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彼女の動機 彼の事情 作者:isaku

第5回   誤解→和解?→多分、不愉快
『S-エス-』---十数年前に現れたアジア系の殺し屋。
裏の世界ではさほど気にされるとは思わなかっただろう、殺し屋など吐いて捨てるほどいるのだから。
しかし、ソレは見事にハズレた。

世界的に有名なテロ集団の幹部を三人。
不正、不祥事を起こし税金泥棒と言われていた、とある外国政府の役人を一人。
あるマフィアの一グループの主要メンバー。
そして、『S』の殺しを依頼した依頼主及び雇用された殺し屋の二人。
彼ら全てを抹消してきた。

『S』を有名にさせた決め手は、『S』を殺そうとした殺し屋だ。
殺し屋は『Dog』と呼ばれ裏世界では五本の指に入る凄腕だったのだ。
ソレが、返り討ちにあった。ともなれば、『S』の情報は裏世界の情報網を一時賑わせた。
『S』がどのような方法で『Dog』を消したか判らない。けれどソコから『S』の存在が確定された。


俺は頭の中で、昔自分がしてきた事を整理していた。

えーと・・・殺し屋やろうとか思って意気揚揚と日本を離れたのが十数年前で、
ある程度、金銭的に溜まってきてもうやめようかなって時に
榊崎彰光・・・・
当時は手段を選ばずやりたい放題でのしあがて、色んなヤツから怨み買ってたんだよな。
そんで、ちとせ父の暗殺依頼がきて、でも逆に俺のほうの依頼主が
ちとせ父の雇った殺し屋にヤられて、このまま依頼を遂行しても金がもらえないからってんで
あっさり身を引いたんだよな、俺。
それから、日本に帰ってきて怪しまれないようにリーマンになろうと決意し
結局は、小説出版会社の編集部って言う絶妙なポジションに収まったんだよな?

「よし・・・・・。」



「何が「よし。」なんだね?」


俺の顔色を伺いながら聞いてきた、ちとせ父。
・・・・・・なんつーか・・・・・やり手の、榊崎の最高責任者なのか?
拍子抜けするくらい、小心者だな、オイ。


「まず、俺はアンタを殺す気は全く、これっぽっちも思っちゃいない。」


眉を顰めるな!疑うな!!正直な話、殺しても何の特にもならないんだよ。
金貰える訳でもないし、あっても使えないから困るけど・・・金は有り余りすぎなんだよ、もういらねぇ・・・。
それに、ちとせに怨まれそうだし。これが一番の理由なきがする・・・・。



「いいか、これから言う事を一番理解しろよ!!?」



どすの効いた声でちとせ父に言い聞かせる。




       「俺は、ちとせを傷物にした覚えは、まっっっっったくない!!!!!」




言いがかりだ!心外だ!!と顔を顰めて思いっきり否定しておいた。
確かに俺はちとせと一緒にいたさ、いたとも、過ごしていたさ!
世間で言う、同居をしているさ!!けどな、いかがわしい事は一切していない!!
時々は、ああ可愛いなとか、抱き心地いいなぁとか、娘みたいだとか思うけど!!

「しかし、二人きりで同棲していたら、若気の至りと言うモノが起こっても・・・・」

「同棲じゃない!同居だ!!若気の至りなんぞ、とうに過ぎた。」

俺の中で若気の至りっつったら、殺し屋になったことだろ。
無茶に無茶を重ねて、無理矢理の売り込みから入ったんだよなァ・・・
今思い出すと、本当に青かったなぁなんて、茶を啜りながら思い出話ができる気がする。

「いや、でも『S』はまだまだ若いし・・・」

小心者かと思えばやけに食い下がってくる・・・・
いや、ちょっと待てこの展開はもしや・・・
俺は、自分の手を頬に持っていった。

「サカキザキ アキミツさん、いったい俺をいくつだと思っているんですか?」

その状態のまま、俺はちとせ父に尋ねた。
首を傾げながら答えようとするのは、ちとせと似ている。
うん。親子みたい、ちとせは父親似だ。
ってことは、ちとせ兄の方は母親似・・・・それとも突然変異?

「二十代では?この書類では三十代後半と載っているが、書類不備があったんだろうね。」

顎に手を当てちとせ父は、ふむ、と考え込んでいるようだ。
以前に自分の命を狙った男が実はカナリの若者だったなんて考えてるのかな?

「ああ・・・・・やっぱり・・・・・。」

今さっきまでの怯えは何処にいったんだか・・・・。
ちとせ父は「まだ若いだろう?」とにこやかに、俺に同意を求めてくる。
俺のあまり当たらない勘がカコンと音を立てて当たった気がした
ふ・・・・やはりな・・・・
俺の童顔は相変わらず健在のようだ・・・・・・チクショウ。



「俺は今年で、三十八になりますよ。」



俺とちとせ父のいた世界が止まった。(特にちとせ父の方。)
う〜ん嫌な響だ。そして、嫌な沈黙だ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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