
「ふーん、じゃあそうゆうことにしておこっか
 じゃ、てなわけで明日に詳しいこと話すからじゃね♪」
「今日は無理?」
「マナはこれでも酔ってるのよ、真面目な話なんて本当はしたくないの。
 まだまだあいつらと飲んで騒いで食って寝るんだから。じゃねー♪」
宴会へとショートカットをなびかせて駆けていく。

・・・そんなわけで明日だそうだ。
なんかかなり振り回されてるけど、とりあえず明日から頑張ろう…

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