俺の力説で、なんとかちとせ父を説得し且つ誤解も解いておいた。 そして、一通り話をして今日のところは時間もないことだからという理由で帰らせてもらえるらしい。 そんな訳で、ちとせ父と扉をくぐってみればあら、ビックリ。
修羅場ってやつに遭遇してしまった。
いや、殺し屋やってた時にも死線をくぐってきた事だってあったが コレとはまた別の雰囲気だったからつい・・・・後ずさってしまった。
ちとせが本気で思いつめていた事を初めて知った。 一緒に居ればそれでいいやなんて考えは、ガキのする事だと今更気付いた。 俺は本当に愚鈍だ、ちとせの事をガキだとか言っていられないくらいのガキだ。 しかも文末に大馬鹿者と加えられても反論できない。 苦しい思いを抱えたままちとせを促していたら 爆弾を投下された、ちとせ父によってだ・・・・・
「ところで早乙女君、私は娘に似た孫が欲しいのだ。」
爆弾投下後の反響は何と言うか沈黙が下り立ったって、感じだ。
「あ・・・貴方、本気で言ってるんですの?」
「と、と、と、と、父さん!!?血迷った事を!!!」
「おとー様・・・・・」
「----------------------」
榊崎婦人もとい、ちとせ母は引きつった声で夫に講義する。 ちとせ兄(しょーごっつったか?)は目を血走らせながら、叫ぶ。 ちとせ本人に到っては、目を大きく見開いた後、自分の父を尊敬の眼差しで見つめていた。 恥じ入っているのか、かすかに頬が赤い。 俺はと言うと、声にならない叫びを顔全体で現してしまった。 さぞや今、変な顔をしているだろう、周りのガードマン達が俺のほうを見て後ず去るほどだ。
「愛する我が子には幸せになってもらいたい。 親なら誰でもそう思うだろう。ちとせが心から望んだ事だし、私は反対せんよ。」
愛しい娘に、溢れ出さんばかりの笑顔を向ける、ちとせ父。 子供の意見を尊重するのはいいが、俺の意見は聞かないのか!? イヤ、別にちとせが嫌いと言ってる訳じゃないけど!こー・・なんと言うか、ふと思ってしまうんだ!
「おとー様・・・・ありがとう。」
父親の事を誤解していたらしいちとせは、素直に感謝の気持ちを述べた。 そして、一層俺に強く抱きついてきた。
「やった♪シザク私のお部屋に行こうねvvvvvv」
「「ち、ちとせ!?」」
俺とちとせ兄の声が重なる。
「頌護、いい加減妹離れしないか!全く、次期当主が嘆かわしい・・・ ああ!どうだろう早乙女君、婿養子に来ないかね?君なら立派に榊崎グループを担っていけるよ。」
ははははと高笑いもつけて俺に提案してきたちとせ父に、言い知れない脱力感が俺を襲った。 ちとせ母はまだショックから立ち直れていない。 ちとせ兄の方も、死刑宣告を受けた者同然の顔をしていた。 だって・・・なぁ・・・妹の交際相手が父親の下容認されたら シスコンの兄貴のできる邪魔なんてたかがしれる、更には次期当主の座のオプション付き。 へこまないヤツはいないだろう。俺ならへこむ。
「ちとせ・・・・お前・・・・」
「シザク・・・・」
しばし見詰め合う、俺はちとせの柔らかな頬に手を滑らせる。 横で、ちとせ兄が俺に殴りかかろうとしているが知ったことじゃない というよりも、ちとせ父がにこやかにちとせ兄を押さえつけている。 さっきの言葉といい、俺に協力する気満々。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フッ・・・・ 今し方、俺の脅し(説得)に身を縮めていた人物とは掌を返したような態度だな。 まぁ、いい。 ともかく俺はちとせに、俺自身の今の気持ちを伝えるべく顔を近づけた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・いひゃいひょ・・・」
俺の取った行動に、ちとせ母の顔は余計に引きつり ちとせ兄の顔は怒りから真っ赤になっていた。 ちとせ父は 「ははは、年の割に初々しい事だ。」 笑っていた。いいのかそんなので?
「ひしゃくぅ・・・いひゃいひょ・・・・はなひてひょぉ」
「面倒事に巻き込んでくれたお礼だ。この程度で済んだ事に感謝しろよ?」
「う”〜・・・」
「唸るな唸るな。」
俺は、ちとせの頬に当てた手で軽く抓った。勿論、ちとせの頬をだ。 十分満足したところで、俺は手を離す。
「いいか、お前はまだ未成年だ、その事をしっかりと自覚しろ。」 少し親父くさくお説教を言ってみたのだが、ちとせは口を尖らせながら言い返してきた。
「・・・もう結婚できる年は過ぎてるもん。」
「未成年は親の承諾ナシに物事を・・・」
「おとー様が許可してくださったからもう平気だもん。」
「付き合いには順序と言うものが・・・」
「今までの事は?あれも立派な恋人同士の付き合いだったでしょ。」
「・・・・・あー・・・・・・」
「ほら。足りないものなんてないじゃない。」
言葉に詰まる。 俺って情けない。ちとせ父と対峙した時の勢いは何処へ? 確かに、ちとせ父は協力的だ。 順序というものも何気なくこなしていた気がする。 後は、お互いの心の問題な気がするし、ここは肯定しておくべきだろうか・・
「あ!」
「ん?」
ちとせが何かに気が付いた、何だ?不味い事ではないようだが・・・。 その証拠に、俺にキラキラと視線を向けてくる。 でも、俺は何となく嫌な気がしてきた。
「な・・・・なんだ・・・・?」
一応聞いてみる。 ちとせ父と兄も気になるようで耳を傾けている。 固まっているのはちとせ母だけだ。
「既成事実を作れば、誰も文句は言えないわ♪ だって、子供に罪はないんだし。」
ちとせの爆弾発言。 そんなところまで父親に似なくていいと切実に思った。 その後の部屋の中は怪物が暴れまわったような惨事だった。 もっぱらちとせ兄が俺に向けて物(机やらテーブルやら、ソファーやら・・・)を投げてきた。 ほとんど避けたけどさ。 何処から取り出したのか、ちとせ母が日本刀を持ち出してきて、俺は危うく殺されかけた。 逃げ切ったけどね。 ちとせ父は少し固まったが、苦笑しながら 「まぁ、孫が早くできていい事だ」 なーんて言うものだから、更に俺へ向けての攻撃が激しくなった。 迷惑親子め!!
そして、俺とちとせは変わりなく一緒に居る。 いや、変ったと言えば 俺が小説出版会社の編集部局長に格上げされ 榊崎ちとせが早乙女ちとせになり チビ共が増えた。 俺に似なくて良かったと思う反面、母親似なので将来が心配だ。 時々ちとせ兄夫婦(もっぱら旦那(ちとせ兄)が乱入してくる。)と ちとせ父夫婦(義理父達)が押しかけてくるが・・・・まぁ異常はないだろう多分。
昔の自分が嘘みたいに思う時がある、けれど昔があったこらこそ今があるんだと思う。 そう思い、今の自分をかみ締めている。 こういうのを、幸せと言うんだろうな。
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