「忘れて欲しかった。けれども、忘れても欲しくもなかったんです。」
俺はポツリ、ポツリと話した。
「俺が、織夜に言った言葉を・・・織夜が俺に言ってくれた言葉を、 織夜と出会えて、俺の為に笑ってくれた、俺の為に泣いてくれた、だから俺は・・・」
織夜の顔が少し強張った。強く腕を締めすぎらみたいだ。 織夜は何も言わない。きっと覚えてはいない、あんな幼い子が責任を感じていたとは思わない。 その時は感じていたかもしれない、けれど時が経てば、忘れてしまうから。
「先輩・・・・オレは先輩とどこかで会った事があるんですか?」
「昔に。覚えていないですか?」
どこか諦めが混じったように俺に質問してきた織夜。正直言うと、少し驚いた。 あんなに残酷な言葉を吐き捨てた俺のことを覚えていたなんて・・・。
「・・・・・お・・・覚えてません・・・・。」
「そう・・・・・ちょっと複雑な気分です。」
期待していた自分がどこかに居た事は認める。 だから、自分でも自分の顔が歪んでいく事が解ってしまった。 そんな俺を見て、織夜も眼を見開いていたし、間違いなく今の俺は、変な顔をしているだろう。
「どうして、オレなんですか、先輩?」
「大切だと、想ったんです。」
「大切だと、想ったんです。」
・・・・・・・・なんでかなぁ?先輩が物凄く乙女チックに見えるのは・・・。 苦しそうな顔をしたと思ったら今度は、頬が少し赤いし。 さっきまで強く締め付けられてた腕も、今は軽く引っ張られるだけでそれほど痛くない。
「先輩はオレに何を見せたいんですか?」
これ以上、何でオレなのかという事を聞いても、答えてくれなさそうだから さっきから気になっていた事を聞いてみた。
「・・・見せたいと言うより、聞かせたい、ですかねぇ・・・。音楽室にあるんです。」
夕暮れは終り、辺りは暗くなったが、流石と言うか私立は設備がイイ。 校舎の中も外も灯りがちゃんとある。 さっきは時間が過ぎるのが早いと思ったのに、今は逆だ。 コイツと何時間も、音楽室へ向かう廊下を歩いているような気分になる。 居心地が悪い訳じゃないけれど、何故だか引っかかるものがあるんだよな。
「先輩って・・・・大切だと想ったら、男でも平気で恋人にするんですか?」
って、何聞いてんだよ、オレ。とうとう焼きが回ったかも・・・。
「一緒にいたいからです。友人よりも、もっと近くに居て欲しい。からですね・・・。」
うわぁ・・・真面目に答えてるし・・・・・信じられないよ、本気なんだやっぱり。
「いきなり家族になって欲しいなんて、ソレこそ引くでしょう?」
・・・・え・・・?カゾク?・・・華族・・イヤイヤ、家族?? それは度々のつまり、将来的には・・・みたいな展開が・・・・
「プロポーズ・・・・・・・・・」
オレの口からポロリと本音が出てきた。
「ははは・・・・まさか、男同士では無理でしょう?俺だって健全男子ですから。」
呆れながら笑った。コイツ、さっきオレが言った言葉、根に持ってんのか? いやそれよりも聞き捨てなら無い事がある。 健全男子?じゃぁ、オレが女と知ってて告白してきたのか?! いや、でも、待てよ・・。 男同士っていってるしコイツはオレの事本気で男と間違えてるのか? 間違えてくれてればイイんだけど・・・・うぅぅ判らん・・・・・・・・。
首を捻りながら考えるオレと、視線を合わせようと首を少し上げたコイツは、笑っていた。 今度の笑いは呆れでは無く、どこか切ないような、哀しいようなでも安心したような そんな笑い方をしたのだ。 オレは不覚にも、数秒固まった。断じて見惚れていたのではない! ただ、珍しいと思っただけなんだ!
そんな事を頭の中で考えているうちに、音楽室へとついた。 この中でいったい、コイツは何をするきなんだろう?
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